空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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第1章 夏だ! 湖だ! バカンスだ! 7

 多くの男共の視線が発光の美少女エルキナの肢体に集まる中、水着姿の彼女が目の前を通り過ぎたにも関わらず、見向きもしない男がいた。
 インドア大好き、妹萌えをこじらせている水嶋 一樹(みずしま・かずき)である。
「いやぁ〜、いいねいいねぇ〜」
 ファインダー越しに狙うは西野 百合子(にしの・ゆりこ)。パートナーであり世界一可愛い妹天使だ。
「百合子ったら、あんなにはしゃいじゃって……ぐふふ」
 決して露出は高くないが、そこがまた良い! 水着姿を写真に収めるために、わざわざ防水防塵の高性能カメラを用意してきた甲斐があったというものだ。
「おにーちゃーん」
「うひょひょひょひょ、百合子ー♪」
 はじける笑顔でぴょんぴょん跳ねながらに手を振っている。死ねる、これは確実に萌え死んでしまう。
「百合子ー、って、ん? 何? 何?」
 こちらも手を振って応ええようとした時だった。なぜか女性の方々に詰め寄られていて天国……じゃなくて皆さんすごい形相で拳を振り上げていらっしゃる―――
「なっ、ちょっ、誰が盗撮だ! オレは百合子を撮っていたんだ! 誰がお前らみたいなババァ―――べぼらぁっ!?」
 おにーちゃんがふるぼっこにされてる……。カメラを持ったまま手を振ったと思ったら、女性たちに囲まれて……。
「おにーちゃん、大丈夫かな……?」
 あまりにも急な展開についてゆけずに、天使のような笑顔もすっかりフリーズしてしまっていた百合子であった。


 カメラを女性に向ける事でボコボコにされる者もいれば、そうではない者もいる。
「よぉし、そうだ、いいねいいねぇ」
 クロイス・シド(くろいす・しど)は言葉を投げ続ける。
 被写体であるケイ・フリグ(けい・ふりぐ)に向けて、息継ぎの時も忘れて息も絶え絶えになりながらに彼女に声をかけ続ける。
「少し歩いてみようか、ゆっくりだ、そうだ、ベストウォーキング、いいよ可愛いよ、もっといってみよう」
 近年のカメラは実に性能がよい。シャッターを一度押すだけで数十数百もの写真を撮ることが可能な機種も存在する。つまり厳密に言えばたった一度「はい、ちーず」と言えば「取り始めの時」を知らせる事はできる。極端に言えばそれ以降は無言でいようとも「写真を撮る」という行為に対しては何の不自由もないのである。
 しかしそれでも彼女に声をかけ続ける。全ては彼女が気分良く写真に映れるように、レンズを前で気持ちよく表情を作れるように。
 水着風メイド服を着用したケイが湖を背にポーズをとっている。グラビア撮影のモデルをしてくれないかと頼まれた時には少しばかり躊躇したが、今は引き受けて良かったと思えている。
「シド、楽しそう」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何でもない」
 あんなに生き生きとしてて楽しそうで。何だかこっちまで楽しくなってきちゃう
 ケイは水着のフリルを摘んで上げるオーソドックスメイドスタイルに加えて、大サービスの振り向きながらのニャンニャンポーズで笑って見せた。


 一緒におでかけ、と言ってはみても散歩で終わるか、デートになるかは当人次第の努力次第。
 せっかくヴァイシャリー湖に来たのだから熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)はデート気分で散策したい、と思い願い期待していたのだが―――
「すごいね、色んなお店が出ているのだ」
「………………」
 天禰 薫(あまね・かおる)の興味は早速屋台に向いていた。まぁ予想はしてましたけど……。
「はぁ……」思わずため息も零れて落ちた。
「孝高、孝高」
 裾を引かれて振り向くと、は何やら怪しげな缶を手にしていた。
「これ、ノンアルコールビールだって」
「ノンアルコール?」
「……飲んでみようかな」
「って、こらこらこら! 怪しい飲み物に手を出すな!」
「ぴきゅ」
 既に口を付けていて……というか何て言った? ぴきゅ?
「孝高、飲んじゃだめなのだ?」
「ダメだ、見るからに怪しいだろう」
「怪しい?」
 正直、缶の外観はそれほど怪しくはない。ゲルバッキー印も見あたらないし。
 それでも得体の知れない物をに飲ませるなんて、それはとてもとてもに我慢ならない。
「そんなものよりも……その……何だ、何か美味いものを食べに行くぞ!」
 美味いものを食べに行く理由を上手いこと言えなかった。
 単に誤魔化しただけのようになってしまった事が更に気まずくて、孝高の手をとって歩き出した。
 色気も雰囲気もあったものではないが、それでもようやくデートらしくなってきた……かな。


 夏だ! 湖だ! バカンスだ!  イェイッ!
 しかも今日はバイトも休み、思う存分に羽を伸ばせる。
「行っくよ〜」
 羽織っていたTシャツを脱ぎ捨てて『パラ実水着(女子)』姿を披露する。次百 姫星(つぐもも・きらら)はテンションMAXで湖に飛び込んだ―――
「……ガボボ……ガホッ、ガボガボッ……」
 わずか2秒で溺れてしまった。忘れてた、そういえば昔から泳ぎは苦手だったんだ。
「いや、それ苦手ってレベルじゃないだろ」やれやれ、と鬼道 真姫(きどう・まき)が腕を掴んで引き上げた。見事惨めに溺れていたが、水を少しばかり飲んだだけで済んだようだ。目を離さないでいて正解だった。
「ほら、浮き輪。持ってきな」
「わ〜い、ありがと〜」
「あんまり離れるなよ、助けに行けなくなるからな」
「だいじょーぶだよー、浮き輪があるもん」
 あるもん、じゃねぇ。それでも溺れそうだから言ってんじゃねぇか。
「わ〜い、バシャバシャー。わ〜い、バシャバシャー」
 そんな楽しそうな顔するなよ、何も言えなくなるだろ、ったく。
「おっ、良いもん見っけ」
 その辺でプラプラしてたポムクルさんをつかまえて姫星の元へ連れて行った。
「わ〜い、ポムクルさんだー、一緒に泳ぎましょうよ〜。楽しいですよ〜!」
 あっさり仲良くなる辺りはさすがと言うべきか。まぁでもこれで少しは安心できるかな。どこから持ってきたんだか、ポムクルさんもしっかりちゃっかり浮き輪をしてることだし。
「さてと、あたしも楽しませてもらおうかね」
 実に綺麗なフォームの飛び込みからダイナミックなクロールへ。
 水の中での羽休め。真姫のバカンスは遅れてようやく訪れたようだ。