空京

校長室

選択の絆 第三回

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選択の絆 第三回
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リアクション


【3】選択の王座

「うおおおおぉぉぉっ!」
 行く手を阻むグランツ教徒たちを蹴散らし、ついに匿名 某(とくな・なにがし)は最深部まで到達した。
 その腕には結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が抱えられている。
「ちょ、ちょっと某さんっ……これってものすごく恥ずかしい気が……」
「いいから黙ってろ! 舌噛むぞ!」
『アブソリュート・ゼロ』の氷の氷壁や、『ショックウェーブ』の波動を次々と辺りに撃ち込み、とんでもないスピードで移動する。
 そうして最後のグランツ教徒をふき飛ばした某は、祭壇の間に飛びこんだ。
「いよっしゃ着いたー!」
 勢いよく着地し、綾耶を降ろす某。
 と、そこには――
「……ようやくたどり着いたのですね」
 グランツ教の最高幹部――エレクトロンボルトがいた。
 彼は祭壇の前で悠然と佇んでいた。その後ろには、玉座のような椅子に座るアルティメットクイーンがいる。アルティメットクイーンは微笑を浮かべ、踏みこんできた契約者たちの一団を見据えた。
 すでに某に続くように、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)朝霧 垂(あさぎり・しづり)といった仲間が近くにいる。
 周りを囲むグランツ教徒たちは彼らに攻撃を仕掛けようとしていたが――
「……やめなさい。客人は丁寧に出迎えるのが作法です」
 エレクトロンボルトがそれを制止させた。
 契約者たちを舐めているのだろうか。あるいは、気まぐれでも起こしたか。
 なんにせよ、この時を逃すことはない。
「アルティメットクイーン!」
 神崎 優(かんざき・ゆう)が彼女に呼びかけた。
「あなたは……――本当にこの大陸を落とすつもりなのか!?」
「――無論です」
 アルティメットクイーンは何の感慨も抱かぬよう、躊躇いなく答えた。
 動揺する優たち。アルティメットクイーンはさらに続けた。
「この世界はもう一度生まれ変わらなくてはなりません。ニルヴァーナを落とすのはその一環……いずれはパラミタも消滅させるつもりです」
「なんだって……!?」
 契約者たちが驚く。
「いまこの世界は、パラミタとニルヴァーナが存在し続けていることで様々な歪みを生んでいます。滅びを望むものもまた、その歪みであり、そして、影人間たちこそ、『新たに生まれるはずだった命たちのなれの果て』なのです」
「あの影人間が……?」
 それは優たちも初めて知った事実だった。
 無慈悲で、なんの意思もなく、ただ踏みこんでくる者を排除するためだけに存在したあの影人間が、命として生まれるはずだった者だというのか!
 契約者たちは目を離すことが出来なかった。アルティメットクイーンから。
「わたくしたちはそれらをも救いたいのです。ですから、近い将来、パラミタは生まれ変わります。わたくしたちの手によって」
「それは……! パラミタ大陸を消滅させるという意味か!?」
 怒りをむき出しにした垂が言う。
 アルティメットクイーンはうなずいた。
「わたくしたちはそれすらも厭わない、ということです」
「でも……だったらっ……! いまのあなたについてきているグランツ教の信者たちはどうするんだ! 彼らも、犠牲にするっていうのか!?」
 優が叫ぶ。
「心配はいりません」
 アルティメットクイーンは微笑んだ。
「彼らには『箱舟』を用意し、正常な運命の先の真の世界で生まれる、新たな大陸へ移住していただくことになります。――ですね? エレクトロンボルト」
「もちろんでございます、アルティメットクイーン様」
 そばにいたエレクトロンボルトが恭しく答えた。
「真の……世界だと……っ!」
 優は唇を噛みしめるような顔で、アルティメットクイーンを睨んだ。
「強者が弱者を切り捨てて得られる世界――。そんなもので、何の真の世界が生まれるっていうんだ! 俺達は一度滅びかけたニルヴァーナと手を取り合い、対話し、絆を繋げてここまでやってきた! その皆の想いを壊させる訳にはいかないんだ!」
 と、ざしゅん――。
 優の手が大太刀を抜き放つ。その切っ先をアルティメットクイーンへと狙い定め、優は言った。
「俺たちには俺たちの選択がある! あんたに、勝手には決めさせない!」
「…………」
 優を見据えたまま黙りこむ、アルティメットクイーン。
「そうですよ、クイーン様!」
 綾耶が彼女に呼びかけた。
「……正直、私はクイーン様の考えは受け入れられません。他の方々だってそうです……。だけど、このソウルアベレイターの手から……世界の滅びを望む者たちの手から、みんなの住む世界を守りたいのなら……きっと、なにか別に方法があるはずです! もし、クイーン様の方法で本当に世界が正しい方角に導かれるのなら……私はその選択も間違っていないと思ってます!」
 相反する二つの答えに葛藤する綾耶は、アルティメットクイーンに告げた。
「だから……あなたの傍で確かめさせてください。どちらの選択が正しいのか、見届けさせてください……」
「綾耶!」
 アルティメットクイーンの傍へと近づく綾耶に、仲間たちの声がかかった。
 けれど、綾耶は立ち止まらない。
「おい、某っ!?」
 優が今度は別の若者に声をかけた。
 某も綾耶の後を追うようにアルティメットクイーンの傍へ向かう。
「……悪いな、優。けど、綾耶がそうしたいっていうんなら、俺もやっぱついていかなくちゃ」
「お前……」
 二人はアルティメットクイーンの傍に着いて、戦う意思がないことを示すために武器を床に転がした。
 からんっと渇いた音を立てる剣。エレクトロンボルトは視線をアルティメットクイーンへ動かした。
「クイーン様……」
「――よいのです、エレクトロンボルト。彼らの選択がそうであるならば」
 某や綾耶の行動に、仲間たちになんら口を挟むことは出来ない。
 彼女たちの気持ちも十分にわかるからだ。だが――
「私たちは、なんとしてもニルヴァーナ落としを食い止めることを、選びます」
 神崎 零(かんざき・れい)が言った。
 彼女の言う通りだ。たとえどんな事情があるにせよ、それだけは避けなければならなかった。
「私達はパラミタを、地球を……そしてニルヴァーナも……手を取り合って生きていく道を選んできました。その為には解り合い、絆を繋げ、想いを一つにしていかなきゃいけないんです。絶対に――大陸を落とさせるなんてさせない」
 次々に武器を構え出す契約者たち。
 それを見下ろしながら、アルティメットクイーンは静かに告げた。
「……もはや話す余地はないということですね」
 つい、と右手を動かすアルティメットクイーン。
 すると周りを囲んでいたグランツ教徒たちもまた、契約者たちと同様に身構えた。
「――かかってきなさい」
 アルティメットクイーンが告げる。
 直後、アルティメットクイーンと契約者たちとの戦いの火ぶたは、切って落とされた。