空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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【1】空京大捜索 2

「こちらです、クイーン様」
 そう言ってアルティメットクイーンを先導するのは、ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)という英霊だった。
 彼は暗殺組織の首領でもある。
 その特有の戦闘感覚と逃走経路をかぎ分けるセンスで、ファンドラはアルティメットクイーンの逃亡を手助けしていた。
 そして、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)がそれに追随する。
「…………ファンドラ……、敵が追ってきてるのじゃ……」
 彼女はその身長に似合わぬ素早さでクイーンとファンドラを追うと、そっと後ろを眺めやりながらそう言った。
「ふむ、これは――」
 ファンドラはその正体が何者であるかを見破った。
 それはクイーンを追ってきている国軍の兵士達だった。
 クイーンを見つけたのは偶然だろうが、仲間に居場所を知らせる前に見失わないために、常に間隔を開けて追ってきているのだ。それに気づいたファンドラは、刹那に目線で合図を送る。
「うむ……」
 刹那はうなずき、それから追ってきた国軍の兵士に向けて煙幕を使った。

ボボボウッ……!!

「!?」
 国軍の兵士はいきなり目の前を覆った白い煙に惑わされた。
 おかげで何名かがクイーンの行方を見失って道に迷うことになった。しかし、中にはそれでも刹那達の姿を見つけて追ってくる者がいる。
 それには刹那達は、ニンジャの卵や戦闘員を使った。
 刹那達に従う従者達は兵士に襲いかかってその動きを足止めする。その間に刹那も他の者達を暗殺し、血飛沫の中でファンドラに合図を送った。
 ファンドラはクイーンを連れて逃走ルートを走った。
 戦闘員、ニンジャの卵達とともに、刹那はその地に残る。
「さて…………逃げおおせる……かのぅ……」
 ぼそりと呟く彼女の手の中で、秘湯の飛刀の銀色の刃がきらめいた。



「それで由紀也、どうするつもりですの? ハイナ様もアルティメットクイーンを追っているようですが……」
「うーん、そうだなぁ……。なんか良い方法が欲しいところだけど」
 そう言って会話するのは、麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)瀬田 沙耶(せた・さや)の二人だった。
 二人は葦原明倫館総奉行――ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)に頼まれ、アルティメットクイーンの行方を探っているところであった。
 と、その時である。
 二人が不吉な影を見つけたのは。
「あれは…………業魔…………!?」
 それは光条世界の使者であるエルキナと戦う業魔の姿だった。
 二人はこちらには気づいていないようだが、どうやらエルキナはクイーンを守るために戦っているようである。それを邪魔に思う業魔が、エルキナを始末しようとしているのか?
「えらいことになってるな……」
 由紀也はそう呟いて先に急いだ。
 幸い、向こうはこちらにまだ気づいていない。女王器が目的にせよ、先にこちらが手に入れてしまえば何とかなりそうだった。
「つーわけで、沙耶。俺達は向こうのおねーさん方の後を追うぞ」
「おねーさん方って……、もしかして、あの光の女騎士達のことですの?」
 沙耶は遠く向こうの空に見える複数の人影に目をやった。
 そこにはエルキナと共にやって来た女騎士達の姿が見える。アルティメットクイーンを守ろうとしているのだ。ならば、その後ろをついていけば、必然的にクイーンの居場所まで最短ルートで案内してくれるというわけだった。
「そんなことせず、自分の足で探せばよろしいですのに……」
 あくまでも楽なほうを選ぼうとする由紀也に、沙耶はほとほと呆れる。
「いいのいいの。こっちのほうが効率がいいんだから」
 由紀也は笑って、沙耶と共に光学迷彩で姿を消した。
 それで光の女騎士達を追いかけていくという寸法だ。二人は女騎士達を追って駆け出し、その姿は空間の中に消え去っていった。



「ふーむ……」
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は唸りながら空を飛んでいた。
 乗っているのはブラックダイヤモンドドラゴンと呼ばれる巨大な黒き竜だ。その背中に乗ってばっさばっさとドラゴンの翼をはためかせながら、空から空京の街を探しているのである。
 誰を? もちろん、アルティメットクイーンを、だ。宵一と一緒にいるリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)は機晶脳化技術でティ=フォンというスマートフォンと自分の脳を繋ぎ、ユビキタスネットワークを駆使して学校の超コンピュータを操っていた。支援AIシューニャと共に、空京各地の防犯カメラの映像をかたっぱしから確認していく。
『マスター、カメラの映像には何も残されてません』
 AIにそう言われて、リイムはついに全ての映像をシャットダウンした。
「なう〜。何にも見つからないでふよ〜」
 結局、酷使したのは映像を見続けていた目だけで、リイムはついつい目が疲れてしかめっ面になってしまっている。リイムはくてんっと倒れた。
「お疲れだな、リイム」
 宵一は同情を覚えてそう言った。
「はいでふよ〜」
 リイムの返事はくたーっとしたものだった。
「それにしても、リーダー」
「ん?」
「……クイーンは本当に殺されちゃったりするでふか? 僕、出来ればそんなふうにしたくないでふよ」
 リイムはそう言った。それは宵一もまったく同じ気持ちだった。
 実際のところ、アルティメットクイーンが今後どうなるかはまだ分からない。裁判の結果にもよるし、今回のことでさらにその立場は危ういものとなるだろう。脱走、それも最初の女王器を奪ってのことだ。あれだけの厳重な結界と拘束を破れるだけの力を残していて捕まったのは、もしやそれが目的だったのか?
(考えられるな……)
 宵一は思った。初めから、最初の女王器を奪うことが目的だったのかもしれない。そう考えるとクイーンの行動にも合点がいくような気がした。
 いずれにせよ――クイーンの力は今後の為にも、必要不可欠だ。
(俺はあいつを殺したくない。例えそこに、賞金がかかっていてもな……)
 宵一は自身の生き方と反問しあってでさえ、クイーンを救いたかった。
 恐らく、彼女の命を狙う契約者達もいるだろう。それはそれで妥当だ。間違っているわけじゃない。けれど、そうしたところで何になる? 反乱分子を、危うい存在を、こちらから力尽くで消し去ろうとしてしまっては、何かが変わるわけではないように思った。
(……考えすぎなのかな。……なあ、師匠……)
 宵一は、かつて自分に剣の扱い方を教えてくれた賞金稼ぎのことを思い出した。
 一流のバウンティハンター。そうなる夢はいつだって変わらない。けれど、だからと言って、力でそれを求めようとしたら、それには一生届かないような気がする。師匠もその不敵な笑みの中で、そう教えてくれていたような気がした。
 と、郷愁に思いを駆られていたその時だった。
「リーダー!」
「……!」
 リイムの大声に、宵一ははっとなった。
「HCから連絡でふ! クイーンを発見したみたいでふ!」
「なんだって? よし! それじゃ、さっそくそっちに移動だ!」
 宵一は言って、ブラックダイヤモンドドラゴンの軌道をリイムの指す方角に向けた。
 クイーンを守らなくては。宵一の心にある決断は、警鐘を鳴らしていた。