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リアクション
第1章 夏だ! 湖だ! バカンスだ! 1
ざっぱあぁぁぁぁぁんっ!
ヴァイシャリー湖にポムクルさんが飛びこんだ。単なるポムクルさんではない。スイマーなポムクルさんだ。
スパッツみたいな身体にフィットした水着を身につけて、ゴーグルも着用している。クロールで泳ぐその姿は圧巻の一言。ズバババババっ! とスイマーポムクルさんは泳いでいた。
一方、スイマーになれないポムクルさんもいた。
そんな彼らは、浮き輪にきゅっとつかまって水におびえている。ぷるぷると震えるポムクルさんに、白いパレオ付き水着のリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が水の克服方法を教えていた。
「大丈夫よ、この浮き輪に掴まっておけば、なにもおぼれることはないから」
とは言うものの、ポムクルさんはなかなか水に顔をつけられないでいた。
リリアはその姿に思わずキュンとなる。自分を律してはいるが、ちょっとでも気が緩むと抱きしめたくなるぐらいだった。
(ダメよ、ダメダメ、リリア……こんなことぐらいで自分を見失っちゃ……)
リリアは自分に強く言い聞かせた。と、バチャバチャという水音と一緒に、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の声がそばを通ったのはそのときだった。
「はい、ワンツー、ワンツー。そう、上手だよー」
黒いセパレート水着を身につけるレキは、他の浮き輪にしがみつくポムクルさんに泳ぎを教えていた。
彼女が教えるポムクルさんは、まだまだ浮き輪は必需品であるが、バタ足ぐらいは出来るようになっていた。もちろん、顔を水につけるのはとっくに克服している。
リリアの教えるポムクルさんの闘争心に火がついた。それはリリアが対抗意識を燃やしたのと同時で、二人の目線がピッタリ合った。
「こっちも負けてられないわよ! ポムクルさん!」
「なの、だーっ!」
ポムクルさんは一大決心して、ばしゃっと水に顔をつけたのだった。
一方、浜辺にいたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はウォーターバタフライたちに芸を教え込んでいた。
「それ、そこでターンだ!」
水着にパーカー姿で指示を出すエースは、さながら水族館の飼育員のように見えた。
透き通るような湖の中で舞うウォーターバタフライたちは、エースの指示に従ってくるっとターン。それからダイナミックに水面をジャンプし、もう一度バシャンッともぐった。
「なのだー! だーだー!」
一緒に泳いでいたポムクルたちもはしゃいでいる。
もちろんポムクルさんたちはウォーターバタフライを見るのも初めてで、ましてや湖で泳ぐことそのものが初めてだ。
ウォーターバタフライたちの動きを見て真似しようとするポムクルもいて、浮き輪の上に立ったポムクルは、おっとっとっとっ、とよたついて転げてしまっていた。
泳ぎに少しは慣れてきたレキの教えるポムクルも、そこに混じっていこうとする。
レキはそれを微笑んで見ながら、ふときょろきょろと辺りを見回した。
「あれ? そういえばミアはどこに行ったんだろ?」
ミア・マハ(みあ・まは)はレキのパートナーの幼女魔女である。
と言っても、実年齢は相当なところまでいっている。見た目と年齢に明らかな差が生じているのだが、本人は「大人だ」ということを公言してゆずらなかった。
そのミアは、浜辺にいた。
黒ビキニにサングラス。すっからかんの胸の女の子が、お母さんの水着を借りてきて背伸びしているような状態だった。
「ミアー……なにしてるんだよー……」
レキは呆れながら声をかける。ミアはキランとサングラスを光らせた。
「決まっておろう! 見た目は幼女でもわらわはピチピチの●●●歳!(本人の名誉のため、伏せ字でお送りします。ご了承ください)今年の最新ビキニで、男どもの視線を釘づけじゃ!」
「えー、でも――」
レキは浜辺を見た。若い男どころか、誰一人ミアに注目していない。
むしろ一生懸命大人ぶる子どもを見て、微笑ましそうにくすくす笑うほどだった。
「なのだー……」
ミアの両隣にいたポムクルさんたちも、やれやれと肩をすくめて憐れんだ声を出す。
「ええぇい、うるさいわ! おのれらみんなまとめてこうしちゃるー!」
「な、なのだーっ!?」
ミアは怒りにまかせてポムクルさんたちを浮き輪にぎゅうぎゅうに詰め込んだ。
「そりゃあ水上メリーゴーランドじゃー!」
ぶんっ、と投げられた浮き輪は湖の上をぐるぐる回りながら飛んでいく。
「なのだあぁぁぁぁぁ!?」
ポムクルさんたちの悲鳴が、ヴァイシャリー湖に木霊する。
「ひどい……」
呆れるレキに、ミアは湖に向かった絶叫で答えた。
「夏のバッキャローっ!」
「…………」
魔女も大変だなぁと、レキは思うのだった。
●
さて、ところで――。
ヴァイシャリー湖畔には、まるで海のように大小さまざまなお店が軒を連ねている。
いわゆる屋台や海の家といった店が多く、夏にふさわしい食べ物やデザートを販売していた。
「おばちゃん! ラムネ一つ!」
ラムネ屋もその一つで、
シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)はさっそくラムネを買いにやってきた。
夏と言えばやはりラムネである。しゅわっとした軽やかな炭酸と夏らしい清涼な味。これを味あわずしてなんとする、とシャウラは思っていた。
「おーい、ナオキ! おまえもいるかー?」
シャウラが声をかけたのは、
ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)だった。
彼はシャウラのパートナーで、ハイスクール時代からの同級生でもあった。
そのナオキが歯切れが悪そうに言う。
「ああ、いる。いるが……」
「どうした?」
「……あれ見てみろよ」
ナオキの視線の先にいたのは、複数のポムクルたちだった。
ただし、普通のポムクルではない。みんなお手製のバトルスーツに身を包んだ姿で、メタリックなゴーグルも被っていた。
宇宙刑事ヴァイシャスのコスプレだった。ヴァイシャスというのはここ最近ヴァイシャリーで人気の特撮子ども向け番組で、どうやらポムクルさんたちもその魅力にどっぷりハマっていたようだった。
そしてここにも、宇宙刑事マニアの男が一人。
「うひょー! すげーぜポムクルども! クオリティハンパないな!」
シャウラはラムネのことをすっかり忘れて、ポムクルさんたちに駆け寄った。
「おまえら全員、宇宙刑事ポムクルか!?」
「「「「「なのだー!」」」」」
ポムクルたちがいっせいに答える。
シャウラは思わず感動して、拳を握った。
「くう〜! イカス! イカスぞ! さらにこうすれば完璧だ!」
ポムクルたちの髪の毛を掴んで、アホ毛を立ててしまう。
宇宙刑事ヴァイシャスのトレードマークであるアホ毛アンテナも仕上がって、すっかり宇宙刑事ポムクルさんが出来上がった。
「この愛らしさとクオリティの高さ! なななに見せてやりたかったぜ……!」
口惜しく拳を握るシャウラである。
「おーい、シャウラー、ラムネはどうするんだー?」
注文した張本人がいなくなって、困惑するおばちゃんを前にナオキが呼びかける。
「おっとそうだった……おい、ポムクルども! お前たちもラムネいるか!?」
「いるのだーっ!」
宇宙刑事なポムクルたちはいっせいに手をあげる。
「おばちゃん! ラムネ追加! こいつらの分もな!」
わらわらわらと、ポムクルたちがシャウラの背中から顔を出したのだった。
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