空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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【1】地下街を駆け抜けて 5

 しかしモンスターはまだまだ湧いてくる。そして最悪の事態が発生。
 逃げる市民たちの前に、モンスターたちが割り込んできたのだ。
 後方は陣と吹笛が足止めしてくれている。
 この危機的局面は一刻も早く脱しなければならない。
「道を、開けろー!」
 この事態にいち早く飛び込んだのは西表 アリカ(いりおもて・ありか)
 襲われそうに為っている人を見つけ、無限 大吾(むげん・だいご)と共に間に割って入る。
「セイヤァー!!」
 スピードを損なうことなく、オークの急所を狙って強力な突き技を見舞うアリカ。
 深々と急所を穿たれたオークは倒れるものの、
 その後方にはモンスターが這い寄ってきている。
 しかし、不動の盾の異名を持つ大吾は恐れずして、しゃんと立つ。
「俺が皆の盾になる! 不動の盾は、揺るぎはしない!」
 身体能力、精神力を限界まで高めて、モンスターの前に立ちはだかる大吾。
 距離があるうちにインフィニットヴァリスタPDW、ヘビーマシンピストルを乱射。
 敵の頭部目掛けて、弾丸を惜しげもなく発射していく。
 それに呼応するように桜葉 忍(さくらば・しのぶ)桜葉 香奈(さくらば・かな)が動き出す。
「守るというは意志は俺たちも一緒だ!」
 大吾が敵の注意を引き付けている間に、忍が敵の横っ面から急襲。
 極めに極めて剣技の数々が、空中を飛散する。
 横一閃したかと思えば、既に縦の一閃が決められ、
 まるで網目を構築する様に剣が振るわれる。
 その結果として残るのは、ゴブリンやオーク達が無残に倒れていくことだけ。
「皆さん、こちらへどうぞ」
 一方の香奈は先頭にいた市民たちを絶対領域で保護。
 張り巡らせた結界と、契約者達で構築された厚き防衛網を以ってして前を走る。
 壁からモンスターが這い出して来ているのは事実。
 だが、ここで立ち止まるわけにもいかない。
 多少危険でも、契約者達がモンスターを足止めしている間に駆け抜けるが先決だった。
「さあお前等の相手は僕だ! かかってこい!」
 敵の攻撃を堅実に受け止めた大吾に、アリカの助けが入る。
 攻撃を止められ空いたモンスターの脇に、スピードを潤沢に乗せた突きが刺さる。
 アリカが剣を引き抜くと同時に大吾がモンスターを突き飛ばして、
 穴から出てこようとするモンスターを無理やり押し戻した。
 更に、合流した新風 燕馬(にいかぜ・えんま)新風 颯馬(にいかぜ・そうま)真端 美夜湖(しんは・みよこ)カーミラ・アーバンレジェンド(かーみら・あーばんれじぇんど)も加勢する。
 大吾たち、忍たちの懸命な戦いによって、市民たちは無事に危機的状況を駆け抜ける。

「皆さんこちらへ……! あと少しで避難場所につきますから……!」
 レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)がか細い声を懸命に張り上げて、市民を誘導していく。
 パートナーであるエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)も、
 緊張の糸が解けて泣きそうになっている子供に「大丈夫だよ!」と声をかける。
 道の逆側にはジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)マーク・モルガン(まーく・もるがん)が誘導に当たっていた。
「ここは戦場じゃないのよ。それなのになによ、この惨状は……」
「姉さん、今は皆を逃がすことが先決だよ」
 泥まみれになって地下街を逃げる市民を見て、ジェニファが下唇を噛んだ。
 それをマークが優しく諭すと、ジェニファは一度目を閉じてぱしんと頬を叩いた。
「そうよね。情報をくれる人たち、
 今一緒に頑張ってくれているあの人たちと協力してこの場を切り抜けないと」
 ジェニファが誘導にあたるレジーヌやエリーズを見て、気を取り直す。
「情報では……そろそろ避難場所のはず……」
 レジーヌが銃型HCを見ながらそう呟く。
 と、一人の老人が転んでしまう。この雑踏の中で転ぶのは危険。
 そう判断したレジーヌはすぐさま老人のところへ駆け寄り、肩を貸す。
「す、すまんのぅ。こんな老い先短い老人に手を煩わせて」
「ワタシたちは全員を助けます……安心してください」
 はっきりとした口調で老人に言うレジーヌ。
 その言葉を聞いた老人は「ああ、すまんのぅ。頼む」とレジーヌに本音を吐露した。
 しかし、避難民の疲労は限界に来ていた。
 肉体的な損傷はジェニファやマークのヒールがあるため問題はないのだが、
 この状況下では精神的な部分でかなり疲弊する。
 どれだけ元気づけようと、精神は磨り減っていくものだ。

