校長室
リアクション
* * * ――東京上空。 「蒼空戦士ハーティオン! いざ参る!」 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、パワーを全開にして剣を構え、怪物の群れに飛び込んだ。 巨体な彼ではあるが、それでも怪物たちに比べればかなり小さく見える。 それでも、剣一つで怪物を屠っていく。 しかし、敵の物量は圧倒的だ。 「このままではいずれ押し切られるか……」 ハーティオンは地上にいる大文字博士に回線を繋いだ。 「大文字博士、今こそグランガクインを呼ぶ時だ!」 グランガクインとは、博士が秘密裏に学院で開発している巨大イコンだ。もちろん、この時代においては起動はおろか、形すらほとんどできていない。 「まーたバカな事言いだして……あれが今動くわけないでしょ」 パートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)が呆れ気味に呟く。 「あんた達の声はね、『動く方』にキッチリ届けなきゃ!」 ラブが微笑を浮かべた。 「ま、あたしに任せなさい♪ あたしの歌はね…ずっと未来の『誰かさん達』にだって届くんだから! さー!ラブちゃん一世一代の【ラブ・レター】! 歌い届けるわよ!」 彼女は歌い始めた。 そのラブ・レターの届け先は、未来の大文字博士。その歌声は確かに、どこにいようとも届く。 だが、果たして時空を超えることは可能なのだろうか。 「私は遠き未来の地で彼の『心』に出会った。人を、世界を愛し、悪と戦うその心に! ならば大文字博士! 彼の心を築いた貴方の声にならば……彼はきっと応えてくれる!」 通信先から、博士が笑う声が聞こえたような気がした。 『ハーティオン君、それだけの熱い想いがある君なら、きっと“それ”を扱いこなせるだろう』 コンテナを釣った一機の高速輸送機が、ハーティオンの視界に入った。コンテナが開き、中から現れたものは――。 「見た目こそ小さいが、“タマムスビドライブ”は使用可能だ。さあ、受け取りたまえ!」 機体サイズこそ本物の十分の一程度――それでも通常のイコンよりは遥かに巨大なのだが、その姿は紛れもなくグランガクインであった。 『司城 雪姫君やギルバート・エザキ博士には感謝せねばならんな。おかげで、こうして形にする事が叶った。 さあ行け、リトル・グランガクイン!』 まさかの登場に、ハーティオンのハート・エナジー(絆)が昂ぶる。 「ありがとう…大文字博士! そしてグランガクイン! さぁ皆…共に行こう! 今こそ心を…ただ一つに!」 機体へと向かい、彼は叫んだ。 『合体だ!!』 次の瞬間、大きな光が発生し、周囲の怪物たちを薙ぎ払っていった。 「怪物たちの数が一気に減ったわね……今の光は一体?」 先行部隊の一員として戦況把握に当たっていたイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は、フィーニクス・NX/Fの機体からそれを見た。 「大文字博士の『例の兵器』よ。まさか、実戦投入できるようになっていたとはね」 ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)がぶっきらぼうに言い放った。 「雪姫さん、聞こえてる?」 『肯定。通信状態は良好。そちらのデータもちゃんと届いている』 淡々とした声がコックピットに返ってくる。 『おかげで怪物の発生頻度にある程度法則性がある事が判明した』 雪姫の判断は早い。それは彼女の出自を考えれば当然かもしれない。 が、イーリャはあくまで彼女を一人の少女として見ている。 「雪姫さん……あなたは新たな何かを作れる人よ。そう作られたからじゃない、それを超えた何かをもっている」 イーリャは言葉を続ける。 「私はいつも2番手よ。改善はできても創造はできない……。また背負うものを増やしてしまうかもしれないけれど……貴方ならできるわ。新しい世界を、お願い」 『肯定。あなたも、御無事で』 通信を切る。 ここからは情報収集だけでなく、敵の殲滅にもあたるためだ。 「いくわよ、ジヴァ」 「……そうね。あたしの『量子知覚』が見た未来に破滅なんてない」 ジヴァが静かに呟いた。 