空京

校長室

選択の絆 第三回

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選択の絆 第三回
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リアクション


【4】コンサートホール、集結せよ!

 一方、賑やかな中心街から少し離れたコンサートホールでは――。
 湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)の二人と、複数のポムクルさんたちが、機材を運んだりセッティングしたり、忙しく駆け回っていた。
「もー! なんでボクがアイドル枠じゃないのさーっ!」
 何に使うのかもわからない重たい機材を運びながら、エクスがぶーぶー文句を言う。
 凶司はそれに対し暢気な顔で肩をすくめた。
「そりゃ……いろいろあるんですよ。お客さんの希望とか、盛り上がりに欠けるとか」
「ちょっ!? 盛り上がりに欠けるってひどいっ!」
「……地味?」
「もっとダメだよ! 余計ひどくなってるよ!」
 エクスはわめき、嘆く。凶司はとりあえずフォローした。
「まあまあいいじゃないですか。これでもエクスは頼りにされてるんですから」
「うーん……まあ、力仕事はポムクルさんたちだけじゃむずかしいし……手伝うのはいいんだけどさ。なーんか納得いかないなぁ」
 とは言うものの――エクスは頬をふくらませながら、ちゃんと手伝った。
 主に荷物持ちとしての役割ばかりであったが。
 と、そこで――
「おーい、凶司くーん」
 手を振りながらやって来たのは日下部 社(くさかべ・やしろ)だった。
「やっほー」
 隣には、響 未来(ひびき・みらい)もいる。
「あ、社さん……それに、未来さんも」
 凶司は顔をあげ、二人の来訪者を迎えた。
 舞台にのぼってきた二人は、きょろきょろと辺りを見回す。
「……うん。なかなかいい具合やないか」
 社はにこっと笑って言った。
「ありがとうございます。結構、順調に進んでますよ」
 凶司も穏やかに笑う。その近くで、ポムクルさんとエリスが段ボールに入ったコードやらなんやらを運んでいた。
「働かざる者食うべからずなのだー!」
「びしばしいくのだー!」
「だあああぁぁぁ! ボクは君らの乗り物じゃないんだけどおおぉぉ!?」
 ポムクルさんたちに髪の毛を引っぱられ、操縦されるエリス。
 泣き顔の彼女を見て、社と凶司はお互いに顔を見あわせて苦笑した。
 そのとき――
「ん? ところで……」
 社は周りに目を凝らしながら、凶司にたずねた。
「エルピスさんは、どこに行ったんや?」
 このイーダフェルトの心臓とも言える幻の少女は、今回のコンサートを楽しみにしていた。
 ライブが始まる前に、準備を見に来るとも言っていたのだが……。
「ああ、それだったら、実は――」
 凶司が事情を説明する。
 どうやらエルピスは、ある男が呼びに行ったようだった。



 シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)の二人は、幻の少女 エルピス(まぼろしのしょうじょ・えるぴす)を呼びに行き、そのままコンサート会場に向かっていた。
 周りにはわらわらと――なぜか宇宙刑事ポムクルさんがいる。
 某メタルヒーローを思わせる金属スーツ姿のポムクルさんたちは、無駄に数を増やしていた。
「見てみろよ、エルピス! かっこいいだろ〜、こいつら! なんと宇宙刑事ポムクルさん! 宇宙の平和を守ってるんだぜ!」
 ぐっと親指を立てて、キラーンと歯を光らせるシャウラ。
「は、はあ……」
 エルピスはすっかり戸惑い、生返事しか出来なかった。
「んだよもう〜! ノリ悪いなぁ!」
 ぶーっと口を尖らせるシャウラ。
 ユーシスが呆れたように言った。
「シャウラ……あなた、いまがどういう状況か分かっているのですか?」
「当然だぜ!」
 清々しい笑みで、シャウラは親指を立てる。
「だからこそ――ポムクルたちの力で、壊れない結界をなるべく早く展開させようとしてるんじゃないか!」
「いや、まあそうなんですけど……――なぜ、ポムクルさんたち?」
「こいつらはイーダフェルトと一心同体なんだぜ? な、エルピス」
「え、ええ……。どうやらポムクルさんたちの幸福度が、星辰結界には深く関わっているようです」
「なっ!」
 なぜか自慢げなシャウラは、ユーシスに目を向けた。
 頭痛でもするのか、ユーシスは頭を押さえる。
「……まあ、役に立つならそれでいいのですが……」
 いろいろ言いたいことはあったが、止めておくことにした。
 と、その間にも宇宙刑事ポムクルさんたちは、次々と必殺技を編み出している。
「宇宙刑事ポムクルキーック! なのだー!」
「ポムクルスラーッシュ! なのだー!」
「おおっ! お前たち! すごいぞ!」
 シャウラは感動し、エルピスはちっちゃなヒーローたちが遊んでいるのを見てくすくすと笑った。
 そこに――シャウラがぽんっと髪飾りを乗せる。
「え?」
 顔をあげたエルピスの前に、シャウラの笑顔があった。
「うん、似合ってる。これでエルピスも宇宙女王だな」
「宇宙女王って……」
 宇宙刑事シリーズのキャラクターかなにかだろうか?
 照れくさそうに頬を赤く染めるエルピス。シャウラは続けて言った。
「うん、似合ってる――なななの次にだけどな!」
 ぐっと親指を立てるシャウラ。
 なななとはシャウラの恋人で、彼とは愛を誓い合った仲なのだ。
 ちゃっかりのろけを入れるシャウラに、エルピスは苦笑するが――
「ポムクルさん、リア充は爆発させて祝福するんですよ」
「了解なのだー!」
 ユーシスにこそっと耳打ちされた宇宙刑事ポムクルさんたちが、一斉にシャウラに飛びかかった。
「わっ! こら! お前ら! いったいなにを――」
 ちゅっどおおおおおおぉぉんっ!
 と、ポムクルさんたちが仕掛けた爆弾で爆発が起こる。
「のおおおおおぉぉぉぉぉっ!」
 ふき飛ばされたシャウラは空へと消えて、キランッとお星様になった。
「あ、あの……シャウラさんは……」
「ああ、気にしないで行きましょう。どうせアレは殺しても死にはしないですから。ちゃんと追いついてきますよ」
「そ、そうなんですか……?」
 あながち、間違ってはいない。
 ユーシスにうながされて、エルピスは彼と一緒にコンサート会場に向かう。
 それを守るように――
「宇宙女王を守るのだー!」
「のだー!」
 ポムクルさんたちが気合いを入れているのだった。