 ザッザッザッザッザッ

 前方から何かの足音が聞こえる。
 ……モンスターかもしれない。
 レジーヌたち、ジェニファたちは身構え、固唾を呑んで前方を凝視する。
「失礼。俺の名はエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)、見ての通りモンスターではないよ」
 現れたのはモンスターではなかった。
 エースの柔らかな物腰を見た全員がほっと胸を撫で下ろす。
「モンスターは、いないな。今のうちだ」
 後方を見やったメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)の言葉にエースが頷き、
 レジーヌやジェニファと協力して避難場所へと誘導していく。

 地下街を抜けると、半径数百メートル程度の公園があった。
 公園の敷地には巨大な魔方陣がぼんやりと光っていた。
「少し細工をしておいたんだ。力が漲ってくるといいんだけれど」
 公園内に入った市民は、体中から漲る力を感じていた。
「ちょっと身体に異常を感じ人はこちらへどうぞですよ〜」
 公園内で怪我人を見てまわるヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)
 彼女はどんな人に対しても、分け隔てなく接し、治療を進めていく。
 謙遜しひたすらに申し訳なさそうにする人がいれば励ましついでに背中をさすり、
 怒り散らしている人がいれば、回復ついでに背中をバンと叩いて根性を叩きなおす。
 一切の差別なく、自分の信念に従って終始笑顔で治療を進めていく。
 ヴァーナーのパートナーであるセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)は、
 サンダーバードを召喚して、周囲に目を光らせ警戒に専念していた。
「ここまで来れば安全ですから、元気を出してください……」
「暗い顔をしていないで、シャキっとしなさいっ」
 レジーヌは優しく、ジェニファは気さくに市民を元気づけていくが、
 市民の顔は未だ不安のため、暗雲立ち込めていた。


「みんなー! ちょっと顔が暗いよー!」


 その暗雲を断ち切る、通りのよい声が公園内に響いた。
「不安なのは痛い程わかりますわ。
 ですがこの事態を収拾しようと、色々な人たちが尽力してくれています」
「だから信じよう! 尽力してくれる人たちを、ねっ!」
 アイドル【ワイヴァーンドールズ】である五十嵐 理沙(いがらし・りさ)セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)が、
 公園の一角で身振り手振りで市民へと伝えたいことを訴える。
「いざとなったら、そこのトラックで世界の果てまでドライブよ!」
「ですが今はまだ、皆さんを信じて待ちましょう……」
 理沙とセレスティアの声を聞いて、少しだけ暗雲に晴れ間が覗く。
「その調子その調子! それじゃもっともっと晴れ渡っていきましょー!」
 二人が歌い始める。
 元気な理沙の声と、しとやかなセレスティアの声が重なり合い、
 耳と心に心地よく響いていく。
 市民達の顔も安らぎで歪み、立ち込めていた暗雲は徐々に徐々に晴れ渡っていく。
「まだまだいっくよー!」
 理沙達のヒットメドレーはまだまだ続いていく。
 だからこそ市民達の笑顔もまだまだ続いていく。