空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

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【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
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リアクション


地球の戦い 6


 ――日本、東京。
 既に上空には多くの怪物たちが出現し、儀式場へと向かっていた。
 現在、日本の自衛隊および国連軍による第一次部隊が交戦中であり、救援に来たシャンバラの契約者によるイコン部隊も出撃準備が整いつつある。
「まさか、日本が戦場になるとはな。ま、海京じゃなくたってやる事はいつもと変わらねぇ。機体を最高の状態にして送り出すだけだ」
 真田 恵美(さなだ・めぐみ)が自分に言い聞かせた。
「第二次迎撃部隊、最終フェイズに入りました。機体は順次発進可能です。カタパルトの準備、お願いします」
 長谷川 真琴(はせがわ・まこと)はノートPCを開き、各所の整備状況を確認、指示を出していた。
 整備や機体の把握に関しては、第一世代機が運用され始めた当初からイコンの整備に従事して来た彼女の右に出る者はほとんどいないだろう。
 今、彼女が地球勢力が集結する最前線まで出向いているのは、それに依るところが大きい。
「こちらも完了よ。あとは、損傷して戻ってきた機体の応急処置ね」
 荒井 雅香(あらい・もとか)が真琴の声に応じた。
 東京上空における怪物は、イコン相当か、それよりも巨大だ。一体一体の力は大したことはないものの、「化け物」との交戦経験に乏しい地球の戦力は、ゆるやかにではあるが削られつつある。
「今んとこ、戻ってこれるだけマシってなもんだ。損傷が軽度なら、ここの設備で十分直せる」
 イワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)が言った。地球勢力も実戦経験が不足こそしているものの、ここにいるパイロットの多くは一線級だ。戦死者がまだほとんど出ていないのも、それが大きな理由だろう。
 そして、これから出撃するのは、経験も実力も十分な者たちだ。
「気持ちで負けんじゃねえぞ! ここまで来たら、自分の力を信じるだけだ!」
「大丈夫、ただの怪物なんかに、私たちが整備したイコンが負けるはずがないでしょ?
 これまでだってそうだったし、これからもそうよ」
 イワン、雅香が出撃準備に入っているパイロットたちに檄を飛ばす。
「そうですね。これまでだって、厳しい戦いは何度もありました。ですが、私たちはそれを乗り越えて来たのです。今度も絶対、大丈夫です」
 真琴の元に、各セクションからの連絡が届く。
 最終フェイズ終了。主力部隊が満を持して出撃する。
「いよいよだ、みんな。これから続く未来のために、今は儀式場を守り抜こう」
 整備班と共にいる、大文字 勇作博士が言葉を発した。
 彼もまたイコンに携わる者として、また『最新兵器』の運用のために、この場に呼ばれていた。
「勇作さん……いえ、大文字司令。いよいよですね」
 この時代では決して見ることは叶わないと思われていたものが、ここにはある――。

* * *


 ――東京上空。

「蒼空戦士ハーティオン! いざ参る!」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、パワーを全開にして剣を構え、怪物の群れに飛び込んだ。
 巨体な彼ではあるが、それでも怪物たちに比べればかなり小さく見える。
 それでも、剣一つで怪物を屠っていく。
 しかし、敵の物量は圧倒的だ。
「このままではいずれ押し切られるか……」
ハーティオンは地上にいる大文字博士に回線を繋いだ。
「大文字博士、今こそグランガクインを呼ぶ時だ!」
 グランガクインとは、博士が秘密裏に学院で開発している巨大イコンだ。もちろん、この時代においては起動はおろか、形すらほとんどできていない。
「まーたバカな事言いだして……あれが今動くわけないでしょ」
 パートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)が呆れ気味に呟く。
「あんた達の声はね、『動く方』にキッチリ届けなきゃ!」
 ラブが微笑を浮かべた。
「ま、あたしに任せなさい♪
 あたしの歌はね…ずっと未来の『誰かさん達』にだって届くんだから!
 さー!ラブちゃん一世一代の【ラブ・レター】! 歌い届けるわよ!」
 彼女は歌い始めた。
 そのラブ・レターの届け先は、未来の大文字博士。その歌声は確かに、どこにいようとも届く。
 だが、果たして時空を超えることは可能なのだろうか。
「私は遠き未来の地で彼の『心』に出会った。人を、世界を愛し、悪と戦うその心に!
 ならば大文字博士! 彼の心を築いた貴方の声にならば……彼はきっと応えてくれる!」
 通信先から、博士が笑う声が聞こえたような気がした。
『ハーティオン君、それだけの熱い想いがある君なら、きっと“それ”を扱いこなせるだろう』
 コンテナを釣った一機の高速輸送機が、ハーティオンの視界に入った。コンテナが開き、中から現れたものは――。
「見た目こそ小さいが、“タマムスビドライブ”は使用可能だ。さあ、受け取りたまえ!」
 機体サイズこそ本物の十分の一程度――それでも通常のイコンよりは遥かに巨大なのだが、その姿は紛れもなくグランガクインであった。
司城 雪姫君やギルバート・エザキ博士には感謝せねばならんな。おかげで、こうして形にする事が叶った。 さあ行け、リトル・グランガクイン!』
 まさかの登場に、ハーティオンのハート・エナジー(絆)が昂ぶる。
「ありがとう…大文字博士! そしてグランガクイン! 
 さぁ皆…共に行こう! 今こそ心を…ただ一つに!」
 機体へと向かい、彼は叫んだ。
『合体だ!!』
 次の瞬間、大きな光が発生し、周囲の怪物たちを薙ぎ払っていった。


