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リアクション
第1章 夏だ! 湖だ! バカンスだ! 12
静かで穏やかなひとときが、全ての人のテンションを上げるとは限らない。
木陰には居るが座ることもせずに、表情は優しく笑顔であるが、皆と一緒に遊ぶこともない。
シャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)は一人穏やかな表情で浜田 鬼麿(はまだ・おにまろ)とポムクルさんたちを見つめていた。さっきまで「かくれんぼ」をしていたはずに、今は皆で駆け回っている。「鬼ごっこ」にシフトしたのかしら。
「そういえばあの時も、こんな暑い夏の日だったわね」
ふと思い出がよぎる時も、心はちゃんと判別している。触れたくないこと、思い出したくない事には待ったをかけてくれるようだ。
まず思い出したのは「夫が亡くなったという知らせを受けた日」のことだった。
ただ一人、心から愛した人。パラミタ大陸に流れ着くより前の世界を共に生きた唯一の男性。
生きていたなら……今日も隣に居てくれたかしら。
「………………」
生きていたなら、その言葉が悪夢へと踏み込んでしまった。
夫が亡くなった時、ショックで我が子を殺してしまった。
流産だった。激情と悲しみと衝撃が心と体を放棄した。気付いたときにはお腹の子供は吐き出されてしまっていた。
「あの子が生きていれば……ちょうど鬼麿ちゃん……くらいの年齢になってた……わよね」
涙が溢れて止まらない。あの時も、それからも、数え切れない程に涙したのに。イジワルね、涙は枯れてはくれないのかしら。
「おーい!」
大きく手を振って鬼麿が呼んでいる。顔を拭って笑顔を作った。ダメよ、あの子に心配かけちゃ。
変わらぬ笑顔で手を振った。
静かな湖畔の涼しい木陰。元気に遊ぶ子供たちを見て涙する者も、ときには居るものだ。
「湖だー! レジャーだ! リア充だー!!」
湖を前に大きく叫ぶ。ハーフパンツ姿の夏野 日景(なつの・ひかげ)は大の字になって宣言した。
「あーそーぶーぞーぃ!!」
湖畔には美女はもちろん、ポムクルさんもたくさん居る。せっかくだから一緒に泳いだり、はしゃいだりしたい。
「よーし、ごまりん! イカダを持てぇい!」
「イエッサー! (キュッ」
深沢 ごまりん(ふかざわ・ごまりん)はコミカルな動きで縄を手に取ると、大袈裟なステップでイカダを引き始めた。
「ポムクルとやらには負けねーぞ。(キュキュッ」
なるほど、やはり女子の視線を意識してのことか。
「当たり前だ! かわいく振る舞ってお姉ちゃんたちにかわいがってもらうに決まってんだろ!!」
動機は不純だが、いつも通りだ。
用意したイカダは小さいから自分たちが乗るのは厳しい、乗るのはポムクルさんたちだ。
「…………っと、どうした? ごまりん」
一足先に水に入って待っていても、ごまりんは続いては来なかった。それどころか岸でソロダンスを披露していた。
「何してんのっ?! 早く来いよ!」
「イヤだねっ! 俺はここに居る!」
意味が分からない。
「そのイカダに彼らを乗せて湖を回遊するんだよ! 早くしろ!」
「ん〜、駄々をこねる俺も可愛いだろう? ねっ、お姉さ〜ん! (キュル〜〜ン」
ダメだ使えねぇ。
実を言えば泳げないから水に入らないだけなのだが、そんな事がバレたらきっと絶対にモテないだろう?
すでに水に入っているのにプラン通りにいかないし、いきそうにない。
結局日景は水から上がってイカダを取りに戻ったようだ。
一足先にポムクルさんと水遊びをしているのはアクロ・サイフィス(あくろ・さいふぃす)とシベレー・サイフィス(しべれー・さいふぃす)の2人だ。
少しは泳げるようになったとは言え、アクロは基本カナヅチ。ゆえに2人は浅いところを探して水に入っていた。
「ん〜〜〜〜、冷たくて気持ちいいですね〜〜」
シベレーが大きく背伸びをした。天気も良いし景色も良い、気持ちいいのは賛同するが 大きく背伸びは感心しない。
「というよりドキドキします」
「ん? 何か言いました?」
「いえ何も」
きっとシベレーは……いや多くの女性が気付いていないのだろう。背伸びは色っぽいという事に。
何の気なしにやっているのだろうが、男からしたらサービスタイム以外の何物でもない。
シベレーもほら、スカイブルーのビキニが肌に食い込んで、艶のある肌が一層に美味しそう……じゃない、一層に美しく。またほらそんなに大きく伸びたら、お胸がポロリ……じゃなくておへそがあくびをしちゃうでしょう。
「やっぱり可愛い♪ おいで〜」
ポムクルさんを抱き上げる。そのままユラユラと揺りかご、またはゆっくり回って笑い合った。
あんなに楽しそうなシベレーは久しぶりにみる。ポムクルさんと遊ぶ様子なんかを見てると、つい―――
「僕たちに……子供ができたら」
お母さんになったシベレーは、あんな感じなのかもしれない。きっと良い母になることだろう。
湖に遊びにきただけなのに。アクロは何とも幸せな気分になれたようだ。
「ふぁぁ、眠い」
木陰でゆっくり、ひと休み。アシュリー・クインテット(あしゅりー・くいんてっと)は眠い目をこすった。
なめらかな水の音。風は優しく、わずかに木々を揺らしてささやきを生む。。
ダメだ、このまま寝てしまう。
「オヤスミナサイ」
宣言して眠りについた。普段から寝付きは良い方だが、今日この時は瞬殺だった。
彼女が眠りについて、すぐのこと。2体のポムクルさんがポカポカと喧嘩を始めそうになった所で―――
「シー。起こさないようにな」
神無月 桔夜(かんなづき・きつや)がこれを収めた。
「起こしたら可哀想だからさ」
頼むよ、と苦笑いをしてみせた。
水辺の木陰は彼にも等しく快適だった。
のんびりと心が落ち着いてきたからだろうか、不思議と裁縫道具に手が伸びた。幸いなことに生地も持ってきている。せっかくだから何か作ろうか。
「……ん? あ、桔夜〜……服作ってるの?」
「アシュリー。すまん、うるさかったか?」
「んぅ……違うけど……それ、ポムクルさんの?」
「あ……あぁ。あぁそうだ、着せ替えするか?」
「着せ替え〜するする〜」
ちょっとまだ寝ぼけ眼だが、やる気はあるようだ。数日前に「ポムクルさんと着せ替して遊びたいなぁ」なんて呟いていたから、それらしいのを何着か持ってきておいたのだが、どうやら正解だったようだ。
「コスぷれいやーの意地にかけて……ポムクルさんにお洋服……むにゃむにゃ」
やっぱりまだ眠そうだ。
まぁ時間はたっぷりあることだし。のんびり構えて楽しむとしよう。
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