空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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【1】アルティメットクイーン 2

 空京の街に降り立ったクイーンは契約者達と戦っていた。
 すでに街の人々は避難している。思う存分戦えるというわけだが、それでもクイーンの力は強大で、契約者達に苦戦を強いていた。

「神だとッ!? 笑わせるなッ――――!!」
 そう叫び、クイーンに挑みかかったのはグレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)だった。
 テンプル騎士の英霊たる彼はアルティメットクイーンの言動が、暴挙が許せなかった。オーパーツソードを振るい、その刃でクイーンを切り裂こうとする。クイーンの振るったエネルギーのバリアと、グレゴワールの剣がぶつかり合った。
「神は自らを神とは名乗らない! クイーン! 貴様のやっていることはただの力の暴力だ! 神の名を語る大罪人は、この我が必ずや打ち破ってくれよう!」
 グレゴワールの怒りは収まるところを知らない。
 次々と剣を振るい、クイーンのバリアにぶつかる度に音が鳴り響いた。
(うわぁ……。こうなったらグレゴさんは止められないなぁ……)
 そんなグレゴワールを見ながら、シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)は暢気にそんなことを思う。シャノンとしてはそれほどクイーンに強烈な怒りを感じているわけではなかった。しかし、グレゴワールの気持ちもよく分かる。
(まあ、確かに……。人を不幸せにしようって奴が、神なわけないよね)
 少なくともシャノン達にとっては、そうだった。
 神なんてものが存在するのか? 神は唯一のものなのか? それはシャノン達には分からない。けれど、クイーンの手によって世界が滅ぼされるのだけは、避けたいと願っていた。
 ならば、そのクイーンが敵対するというのであれば、それにはこちらも応じるまでだ。
「グレゴさん! 回復は任せといてね!」
 シャノンはそう言って、グレゴワールにヒールをかけた。

「く、このぉおぉぉぉッ!」
 戦闘用の鉤爪を装備した白波 理沙(しらなみ・りさ)は、クイーンに拳で勝負を挑んでいた。
 その動きは見事なものだ。クイーンとも互角に渡り合っている。しかし、クイーンはその身一つで複数の契約者達と同時に戦うわけの力を持っていた。
 理沙は両の拳を使って攻撃を繰り出しているというのに、それをクイーンは片手でなんなく受け流す。パートナーのレミリア・シンクレア(れみりあ・しんくれあ)と共に、彼女は歯がゆい思いを抱いていた。
「くそっ、どうしたらっ……」
 理沙は、もはや遠慮はしないことはすでに決めていた。
 話し合いの出来ぬ相手なら、拳で決着を付けるしかない。それはこれまでの彼女の経験から導かれる結論だった。それにレミリアも、異論を唱えることはない。
「理沙! 突っ走っちゃダメだよ! みんなで戦わなきゃ!」
「おっとっ……。そ、そうね、レミリア……。ありがと!」
 つい前に踏みこみすぎる自分を諫めるレミリアに、理沙は感謝の気持ちを返した。
 その心情のわずかな変化が、女王器を持って思うように戦えないクイーンの動きを惑わしたのか。
「ふんッ――!」
「なにッ!?」
 クイーンの隙を狙い、理沙は大きく踏みこんだ拳を放った。
「ハアアァァァァァッ!!」
 理沙がクイーンの動きを止めた隙に、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が躍り出た。
 その動きは常人に見切れるそれではない。並々ならぬパワーでそこらにあったビルの瓦礫をぶん投げた。
 その力の正体は、奈落人の殺戮本能 エス(さつりくほんのう・えす)によるものだ。エヴァルト本人のみならず、彼が憑依しているからこそその力が何倍にも増幅されていた。
 エヴァルトは、地母神イナンナの怒りのエネルギーを操って大地を割り、溶岩を噴出させる。それはクイーンの足場を破壊するのに十分なエネルギーだった。
「くっ……!」
 足場を崩されたクイーンは、先に投げられた瓦礫を避けることが出来ない。
 その隙に、エヴァルトは徒手空拳の一撃を彼女に与えようとした。
「ツァァァァァッ!!」
「!?」
 手刀は頭上から降り注ぎ、クイーンの身体を叩き落とす!

ズガアァァァァンッ!

