空京

校長室

終焉の絆 第二回

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終焉の絆 第二回
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【1】アルティメットクイーン 4

 アルティメットクイーンにはもう戦うだけの力は残されていなかった。
 そこに、まるで事態を傍観していたかのようなタイミングでイマが現れる。彼はクイーンの方へ歩もうとしたが、その瞬間、突如として現れた人影にその手を阻まれた。
「すまない。けど、もう勝負は決したはずだ。ここで収めてはもらえないか」
 それは源 鉄心(みなもと・てっしん)だった。
 彼はイマの手を離し、イマは立ち止ったまま、改めてアルティメットクイーンを見やった。
「そうか……もう、“折れた”か」
 イマは呟き、それ以上、彼女に何をするという気はなさそうだった。
 鉄心のパートナーであるティー・ティー(てぃー・てぃー)がクイーンに駆け寄った。
 ちょうどその時、クイーンは永い眠りから覚めたように目を開いたところだった。
「そう…………私……は……」
 アルティメットクイーンは自らの全てを悟ったようだった。
 彼女は全ての力を出し切ったのだ。しかしその上で、この地に伏している。それがクイーンにとっての現実だった。
「負けたのですね……私は……。また、選ばれなかった……」
「クイーンさん……」
 ティーは仰向けのまま空を見上げ続けるクイーンに寄り添った。
 クイーンは静かに絶望を感じているようだった。彼女にとって、唯一の拠り所だった女王器はもうない。そして自らも負けた。契約者達の前に、彼女は敗北を喫したのだ。
 それを深いほどに痛感しているようだった。
 しかし、そこに、
「――可能性は捨てられちゃいないさ、クイーン」
 鉄心は近づき、静かに言い添えた。
「キミのいた時間軸では、俺達とキミは出会っていないんだろう? 選択と可能性。誰かが生きて、誰かがいなくなる。いくつもある可能性と選択の中で、キミと俺達が出会ったのは、もしかしたら運命なのかもしれない。世界が、生きることを認めてくれた」
「世界が……?」
「未来は一つじゃない。だったら……、“正しい滅び”を迎えないで済む世界だって、あるかもしれないだろ? その可能性に、賭けてみないか?」
「可能性……」
 鉄心の言葉を、クイーンは繰り返した。
 と、そこに、アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)が現れる。
 その手が握るのは一丁のマスケット銃だ。銃身には太陽と月の意匠が施されている。
 アルクラントはそのマスケット銃を片手で構え、銃口をクイーンの額に突きつけた。引き金を引けばそこでクイーンは死ぬ。それほど間近の距離である。
 仲間の契約者達はあえてそれを止めようとはしなかった。
 いずれにせよクイーンは、死んでもおかしくない相手である。それでも彼女を案ずる者が、時間と猶予を与えたいと思ったのかもしれなかった。
 アルクラントは引き金を引かなかった。その指先は引き金にかけられているものの、彼の目は静かにクイーンを見つめていた。
「…………引かないのですか?」
 クイーンは訊いた。アルクラントはそっと口を開いた。
「必要ならそうするよ」
「必要なら?」
「君自身がそれを必要とするなら、ね」
 いつだって引ける覚悟がある。そう伝えるように、アルクラントはわずかに引き金にかけられていた指に力を込めた。
「クイーン……」
 シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)がアルクラントの後ろから現れた。
 切なげな目がアルティメットクイーンを見つめていた。クイーンはその目を見たとしても、自分の視線を外そうとは思わなかった。
「あなたは世界を救いたいの? それとも、世界を自分が救った、と思いたいの?」
「……私を『分かる』というのですか」
「あなたを見てると、まるで、救いを求めてるみたいに見える。自分という存在の価値を、この世界そのものに認めてもらいたいように……。でも、救われた世界を一緒に見る人が居なくなったら、そんなの意味がないじゃない」
「…………私は、誰と、世界を見たかった……」
 クイーンは呻き、そして、まるですがるように言った。
「……私がここまで来た意味は……」
「意味はあったさ。少なくとも、君は時空を飛び越え、そして私達の運命を変えた」
 アルクラントは言った。
「あなた方の運命を?」
 クイーンは驚いたように顔をあげる。アルクラントはうなずいた。
「ああ。それだけでも、未来は変わるかもしれないと思わないか? 未来は誰にも分からない。確かに過ちは何度も繰り返されたかもしれないけど、今回はそうではないかもしれない。こうして君が時間線を越えて私達の時代へやって来たこと、創造主からカケラが生み落とされたこと、ソウルアベレイターがカケラの意志に従おうとしていること……。運命は少しずつ、変わろうとしているように思わないかい?」
「少しずつ……」
「私は希望を持ち続ける」
 アルクラントは決然と言い切った。
 そして、そっと引き金から手を離した。
「君にもそれを信じて欲しい。私や、シルフィアのように」
「…………」
 黙りこむクイーンの傍に、シルフィアが座り込んだ。
「世界は――私達が救います。ですから、信じて下さい。未来を……」
「………………」
 クイーンは空に向けて、まるで自らに囁くように何事かを呟いた。その声は小さくか細い。言葉は風に消えたが、それは誰かに向けた懺悔のようでもあった。