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リアクション
地球の戦い 5
――日本、海京。
この国には、パラミタと繋がっている場所が二ヶ所ある。
一つは首都、東京。
そしてもう一つがここ、海京だ。
「思っていたよりも、数が多い」
ディメンションサイトで周囲の状況を把握した榊 朝斗(さかき・あさと)は呟いた。
連絡によれば東京の方により多くの怪物が湧いているようだが、ここも決して少なくない。無論、怪物たちの狙いは天沼矛内に設けられた儀式場だ。
「行くわよ、朝斗」
ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が退魔槍:エクソシアに武器凶化を施す。
「……まさか、また海京の街で戦う日が来るなんてね」
朝斗の脳裏を過ったのは、三年前の『6月事件』だ。次々と湧いてくる怪物はその多くが人型であり、ただ操られるがままに動いているという点でも、あの時の事を重ねずにはいられない。
「行きなさい、堕黒鳥!」
動きの鈍った怪物に対し、ルシェンが堕黒鳥をけしかける。
彼女の援護を受け、朝斗はPTWとシュタイフェブリーゼを起動し、宙を駆けるようにして怪物たちを翻弄していった。
敵の1体1体はそれほど強くない。だが、倒せば倒すほど、彼らを警戒してか怪物たちは数を増していく。
「このままじゃキリがない……!」
そこへ突如炎が走り、怪物たちを消し炭にしていった。
「抜刀――火之迦具土」
それを放ったのは、長い黒髪と赤い瞳を女性だ。
「ハイィー!!」
次いで炎の前に躍り出て疾風のごとく舞い、掌打と旋脚をもって怪物たちを蹴散らすチャイナドレス風の制服を纏った女の姿が現れた。
「どうにか合流できたな。北地区の避難は完了した」
海京警察内特務組織に所属しているルージュ・ベルモントと、紆余曲折を経て彼女のパートナーとなった黄 鈴麗の二人だ。
しかし、それでもなお怪物の数は減らない。
「あいやー、しかしこうも湧いてこられるとキリないネ」
鈴麗がぼやいた直後、今度は朝斗たちのいる一帯に強烈な冷気が走り、怪物たちが凍りついた。
「抜刀――氷月雪花。先輩方、遅れて申し訳ございません」
天学風紀委員の雪比良 せつな(ゆきひら・せつな)だ。
「南地区の避難誘導は完了しました」
「東の方は、“執行官”とかいう人から連絡があったネ。『人がいないから、これで心置きなく怪物どもを断罪できる』って」
「それじゃ、残るはここ西地区だけだね」
朝斗は氷の隙間から飛び出して来た怪物を鋼の蛇で拘束し、貫いた。
が、それは一体だけではない。
「ルージュさん!」
ルージュの背後に、突如怪物が「発生」した。
だがそれは、さらなる二人の乱入者によって打ち倒される。
「久しぶりだな、ルル」
桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)とエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の二人だ。
「姐さんたちも、お元気そうで」
「こうしてまた、かつての風紀委員メンバーで戦う事ができるなんてね」
「ここに来る途中天学風紀委員のちょっと早い同窓会をやってると聞いたが、本当だったな」
「海京残留組ではちょくちょく集まってたんだがな。まあ、ニルヴァーナとかに行かれてちゃ、招待状を送ったところでちゃんと本人に届くか怪しいし、なかなか誘えなかったもんだ」
久しぶりの再会に、軽口を叩く一行。もちろん、その間も一切警戒を怠る事はない。
「創造主の方は他の仲間たちがなんとかしてくれるさ。
だから俺達は皆が帰ってくる場所を守る、そうだろう?」
煉が黒焔刀『業火』を解刀する。
その真の力を引き出すために。
「守ってみせるさ、俺がパラミタで手に入れたこの『剣帝』の力でな」
戦力では、こちらの方が優位。だが、敵はいくらでも湧いて出てくる。儀式が終わるまで、倒し続けなくてはならない。
「皆さん、聞いて下さい」
ルシェンが、敵の動きで気付いた事を告げる。
「怪物は確かに倒しても出続けてきますが……“消滅”させる事ができれば、しばらくは出てこない事が分かりました」
「それなら、一度完全に殲滅してしまえば、ある程度時間は稼げるってわけね」
ルシェンを含め、ここには大技持ちが四人いる。
「僕たちで注意を引き付ける」
「ここは任せて欲しいネ」
「あたしたちが帰る場所なんだ、自分の手で守らないとな!」
朝斗、鈴麗、エヴァが敵の陽動に移る。
機動力の朝斗、格闘術の鈴麗、炎と幻影による攪乱のエヴァ。
「絶対に滅ぼさせたりしねぇ! ……だ、大好きな煉と出会えたこの世界を!」
感情が昂ぶったのか、エヴァが盛大に叫ぶ。
「そういうのは、戦いながら言うもんじゃないぞ」
「ひゅー、熱いネ」
などと海警特務に言われ、顔を赤らめた。
「……と、十分誘いには乗ってくれたみたいだな。準備はいいか?」
ルージュの身体が熱気を帯びる。
最初に切り出したのは、煉だ。
彼の伸びた刃が、怪物たちを薙ぎ払う。
続いて、ルシェンが魔力解放によって最大限に引き出した魔力をもって、渾爆魔波を放った。
「……これでもまだ半分ってところか」
ルージュの持つ刀の刀身が蒼白く染まる。彼女の斬撃に合わせ炎は地を這い、進路上にあったものを地面ごと“蒸発”させた。
「あとは、上か。――せつな!」
せつなが背中に氷の翼を生やし、空へと飛ぶ。そして、氷月雪花を振るった。
冷気は猛吹雪となり、上空から飛来する怪物たちを凍てつかせ、砕いていく。
「ひとまず、目の前の敵は全部片付いたな」
煉が周囲を見渡した。ちょうどその時、ルージュに通信が入った。
「俺だ。了解した。
……みんな、たった今西地区の住人も、現在海京にいる者は全員確認が取れたとのことだ」
これで、中央地区の天沼矛以外には、一般人はいないという事になった。
「あとは、持ちこたえるだけだね」
祈りが無事届くように――彼らは戦い続けるのであった。