校長室
リアクション
● ハルディア・弥津波(はるでぃあ・やつなみ)は湖畔ビーチで浜焼きの準備を進めていた。 石を並べて釜戸を作り、網を乗せたら火を起こす。パラミタ内海やヴァイシャリー湖で採ってきたサザエやホタテを、丸ごと網の上で焼いていくのだ。香ばしい匂いが当たりに漂い、ポムクルたちが涎を垂らした。 「おいおい、ポムクルたち。慌てちゃダメだよ。じっくり待たなきゃ」 「ガマンできないのだー!」 ポムクルの一匹が飛びつこうとする。 後ろから伸びたデイビッド・カンター(でいびっど・かんたー)の手がガッとポムクルの服の襟を掴んだ。 「うーうーっ!」 「ガマンしろ、ポムクル。ハルは君たちのために焼いてくれてるんだからな」 デイビットはポムクルを叱りつける。 ジタバタ暴れていたポムクルは、あきらめたのか、しょぼんと両手両足を伸ばした。 「ハハッ、まあまあ、デイビットもそんなに目くじら立てないで。ほら、ジュースでも飲んで待っておきなよ」 「おっと、そうだな……。ほら、ポムクルたち。ちゃんとクーラーボックスに飲み物が入ってるぞ」 デイビットはボックスのフタを開けて、ポムクルたちにラムネやオレンジジュースを渡してやった。 貝が焼ける間、ポムクルたちとデイビットはのんびりと浜辺に座りながら飲み物で喉を潤した。 しばらくして、ハルディアが言った。 「よし、そろそろだね」 サザエの中の身も、ぐつぐつと煮えたぎっている。 ハルディアは一列に並んだポムクルたちが持っている皿に、一つずつ取り分けてやった。もちろん、デイビットにもだ。最後に自分の分を取り分けて、ハルディアとデイビットの二人はラムネ瓶をかかげた。 「乾杯」 二人は瓶を打ち鳴らした。 「おいしいのだー!」 「美味なのだー」 「あちっ……はふっはふっ……あぁー……やっぱり自分たちで採ってきた食材は格別だな」 デイビットはサザエを食べながら言って、ぐっとラムネ瓶を飲んだ。 「それはそうだよ。天然も美味しいけど、醤油やレモンを使うのはどうだい? 違った味が楽しめるよ」 ハルディアはデイビットのサザエに醤油を垂らしてやった。 「おお、こりゃ……確かに」 「だろう? ポムクルたちも、どうだい?」 「レモンがいいのだー!」 レモンを一滴垂らしてもらったポムクルたちは、またはふはふと食べはじめた。幸せそうな笑顔だ。ハルディアも作ったかいがある、と思った。 「ハルも、レモンはどうだ?」 「いただこうかな」 レモンの雫が、ぽたっとハルディアのサザエに落ちた。 ● 「それじゃあ、いくよー!」 セパレートの水着を着た白波 理沙(しらなみ・りさ)は、スイカ割りの定番スタイルでみんなに呼びかけた。 視線の先にはビニールシートの上に転がるスイカがある。理沙はハチマキを瞼の上から巻いて、砂浜を一歩ずつ歩きはじめた。 ビーチにいたのはフリルのカワイイ系水着を着たチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)と、セクシーな三角ビキニを着たターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)、それにパレオ付きのビキニを着たイリス・ヴァレン(いりす・う゛ぁれん)だった。 理沙もターラもイリスも、スタイルは抜群だ。特にターラとイリスはずば抜けて巨乳だし、ビキニまで着ているとなると男たちの視線をさらうのは当然となる。チェルシーは自分のチビな身体とさらさらの平らな胸を見て、ため息をついた。 (どうしてこうなるのかしら。わたくしだって、立派な大人なのに……) それだけチェルシーは外見がひどく違っていた。もちろん実年齢と、という意味で。 すでにお酒を飲める歳なのに、いまだに小学生たちから「どこの学校に通ってるの?」とたずねられるのは当たり前。この間など、ついに小学生に告白されるまでにいたった。あいにくとチェルシーにはその気はないし、あったとしてもまさか10歳も年の離れているショタっ子と付きあおうなんて考えない。良くも悪くもチェルシーは本命に一途だった。 「どうしたの? チェルシー。辛気臭いため息なんかついて」 ターラがたずねた。チェルシーは彼女の大きな胸をちらりと見た。 「別になんでもないですわー」 「そう?」 ターラは怪訝そうだったが、結局はそれ以上たずねることはなかった。 「ねえ、それよりもお二人とも〜。理沙さんがどんどん先に進んでますよぉ」 イリスが言った。そのときに大きな胸がぶるんと揺れる。 (こんちくしょうめっ!) チェルシーは恨みがましい視線をぶつけた。と、すぐ後に、理沙が大きな声を出した。 「ねえみんなー! スイカはまだなのー? こっちー?」 気づいたら、理沙はすっかりスイカとは違う方向に歩いていた。ちょうど角度にしてスイカ一つ分ぐらい離れてる。 「あっ、違いますぅ! 理沙さん、スイカはもう少し左で――」 「え?」 イリスは言ったけど、遅かった。 理沙がぶんっと振り下ろした木刀はビニールシートに激突し、それからすさまじい衝撃を起こした。ビニールシートが裂け、砂に大穴が空き、風圧が砂塵の風を巻き起こした。そして、スイカは割れた。ぐしゃぐしゃに。 「…………あれ?」 目隠しを採った理沙は首をかしげた。 「狙いがはずれてもスイカは割れてるんだけど……これってOKになるの?」 「なったら困りますぅ。それじゃあ何回やっても理沙さんの一人勝ちになっちゃいますよぉ」 ターラとイリスの二人は言う。 「そ、それじゃあ……」 ひかえめにチェルシーが口を開いた。 「スイカは割れたわけですし、みんなで食べてから、また別のゲームをする、というのを提案しますわ」 「そうね。それなら文句ないかも」 ターラは微笑みながら言った。イリスもうなずいている。 「?」 理沙だけが、きょとんとした顔をして三人を見ていた。 |
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