空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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【1】地下街を駆け抜けて 6

 市民達の救出も無事に終わったかに見えたが、まだだ。
 地下街に取り残されている市民がいないかを捜索しなくてはならない。
 その捜索にあたり、地下街を駆け回る影月 銀(かげつき・しろがね)ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)
「……そこか」
 銀が呟くその視線の先には逃げ遅れた市民が数人。
 その後方にはモンスターが数十体程確認できる。
「ちょっとまったー!」
 ミシェルの声帯が振るえ、天使の歌声で鎮魂歌が奏でられる。
 全てを包み込むかのような暖かな歌声を聴いたモンスター達は、次第に大人しくなっていく。
 その隙に、銀が床を蹴り上げて市民とモンスターの間に割り込む。
 と、同時に栄光の刀を構えた瑞江 響(みずえ・ひびき)も割り込んでくる。
「合わせてくれるか」
「勿論っ!」
 共に素早い身のこなしを体得している銀と響が交差する。
 鎮魂歌を聴いておらず、血眼になって襲い掛かってくるモンスターを前にまったく動じず、
 一体のモンスター両側から腹部とこめかみに一発ずつ。
 そのまま左右に分かれた銀と響。
「連続で終らせるっ!」
 一閃から刹那もない間にもう一閃。響のスピードに反応できないモンスターは、意識もままならぬ間に床に伏した。
「負けていられないな」
 響のスピードに勝るとも劣らず、軽快にステップを刻み、同じ要領で立ちはだかる敵を忍刀で刻んでいく銀。
 その背後から、気配を押し殺したモンスターが、銀の後頭部を狙う。
 が、
「残念。そこには俺がいる!」
 いつの間にかモンスターの背後を取っていた響が、モンスターのまたぐらを蹴り上げる。
 今まで以上の悲鳴に、存外効くものだな、と思う響。
 だが、更に響の後ろから体の大きめのオークが鼻息荒く襲い掛かろうとしていた。
「次は俺の番だな」
 オークの更に後方に回り込んでいた銀が、オークの顔面を横合いから蹴りつけて、沈黙させた。
 二人の連携を見たモンスターたちも思わず後ずさる。
「その隙、いただきだぜ!」
 これをアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)が好機と判断して、凍てつく氷波をモンスターの床へと注ぐ。
 床の接地面とモンスターの足が、まるで恋人同士が抱き合うかのように離れなくなる。
「これで終わるとでも思ってるのか? そんなわけ……」
「そんなわけないでしょう!」
 アイザックの隣に並んだエセル・ヘイリー(えせる・へいりー)がアイザックの台詞にかぶせてくる。
 そのまま、アイザックと共に天からの裁きを下す。
 降り注ぐ雷撃の雨が地下街を這い回り、モンスターを焦がしていく。
 ひとしきり雷の雨が降り、終わった後には黒焦げになったモンスターの残骸があった。
「手伝ってくれて、サンキュな!」
「ううん。こっちも助けてもらったし、ありがとうっ」
 アイザックとエセルがハイタッチを交わす。
 その横ではレナン・アロワード(れなん・あろわーど)が隅々まで道を調べている。
 鮮やかな手付きで道にトラップを仕掛ける。
 如何様なモンスターが来ても発動するように、入念に調整をしていく。
「……これでよし」
 トラップを仕掛け終えたレナンがスクっと立ち上がる。
 それはこの場からの撤退の合図となる。
「さあ、私達についてきてっ! 避難場所に案内するよ!」
「オレ様についてくりゃ百人力よっ。大船に乗ったつもりでついてこいっ!」
 エセルとアイザックが先導し始める。
 ……不幸なことに、前方からモンスターの気配が漂ってくる。
 出来る限り早く脱出しなければならないというのに、厄介極まりない。
「皆さん、ここは自分たちが引き受けます」
「こちらから前へと抜けれる。使うといいわ」
 壁に開けられた横穴から赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)が現れ、示した道を急ぐように促す。
「トラップが仕掛けてある、それを上手く活用してくれ」
 レナンの言葉に霜月が頷きながら礼を述べる。
「ありがとうございます」
 霜月とクコにモンスターを任せて、市民達は避難を開始した。
 一時、壊れ果てた地下街に静寂が充満する。
 程なくしてモンスターの足音がそれを切り裂き、霜月とクコに牙を向く。
 だが、その初撃が霜月達に当たることはなかった。
 レナンが仕掛けたトラップが次々と発動したからである。
「彼らは世界に、そこまで絶望を感じていたんでしょうか」
「さあ。ただ勝手に絶望して関係ない人たちを巻き込むのはお門違いね」
 クコはきっぱりと切り捨てた。
 その言い様に霜月も、疑念を捨て、足腰に力を入れる。
 覚醒せしラセツとケンセイが、ボロボロの地下街を走った。
 霜月の二刀が鮮血を吸いながら、クコの拳がモンスターの顎を砕き割る。
 現れたトロールだが、何のことはない。
 霜月に膝を切り付けられ後ろへとよろけると、
 その背後にいたクコの全力を込めた一撃を延髄に叩きつけられる。
 トドメに霜月の刀とクコの拳が、モンスターに刺さりめり込めば、二度と立ち上がってくることはなかった。
 その後、モンスターを相手取っていた鳴海 玲(なるみ・あきら)瑞穂 薫(みずほ・かおる)とも協力し、残ったモンスターを倒す四人。
 地下街を駆けた契約者たちは、困難を強いられながらも市民の救助を完璧に遂行した。