「怪物たちの数が一気に減ったわね……今の光は一体?」
 先行部隊の一員として戦況把握に当たっていたイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は、フィーニクス・NX/Fの機体からそれを見た。
「大文字博士の『例の兵器』よ。まさか、実戦投入できるようになっていたとはね」
 ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)がぶっきらぼうに言い放った。
「雪姫さん、聞こえてる?」
『肯定。通信状態は良好。そちらのデータもちゃんと届いている』
 淡々とした声がコックピットに返ってくる。
『おかげで怪物の発生頻度にある程度法則性がある事が判明した』
 雪姫の判断は早い。それは彼女の出自を考えれば当然かもしれない。
 が、イーリャはあくまで彼女を一人の少女として見ている。
「雪姫さん……あなたは新たな何かを作れる人よ。そう作られたからじゃない、それを超えた何かをもっている」
 イーリャは言葉を続ける。
「私はいつも2番手よ。改善はできても創造はできない……。また背負うものを増やしてしまうかもしれないけれど……貴方ならできるわ。新しい世界を、お願い」
『肯定。あなたも、御無事で』
 通信を切る。
 ここからは情報収集だけでなく、敵の殲滅にもあたるためだ。
「いくわよ、ジヴァ」
「……そうね。あたしの『量子知覚』が見た未来に破滅なんてない」
 ジヴァが静かに呟いた。
「今、全てが分かった。フィーニクス、あなたのすべてが、未来が!」
 量子知覚によって、先読みを行う。負ける気はしない。
「いきなさい、インファント・ユニット!」
 バーデュナミス用の支援ユニットを発射する。機体から離れ自在に飛び回る機械の雛鳥がビームを放ち、怪物を貫いていった。
(雪姫、あなたも全力を見せてみなさい! 作られただけの力なんて超えたもの、あるはずでしょ!?)

* * *


「まさか、こんなに湧いて出てくるとはね……こいつらを地上へ行かせるわけにはいかない!」
 ヴァ―ミリオンを駆る十七夜 リオ(かなき・りお)は、イコンに似た半機械の怪物の群れを見た。
「フェル、行くよ」
「ええ……ここで確実に、止めます」
 フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)がV-LWSによる加速を行い、敵陣へと飛び込む。
 そんな中、彼女の目に一機のイコンは留まった。迷彩塗装が施された青い機体。クルキアータに似ているが、ところどころの意匠は異なる。
 武器はビームサーベルのみ。だが、圧倒的な機動力をもって怪物たちをまるで寄せ付けない。
 その戦闘スタイルに、リオはある人物を思い出した。
「その戦い方、エヴァン・ロッテンマイヤーだな!?」
 かつて敵として対峙し、現在は地球で傭兵をやっていると噂では聞いていた。まさか、ここで会う事になろうとは。
『どっかで聞いた声が聞こえるぜ。まさかまた会う日が来ようとはな』
「男の声? あれ、確かあの時……」
『あれから色々あったんだよ。ウェストのクソ野郎の都合で『復元』されちまったな。あの素体、ヤツにとっちゃ貴重なものだったらしい』
 そこへ、別の通信が割り込んできた。
『兄さん? エヴァン兄さんなの!?』
 ヴェロニカ・シュルツ(べろにか・しゅるつ)の声だ。彼女も、リオたちと同様に、イコン部隊の一員として出撃している。
『その声……ヴェロニカか? ったく、お前までいるとはな』
 しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。
「再会を喜ぶのと近況報告は後にしましょ。その前に大仕事を片付けないと」
『だな。世界が滅んじまったら元も子もねー』
 青い機体と、ヴェロニカの改型ブルースロートが合流する。
『あれからもう結構な時間が経ってるが、その機体が見かけ倒しじゃねーことを祈るぜ』
「そっちこそ、腕は鈍ってないでしょうね?」
『誰に言ってんだ? オレがガキに負けるわきゃねーだろ? なあ、ヴェロニカ』
『え、う、うん。そうだね』
 どこか歯切れが悪い。再会への戸惑いはやっぱりあるのだろう。
「どうせ、覚醒なんかしなくても負けるつもりはない、とでも言うつもりなのでしょう?」
『なもん、使ったこともねーよ』
「こちらとて、あの時から成長はしています。覚醒無しの技量勝負。どちらのスコアが上か、それで勝負と参りましょう」
 怪物をより多く殲滅した者の勝ち。実にシンプルだ。
『ま、こいつらをどうにかしなきゃいけねーのは同じだからな。乗ってやるよ』
「それじゃあ、最初で最後の共闘と行きましょうか!!」
「リオ、見せてやりましょう。ワタシ達とヴァーミリオンの力を!!」
 スラスター全開、二つの機体は並ぶようにして怪物たちの中に飛び込み、次々と落としていく。
 かつては圧倒的な隔たりがあったが、今はもう肩を並べて戦えるようになっている。
『やるじゃねーか』
「そっちこそ!」
 そんな様子を見て、ヴェロニカが呆気にとられる。
『ヴェロニカ、わたしたちも行くわよ。ちゃんと援護はしないと』
『そうだね、セラ。私だって……!』
 ブルースロートがビームスナイパーライフルを構え、怪物たちを遠くから撃ち抜いていった。
 それでもなお、怪物たちは湧いて出てくる。その頻度はそう早くないが、完全に消えることはない。
「まだまだ夢の入口に立ったばかりなんだ。こんなところで終われるか!」
 それでもなお、リオたちは全てが無事に終わる事を信じ、敵の真っただ中を飛び続けた。