 イーダフェルト中枢部の地下に、実験室らしき場所がある。
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の二人はそこにいて、白衣を着た科学者らしきポムクルさんとなにやら実験をしていた。
 目の前の二つのカプセルに、電流をばちばちと放つエネルギーがある。
 片方のエネルギーがもう片方のエネルギーにぶつかって、激しい稲光と閃光を放った。
「うーむ、どうやら星辰エネルギーは他の様々なエネルギーの何倍もの力を持っているみたいなのだー」
 すちゃっと、眼鏡の上に装着していたゴーグルを外したポムクルさんが言った。
「……それは……他のエネルギーとは……どう違うのですか?」
 近遠が疑問を口にする。
 隣にいるユーリカも同じように感じているのか、こくこくとうなずいていた。
「一つには――」
 科学者っぽいポムクルさんが二人に向き直った。
「星辰エネルギーは、生命の力に大きく左右されるということなのだー」
「生命の力?」
「星辰の名の通り、『精神力』、もしくは『生命力』とも言い換えることはできるのだー。……人間がピンチにおちいったときにとんでもない力を発揮するように、“星脈”と、そこから生まれる星辰エネルギーは、みんなの心や命に深く関わるのだー」
「…………火事場の馬鹿力みたいなものですかね……」
 近遠が言う。ポムクルはうなずいた。
「有り体に言えばそうなのだー。ソウルアベレイターに特攻を持っていることからも、星辰エネルギーが生命と密接な関係にあることは推測されるのだー」
「生命……ですか……」
 近遠はつぶやいた。
 特にこの世界では、命が――言わば、魂が、大きな意味合いを持つ。
 星辰はもしかすれば、その“世界の理”とも言うべきものに、なにか通じているのかもしれなかった。
 と、近遠が考えていると――
「近遠、あたし疲れてしまいましたわ」
 ふいにユーリカが言った。
「どこか休めるところはありませんの?」
「……仕方ないですね……。少し……休憩を挟みましょうか……」
 考えすぎるのも頭には毒だ。
 まだまだ分かっていないことは多い。少しずつその全貌が見えてくれば、明らかになることもあるだろう。
 科学者なポムクルさんも一緒に、近遠たちは休憩することにした。



 玖純 飛都(くすみ・ひさと)は考えていた。
 すなわち、アルティメットクイーンとニルヴァーナ氷壁遺跡のことを。
(あそこには、ファーストクイーンのコピー体があるらしい……)
 アルティメットクイーンがその力を奪い、コントロール出来るということは――。
 もしかすれば、アルティメットクイーンはその魂と極めて近い存在ゆえに、それが可能なのではないか?
(例えば――)
 飛都は可能性を考える。
 が、すぐに自分で頭を振った。
 まさか。馬鹿げたことを。だけど、もし、そうなら……。
「単に戦いに勝つだけでは、難しいかもしれませんね」
 ふいに、矢代 月視(やしろ・つくみ)が飛都の後ろから言った。
「月視……」
 飛都はふり返る。
 パートナーの吸血鬼は、値踏みするような目で飛都を見ていた。
「……このままだと――」
 月視が言った後を継ぐように、飛都はつぶやいた。
「ああ……。少し、氷壁遺跡に向かった連中が気がかりだな……」
 アルティメットクイーンを倒そうとするだけでは、どうにもならない。
 何らかの対抗策を講じなければ。その為には――
「生命の力が、必要か……」
 飛都はつぶやく。
 月視は何も言わない。
 そして二人の間を、風が通り抜けていった。