「くっ……ぅ……」
 地面に叩き落とされたクイーンは身動きが取れず、苦しげな声をこぼした。
 しかしすぐに、自ら回復をほどこす。癒やしのエネルギーがクイーンを包み、その傷ついた身体を再生した。
 だが、それが逆に彼女の隙となった。
「クイーン!」
 アルティメットクイーンの前に、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、それにクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)達が現れた。
「くっ……。あなた達は……」
 クイーンはその姿に驚く。
 アイリスは剣を振るい、その切っ先をクイーンに向けた。
「悪いが、君をこのまま逃がすわけにはいかないんだよ。その女王器は取りもどさなくてはならない。石原肥満校長が残した志の為にもね」
 アイリスの目は本気だ。美羽もクエスティーナも、それに続く。
「アイリス。コハクと一緒に、クイーンの動きを……」
 美羽はそう言った。
 彼女の横にはパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がいる。アイリスとコハクの二人は目線を合わせ、合図を送った。
「行くぞっ――!」
 その瞬間、二人は同時に攻撃を仕掛ける。
 コハクの日輪の槍とアイリスの剣の刃が、アルティメットクイーンに左右から迫った。
「くっ……!!」
 クイーンは女王器を避けるために逃げるので精一杯だった。
 先ほどのエヴァルトの攻撃が尾を引いている。身体中が軋み、パワーがいまだ回復しないのだ。クイーンは女王器を奪われまいと必死に二人の連続攻撃を避ける。剣の刃が一閃し、槍の穂先が突きこまれるのをぎりぎりでかわした。
 それがある意味ではマズかった。二人の攻撃を避けることに集中しすぎたのだ。

ドウッ――――!

「!?」
 突然の銃声とともに、クイーンの手から女王器が弾かれた。
 それは狙撃だった。はっとなって顔を動かしたクイーンの視線の先に、小さな影で山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)の姿が見える。狙撃銃を構えている彼女を見れば、それが先ほどの銃声の正体であるのは明らかだった。
(しまったっ……)
 クイーンが思ったその時である。
「今だ! 逃がさんぞ、クイーン!」
 最初の女王器がクイーンの手から離れた瞬間、クイーンのもとに飛びこんだのは青葉 旭(あおば・あきら)だった。
 その目は真っ直ぐにクイーンのみを見つめている。
 狙うは彼女の命。ただそれだけだった。
(もはや、裁判を拒否する輩に通常の司法手続きを踏むなど無意味だ。この場でこのオレが引導を渡してやる!)
 たとえそれがどれだけ独善的だと言われようが、旭にとってそれは間違いなく正義だ。ある意味、間違ってはいない。クイーンの命を狙う者が多数いることからも、それは紛う事なき事実だった。
 それを旭は信じて疑わない。
「くらえ!」
 クイーン目がけて、旭は鞭を振り落とした。
 その先鞭をなんとかかわしながら、クイーンは弾かれた女王器に手を伸ばした。
 だが、しかし――
「させないわよ、クイーン!」
 その前に、エルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)が彼女の前へ飛びこんできた。
 しかもエルサーラは、空中を舞う女王器を蹴りで弾き飛ばしていた。ヒュン、ヒュン、ヒュンッ――と回転して飛んでいく女王器の剣。
「くっ……!!」
 とっさにクイーンは追いかけようとした。だがその時に、ペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)が空から大量の何かをばらまいた。
「ふふふっ、くらうです〜!!」
「こ、これはっ!?」
 クイーンは驚愕に目を開いた。
 それは無数の女王器の模造品だったのだ。本物の女王器は精巧に造られた偽物の剣に紛れ、どこにいったかがまるで分からなくなってしまった。
 もちろん、冷静に見れば本物かどうかは見極められたに違いない。しかし突然のことに焦ったクイーンは本物と偽物の見分けがつかず、その場に立ちつくしてしまったのだ。
 その隙に、神崎 輝(かんざき・ひかる)達が動き出す。
「真鈴! これを!」
「はいです! マスター!」
 本物の女王器の剣を手にした輝は、それをパートナーの一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)に投げ渡した。
 見事にキャッチした真鈴は、そのまま脱兎の域へ達する。
「しまったっ……女王器がっ――!」
 それに気づいたクイーンは、急いで二人を追いかけていった。
 もちろん、すでに輝と真鈴は二手に分かれて逃げていた。本物を真鈴に渡したことはクイーンには知られていない。二人はまるでクイーンを嘲るように、どちらともなく別方向に逃げ去っていた。
「成功しましたね! マスター!」
「いやー……まさか、本当に上手くいくとは思わなかったよ」
 二人は小型の通信機で言い合った。
 何にしても無事、女王器は契約者達のもとに戻ってきたのだった。