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リアクション
第1章 夏だ! 湖だ! バカンスだ! 8
「あー……………………」
空はこんなに青いのに。鴉真 黒子(からすま・くろす)の心は曇っていた。というよりいつも通りの「ぶ厚いカーテン」がバカンスの陽気な雰囲気さえも遮ってしまっているようでして。
「めんどくせぇ…………」
避暑地でダレているだけの男に「めんどくせぇ」と言わせていた。
「あれ、あの……黒子さん? 泳ぎましょう?」
勇気を出して言ったは良し。それでも睨み返されて、双葉 みもり(ふたば・みもり)は「ひぅっ」と身を避けた。
「泳がねぇよ。ここに来ただけで仕事終了。これ以上は別料金だ」
「そんなイジワル……」
「ぅ……」
速攻涙目は卑怯だろ。まぁもう、めんどくせぇ。
「あのなぁ、みもり―――」
「今度おばさんに黒子さんの様子をお手紙にしたためて出すように頼まれましたし……今日は遊びに来ただけですし……お願いですから一緒に遊んでください」
「は? 今なんつった?」
後半は無視だ、しかし前半部分は見過ごせない。
「あのばばあに……手紙出すだと?」
「あ、はい。黒子は嫌がるでしょうけど、書かないと私も怒られてしまいますし。それに今日の事もお話してあるのですが、保護者なしで来たとは言ってないので、その……」
「言ってないのか?!」
「あ、はい。ですからお手紙に謝罪の言葉も添えて弁明しないと……」
ってことは、何をしてどう遊んだのかも記さないと不自然ってわけか……ったく!
「あぁ判った判った! 遊んでやるよ畜生! その代わり、マイナスな事を書いたら殴るからな!」
なんて譲歩したのが間違いだった。
「で、遊ぶんだろ? 俺はそこで見ててやるから、ほれ、全力で泳いでこい」
「そんなぁ、黒子さんも泳ぎましょうよ」
「は? いや俺は泳がねぇし。んな事までやってられっか」
「ぅ………………………………もうっ!!」
「は? って、ちょっ、うわっ!」
ドンと押されて水の中。哀れ、乙女心の分からない輩は全身ずぶ濡れになったそうな。
「ふふ、黒子さんびっしょりです」
「笑うんじゃねぇ!」
今回は楽しいお手紙になりそうですよ、おばさま♪
小さいことは正義なり?
賛否両論、様々な意見がお有りでしょうが、こと水着に関しては小さき事は正義である。
小柄な体躯にマイクロなビキニ。趣味趣向は偏れど、朽木 小雪(くちき・こゆき)は周囲の男共の視線を思いのままに集めているにも関わらずに―――
「なかなか無いのう、涼める場所」
男などには目もくれずにのんびりできる場所を探していた。
「小雪殿」
秦野 傑(はだの・すぐる)がパラソルを手に寄ってきた。なるほど、その手があったか。
ビーチチェアと小さなテーブルを置いたら立派なバカンスタイムの始まりだ。
「囲碁の入門書とテーブルトークの本、ボードゲームも持ってきたでござるよ、どれにするでござる?」
「そうね。囲碁の教本をお願い」
「はい、どうぞ」
囲碁を選んだのは単なる気まぐれ。OH MY GOD!なノリで始めてみたいと思っただけ。
「なるほど。コミもヨセも考え方は意外とシンプルなのね」
足をくみかえただけで男共がざわめくのが聞こえてきたが、それが聞こえるという事はまだまだ集中できていないという事だ。
「ふぅ。わたくしもまだまだのようじゃのう」
皆が湖で泳ぐ中、木陰で静かに知的な娯楽に興じる。
「はーい、ジュースでござるよー」
「ありがとう」
ストローで一口。うん、美味しい。
何と落ち着いた休日か。我ながら惚れ惚れしてしまうわ。
人生ゆっくり、のんびりと。
小雪は己が信条のままにヴァイシャリー湖でのひとときを過ごしたのだった。
「暑いわね……」
「そうですね」
木陰な日陰に寝そべっているにも関わらず、じんわりと汗が滲んでくる。
足を投げ出しても水着をパタパタさせても暑い。羽切 緋菜(はぎり・ひな)はいつも以上にダラダラしていた、それなのに―――
「水着になっても暑いわ……」
