空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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優しい記憶

「さあ、ネフェルティティちゃん、いい子ですね」
樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)は、
ネフェルティティを優しく抱き上げる。
「うあ?」
「何もこわい事はありませんよ。
みんながネフェルティティちゃんが生まれた事をうれしく思ってくれていますよ」
「あっ、あー」
「ふふ、あなたがみんなを大好きなように、みんなもあなたが大好きですよ」
白姫は、やさしく、やわらかいネフェルティティのほっぺにキスをした。

土雲 葉莉(つちくも・はり)も、ニコニコ笑って、
その様子を見守っている。
自分ではどうすればいいかわからないが、
ご主人様の白姫のすることなら間違いがないと思ったのだ。

(鬼城白継将軍の生母であらせられる、ご主人様ならきっと……!)

「あう、あー」
「ふふ、そうですね。これがほしかったのですね」
白姫は、ネフェルティティが、
昔ジークリンデにもらった大切な聖冠クイーンパルサーを握らせてあげる。

ネフェルティティは安心したような笑顔を浮かべ、ご機嫌になる。

その、ジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)本人だが。

土方 伊織(ひじかた・いおり)が、避難所の手伝いをしていたのをみつけて、
ネフェルティティの元に連れてきていた。

「あ、あの私……」
赤ちゃんになったネフェルティティを見て戸惑うジークリンデだが。

「あ、あー!」
ネフェルティティがジークリンデに向かって手を伸ばす。

「はわわ、ジークリンデさん、女王さまのおね〜さんですし、
何か、あやすコツを知ってるかもしれないですぅ」
「うむ、血縁のものじゃし、赤子のあやしには適任じゃろう。
ほら、はよー行け」
伊織とサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)に促されて、
ジークリンデがおずおずとネフェルティティに近づく。

ジークリンデに抱き上げられ、ネフェルティティはうれしそうに笑みを浮かべる。

「……思い出すことはできませんが、
なんだか、私も幸せな気持ちです」
笑顔になるジークリンデを見て、理子も微笑を浮かべる。
「よかったわね。きっと小さいときに面倒をみていたかもしれないわよ」

「はわわ、そうなのです。
ジークリンデさん、女王さまと仲良かったみたいですし。
これをきっかけに、姉妹の絆を深めるですぅ」
伊織もうなずいた。

「こんなときこそ、絵本読み聞かせでござろう!」
坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)が、
絵本を手に、スライディングしてくる。
「絵本、ですか?」
「そうでござる!
遊びの事ならば拙者にお任せでござるよ!
視覚情報と音情報で興味を引き、
双方向のコミュニケーションを行うことで、
感情を引き出し、それに応える!
それに最適なのが、絵本読み聞かせでござる!
特に、この巫女さんが出てくる絵本は、
情操教育にもぴったりでござる!」
「たしかに、よさそうですけど、
どうして巫女さんなんですか?」

「別に、大人になったら巫女さんになりたいとか、
巫女装束を着たいとか、
お姉ちゃんと一緒に巫女装束着たいよね、仲良しだしお揃いがいいよね、
などという展開を期待しているわけではけっして!」

「巫女がどうとかいうのはともかく、
読み聞かせを行うのはいいことだと思いますわ。
姉妹の愛情を、幼くなったネフェルティティ女王に伝えるのは大切だと思いますし」
姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)も、
読み聞かせには同意する。

「そうですね。では、よろしくおねがいします」
こほん、とせきばらいして、
ジークリンデは、絵本を読みはじめた。

「昔々、あるところに、巫女さんがおりました……」

「まったく、どこでああいう絵本を手に入れてくるのですか?」
「拙者の自作でござるよ」
「えっ……?」
「お気に入りの巫女さんの写真や絵などを集めて、編集し、
物語に仕立てたのでござる」
「……まさか、子どもに読み聞かせて問題のある内容じゃないでしょうね」
雪は、鹿次郎の絵本を確認しなかったことを後悔した。

……しかし、ジークリンデの読み聞かせに、
ネフェルティティはきゃっきゃとはしゃいで喜んでいる。


やがて、読み聞かせが終わり、
ネフェルティティは、ジークリンデの胸でとろとろとしはじめた。

だが、やがて、またぐずつき始める。

「どうすればいいんでしょうか?」
おろおろしているジークリンデに、
{SFM0005833#朱里・ブラウ}が優しく進み出る。

「たくさん遊んだからお腹がすいたみたいね」
ソウルヴィジュアライズでネフェルティティの気持ちを察して、
朱里が言った。

そして、ネフェルティティに優しくミルクを与える。
朱里はとても手馴れており、
スムーズにミルク飲ませていく。

「これ、ミルクの作り方、飲ませ方、おむつの替え方、
その他、赤ちゃんと接するうえでの注意点をまとめました。
実際にやってみるので、皆さん、見てください」

朱里が、わかりやすいメモ書きを配布して、
24時間、ネフェルティティを順番に子守りできるようにする。

一方、アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)も、
サクロサンクトで警護を行いつつも、
ティータイムで、疲れているであろう契約者たちを労う。

「乳児の世話は24時間、いつ泣きだすか分からない。
一息ついて休んでくれ。
大人が倒れてしまうのも困るからな」

そして、優しくネフェルティティを抱きながら、
朱里はつぶやく。
「こうしていると、ユノが生まれた時のことを思い出すわ。
この笑顔を、子どもたちが平和に暮らせる未来を守りたい……心からそう願うの」

アインとの子どもであるユノが生まれたのも、もう、2年以上前。

「そうだな。
この子たちのような幼子のために……。
そして、大切な人たちのために。
守ってみせるさ。世界も、家族も。
かけがえのない、大切なものだから」
アインがうなずいた。

朱里は、子守歌を歌って、ネフェルティティが眠りにつくまで、優しくゆすり続ける。

「まーま?」
「え?」

一瞬、たしかに、ネフェルティティが朱里のことを、
「ママ」と呼んだのであった。

「ねーねー」
ジークリンデも「姉さん」と呼ばれて、微笑を浮かべる。

やがて、ネフェルティティは、穏やかに眠っていく。

こうして、身も心も満ち足り、
愛情を受けて、ぐっすりと眠ったネフェルティティは、
結界を強くし、
それは、宮殿の外で戦う者たちの力にもなったのであった。



後日、ネフェルティティが朱里・ブラウ(しゅり・ぶらう)のことを
うっかり「お母さん」と呼んでしまうようになったが、
それは、また、別の話である。