空京

校長室

選択の絆 第三回

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選択の絆 第三回
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リアクション


【4】イーダフェルト発展記録 2

 イーダフェルトの通り沿いに、オープンカフェらしき建物がある。
 そこにはたくさんのポムクルさんが働いていて、なかにはポムクルさんと一緒に戯れる契約者もいる。
 言わば猫カフェやドッグカフェならぬ――ポムカフェみたいなものだった。
 そこに、神月 摩耶(こうづき・まや)たちはいた。
「えへへー♪ ポムクルさんたちかわいいー。見てー、ぽよんぽよん」
 ひざの上にポムクルさんを乗せる摩耶が、ちっちゃな身体に似合わぬ大きな胸で、ぎゅっとポムクルさんを押し潰した。
「摩耶様。あまり、そんな大きなお胸で挟んでしまいますと、ポムクルさんが窒息してしまいます」
 リリンキッシュ・ヴィルチュア(りりんきっしゅ・びるちゅあ)が注意を呼びかける。
 その手にはお茶のポットやティーカップがあって、摩耶たちの給仕を担当していた。
「まま。いいじゃない、リリン」
 摩耶の対面に座るクリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)が暢気に言った。
「こんな機会でもなけりゃ摩耶の胸が目立つこともないんだし。役得役得♪」
「むーっ。クリムちゃん、それはひどいよー」
 摩耶がぶーっと唇を尖らせる。
 と、そこにアンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)がフォローらしきものを入れた。
「いえいえ、摩耶様。これはお褒めの言葉なのでございます。天然ロリ巨乳の摩耶様がいればこそ、場もエロティックに華やかになるというものです。ねえ、リリン様?」
「えっ! あ、は、はい……」
 いきなり話を振られたリリンキッシュは、戸惑いながらもうなずいた。
 それを見て摩耶もアホ毛をぴょこぴょこ動かす。
「うーん、そんなものかなー……て、クリムちゃん!? 一人でなに勝手に遊んでるの!?」
 いつの間にかクリームヒルトが、膝の上に乗せたポムクルさんに生クリームを舐めさせていた。
 スプーンで、ではない。指につけたクリームをだ。
「えー。だってこのクリームって美味しいからー」
「ボクもボクもボクもボクもっ!!」
 摩耶がジタバタと暴れて我儘を言う。
「ふう……しょうがないわねー」
 仕方なく、クリームヒルトは指ですくったクリームを摩耶にも食べさせた。
 ちゅぱちゅぱと生々しい音を立ててクリームを食べる摩耶。
「ほあ〜……幸せぇ〜」
 とろける甘みに、顔もぽわぽわとなってきたようだった。
「じゃじゃっ! はい! クリムちゃんにも、お裾分け!」
「あらいいの?」
「もちろん!」
 代わりに摩耶は、自分で食べていたケーキを一口、クリームヒルトに食べさせてあげる。
 フォークでさしたケーキを持ちあげて、いわゆる「あ〜ん」というやつだ。
 ぱくっと食べたクリームヒルトは、とろける顔になった。
「う〜ん、美味しい! やっぱり摩耶に食べさせてもらうと、ひと味違うわね!」
「えへへ、そう? そう言ってもらえると嬉しいな〜」
 二人はお互いに褒め合って、甘々なムードに突入しようとしている。
 アンネリースとリリンキッシュは互いの顔を見合わせて、そろそろまたお菓子を取ってこないといけないだろうかと考えた。



 イーダフェルトで様々な労働に就くポムクルさんたちには、帰る場所だってある。
 今回、いくつもの新しく建てられた施設のうちの一つのポムクルマンションが、そうだった。
「むー、食事のあとは惰眠を貪るに限るのだー」
 食堂でご飯を食べてきたポムクルさんは、休憩スペースでごろんっと寝転がる。
 と、そこに――
「こらそこ! 食っちゃ寝食っちゃ寝してないで、ちゃんと荷物も運びなさい!」
 怒りの藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が叱りつけてきた。
 実はこのマンション、まだいろいろと準備が整っていないところである。
 一人一部屋の個室にはまだまだ家具が運ばれていないところは多いし、衣類も栄養バランスの取れた食事も、少ない人数でなんとか回している状態だ。
 そこでエリスと、次百 姫星(つぐもも・きらら)といった面子が、その環境改善にやって来たのだった。
「エリスさーん! この洗濯機とか冷蔵庫、どこに置けばいいですかー?」
「えーっと、洗濯機は共有スペースに置いて、冷蔵庫はキッチンの奥に――ってこらあぁぁ! 勝手に冷蔵庫の中身を食うなあぁぁ!」
 もぐもぐと冷蔵庫からハムだソーセージだを盗んでゆくポムクルさんに、エリスが怒鳴り散らす。
 その頃、ひゅーっと、窓の外からバシリス・ガノレーダ(ばしりす・がのれーだ)が降りてきた。
「エリスー。ポムクルたちの簡単な家具は部屋に運んだネ……って、なにやってるのヨ?」
 エリスはポムクルたちと冷蔵庫の中身争奪大戦争をしている。
 姫星が苦笑しながら言った。
「ま、まあ、エリスさんにもいろいろあるんですよ」
「そんなもんネ?」
「とにかく、あとテレビとか、ベッドとかも運ばないといけないですからね。頑張りましょう」
「あいあいさーヨ!」
 いくらポムクルさん用の小さな家具とはいえ、数があればそれなりに重くもなる。
 一生懸命運ぶ姫星とバシリスを応援するため、エリスのパートナーのアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)が小さな舞台上で応援ソングを歌った。
「ぽみぽむ ぽむぽむ 小人さんだよ〜♪ いっしょうけんめい 運びますよ〜♪」
 そりゃあ、歌なのだから元気は出るかもしれないが。
 本人も姫星たちを思ってのことなのかもしれないが。
 が――
「…………出来れば歌うのではなく手伝ってほしいネ」
 はあっと、ため息をついて諦めるバシリスだった。



 ざっ……ざっ……ざっ……ざっ……。
 イーダフェルトに響く箒の音があった。
 そこにはユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)ユゥノ・ユリン(ゆぅの・ゆりん)の姿がある。外見はどう見てもかわいらしい女の子にしか見えない男の娘である二人のメイドは、ただひたすらにイーダフェルトの庭や通路をはわきまくっていた。
「お父さん……」
「なに? いま忙しいから話しかけないで」
 機嫌が悪そうなユーリに拒絶されるも、ユゥノは無視して続けた。
「なんだかボクたち――すごく寂しい気がするんですけど」
「言うな! それは言っちゃダメのお約束なんだよっ!?」
 ユーリは大袈裟にのけぞって叫んだ。
「たとえ見ている人が一人もいなくとも! 汚れた場所を掃除する! これが“ぼーいずめいど”の宿命なの! ――こらそこ! 地味すぎるとか言わない!」
「誰に向かって言ってるんですか……お父さん……」
 第四の壁を突破して叫ぶユーリに、未来の息子であるユゥノは戸惑いを隠せない。
 が、とにかくいまは、ユーリの言う通りに頑張るしかなかった。
「お父さん……ぼーいずめいどの道って大変なんですね」
「そう! つらく、長く、険しい道なのだ! でも頑張る! すげー頑張る! なぜならそれが、“ぼーいずめいど”の宿命だから! びば! 掃除! びば! 箒!」
 高らかに宣言するユーリと、その息子ユゥノは、頑張って掃除に励んだ。