「今、全てが分かった。フィーニクス、あなたのすべてが、未来が!」 量子知覚によって、先読みを行う。負ける気はしない。 「いきなさい、インファント・ユニット!」 バーデュナミス用の支援ユニットを発射する。機体から離れ自在に飛び回る機械の雛鳥がビームを放ち、怪物を貫いていった。 (雪姫、あなたも全力を見せてみなさい! 作られただけの力なんて超えたもの、あるはずでしょ!?) * * * 「まさか、こんなに湧いて出てくるとはね……こいつらを地上へ行かせるわけにはいかない!」 ヴァ―ミリオンを駆る十七夜 リオ(かなき・りお)は、イコンに似た半機械の怪物の群れを見た。 「フェル、行くよ」 「ええ……ここで確実に、止めます」 フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)がV-LWSによる加速を行い、敵陣へと飛び込む。 そんな中、彼女の目に一機のイコンは留まった。迷彩塗装が施された青い機体。クルキアータに似ているが、ところどころの意匠は異なる。 武器はビームサーベルのみ。だが、圧倒的な機動力をもって怪物たちをまるで寄せ付けない。 その戦闘スタイルに、リオはある人物を思い出した。 「その戦い方、エヴァン・ロッテンマイヤーだな!?」 かつて敵として対峙し、現在は地球で傭兵をやっていると噂では聞いていた。まさか、ここで会う事になろうとは。 『どっかで聞いた声が聞こえるぜ。まさかまた会う日が来ようとはな』 「男の声? あれ、確かあの時……」 『あれから色々あったんだよ。ウェストのクソ野郎の都合で『復元』されちまったな。あの素体、ヤツにとっちゃ貴重なものだったらしい』 そこへ、別の通信が割り込んできた。 『兄さん? エヴァン兄さんなの!?』 ヴェロニカ・シュルツ(べろにか・しゅるつ)の声だ。彼女も、リオたちと同様に、イコン部隊の一員として出撃している。 『その声……ヴェロニカか? ったく、お前までいるとはな』 しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。 「再会を喜ぶのと近況報告は後にしましょ。その前に大仕事を片付けないと」 『だな。世界が滅んじまったら元も子もねー』 青い機体と、ヴェロニカの改型ブルースロートが合流する。 『あれからもう結構な時間が経ってるが、その機体が見かけ倒しじゃねーことを祈るぜ』 「そっちこそ、腕は鈍ってないでしょうね?」 『誰に言ってんだ? オレがガキに負けるわきゃねーだろ? なあ、ヴェロニカ』 『え、う、うん。そうだね』 どこか歯切れが悪い。再会への戸惑いはやっぱりあるのだろう。 「どうせ、覚醒なんかしなくても負けるつもりはない、とでも言うつもりなのでしょう?」 『なもん、使ったこともねーよ』 「こちらとて、あの時から成長はしています。覚醒無しの技量勝負。どちらのスコアが上か、それで勝負と参りましょう」 怪物をより多く殲滅した者の勝ち。実にシンプルだ。 『ま、こいつらをどうにかしなきゃいけねーのは同じだからな。乗ってやるよ』 「それじゃあ、最初で最後の共闘と行きましょうか!!」 「リオ、見せてやりましょう。ワタシ達とヴァーミリオンの力を!!」 スラスター全開、二つの機体は並ぶようにして怪物たちの中に飛び込み、次々と落としていく。 かつては圧倒的な隔たりがあったが、今はもう肩を並べて戦えるようになっている。 『やるじゃねーか』 「そっちこそ!」 そんな様子を見て、ヴェロニカが呆気にとられる。 『ヴェロニカ、わたしたちも行くわよ。ちゃんと援護はしないと』 『そうだね、セラ。私だって……!』 ブルースロートがビームスナイパーライフルを構え、怪物たちを遠くから撃ち抜いていった。 それでもなお、怪物たちは湧いて出てくる。その頻度はそう早くないが、完全に消えることはない。 「まだまだ夢の入口に立ったばかりなんだ。こんなところで終われるか!」 それでもなお、リオたちは全てが無事に終わる事を信じ、敵の真っただ中を飛び続けた。 |
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