「暑いから水着になった訳じゃないでしょうに……」
パートナーの羽切 碧葉(はぎり・あおば)は体を起こしている。アイスをペロリと舐めているが、緋菜は気付いていないようだ。
「やっぱり泳ぎましょう。せっかく水着になったのですから」
「いや。というか動きたくない」
「またそんなこと言って」
「泳ぎたいなら泳いできて良いわよ、私はここで寝てるから」
「緋菜が泳がないなら、私も一緒に居ますよ」
「そう」
ここでようやくアイスに気付いた。別に隠していた訳ではないが、タイミング的にはそう見られてもおかしくはない。それでも緋菜は特に気にしていないといった風に、ただ「私にも頂戴」と言っただけだった。
暑い暑い夏の湖畔。2人並んでアイスを食べながらダラダラするのも、これはこれで悪くない。
「そういえば、その水着……似合ってるわよ」
「ありがとう。緋菜も可愛いですよ♪」少し間があったのが気になったけれど。
「しかし、あんたまた大きくなったんじゃないの、その胸」
「そうなんですよ、シーズン前に買ったのがもう小さくて……って、何言わせるんですか!?」
「あんたが勝手に言ったんじゃない」
手で隠そうにも隠せない。水着の布だけが隠れるようで、それはそれで「手ブラ」みたいでエロかった。
「もうっ! からかわないで下さいっ!」
笑顔でいると、笑っていると、その間は暑さも感じない。
もう少しこうやって2人でのんびりしていよう♪
海や湖で遊ぶなら、誰だって水着になるだろうって?
いいや違う、間違っている。少なくとも「ユラユラ」だけは、ユーラ・ツェイス(ゆーら・つぇいす)に限っては頑なに拒否したのだよ、去年の海で! あんなに頼んだのに……せっかく海に行ったのに…………。
だからこそ! 今年こそは!
そんな強い決意と煩悩を胸に紅坂 栄斗(こうさか・えいと)はこの日を迎えていた。全てはユーラの水着姿を拝むために、そのために―――
「何じゃこれは……」
「何って? 水着だよ♪」
栄斗が差し出した水着の山を前にユーラは完全に引いていた。
「水着って、おまえ……買ってきたのか?」
「? もちろんだよ」
「ほぉ、隅に置けぬな、いつの間に恋仲が出来たのじゃ?」
「恋仲? 何のこと?」
「照れるでない、その女子と買いに行ったのであろう?」
「一人で、だけど?」
「一人?! これ……水着を一人で買いに行ったのか?!」
「そうだって言ってるじゃん。いや〜、似合いそうなのがいっぱいあってね、一つに選べないから全部買ってきたんだ」
「………………」
まさか男一人で女物の水着を買いに行くとは……栄斗恐るべし……。
「どれにする? どれがいい? これもこれも、こっちも似合うと思うんだ〜、いやこっちもアリだよね〜」
「分かった分かった分かったから、その女子っぽいノリは止めぃ」
まったく何を考えているのやら。まぁ、今回だけは奴の執念に免じて着てやるとするか。
「少し待っておれ」
数ある水着の中から「ところどころにフリフリのフリルが付いた水色のワンピース水着」を手に取った。
確かに可愛い……可愛いのだが……。
「ほれ、これで満足か」
簡易更衣室の前にへばりついていた栄斗は涙を流してユーラを出迎えた。
「うん、うん。やっぱりかわいいね」
「ほ……褒めても何も出ぬぞ。というか……だな」
「ん? なぁに?」
「この水着、サイズがぴったりなのだが……」
胸もお尻も腰回りも。当然だがサイズを教えたことも測らせた事もない。そんな気持ち悪いことをさせるはずが―――
「それはそうだよ、俺がサイズを間違えるはずないじゃん、四六時中ユラユラのこと見てるんだから。サイズなんて測らなくても一目瞭然―――ごふっ」
超真顔だったのが一層に腹立たしかったので、言い切る前に殴ってやった。
殴られても笑顔だったのが尚気持ち悪かった。
これだから栄斗は……。
まぁでもそれでも。
「………………」
久しぶりに着た水着の感触は、思っていたほど悪くなかった。
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