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5000年前の空中庭園

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5000年前の空中庭園

リアクション

「ちょっと、まずいんじゃないの?」
 魔鎧のニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)がパートナーである魔法少女ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の裾を引っ張りながら、耳元に話しかけてきた。
「これも冒険の醍醐味よ、うんうん」
 腕組みしながらウンウンと唸るルカルカにニケは呆れた様に瞳を覗いた。
 あはは、と苦笑いを浮かべて返すルカルカだが、自分に何ができるか考えるが、これといって妙案は浮かばない。
 いっそのこと対立の構図にでもなった方が立場としては明確なのだが、必死にお茶会に誘ったり、手伝いを申し出た仲間を思うと、それは不謹慎だと自責した。
「証を見せればええさかい」
「わわっ!?」
 ニケが驚くと、相談する2人の間からひょっこり顔を出したミンストレルの橘 柚子(たちばな・ゆず)がいた。
「驚かしてしもて……。うち、橘 柚子と申しまんねん」
「あ、ええっと、ルカルカ・ルーです。こっちがパートナーのニケ」
「ニケ・グラウコーピスです」
「ええね、仲がようて」
 扇でパタパタと仰ぎながら、柚子は屈託のない笑みを見せた。
「そ、それで、証って?」
「証は証どす。シャンバラ女王の妹君が作ったちゅうなら、その妹との証を見せればええ」
 証という単語を頭の中に巡らせたルカルカは、ハッとなった。
「何か思いついたの?」
 ニケがそう聞くと、ルカルカはウィンクして見せた。
 そして背筋を伸ばして、機晶姫に近づいて、ある物を見せた。
「これ……。どうですか!?」
 そう言ってルカルカは十二星華ティセラの頭飾りを機晶姫に見せた。
「……これは……主の……」
 ルカルカに証と呼べるものはなかったが、十二星華は少なからず関係がある。
 そこで深く察してくれれば、もしやと思ったのだ。
「……物で……は、ない……」
 が、ダメだった。
 いくら5000年の時が経とうとも、主の事を忘れるような機晶姫ではなかった。
「私は……」
 と、柚子も機晶姫の元にやってきた。
 先ほどとは口調が変わり、真剣そのものだった。
「彼女の傍にいた1人……だと思います。だから、傍にいた者の1人として、見守った1人として。ネフェルティティが眠りから覚め、戻ってくるのを共に待ちましょう」
 柚子の言葉の真偽を確かめるように、機晶姫は瞳を深く覗きこんだ。
「どうえ?」
「……しかし……証、では……」
 機晶姫が初めて揺らいで見せた。
 あと一息、あと一押し。
 そんな雰囲気がこの場を包んでいたが、やはり、これは冒険なのである。

「――ッ!」
 機晶姫は突然銃を構え、射撃した。
 その銃口の先には、機晶石に手を伸ばした地祇の戦ヶ原 無弦(いくさがはら・むげん)がいた。
「麗しゅう友情に酔うて気付かんと思ってましたが、やはりここの機晶姫は別格ですなぁ。さぞやこの機晶石も高く売れますな」
 無弦はくくくっ、と喉を鳴らして笑った。
 明らかに警告の意ではなく、殺意を持った射撃に臆することなく、再び機晶石に手を伸ばした。
「……警告、無視。これより、射殺……」
「周りが見えてませんな……。のぉ、六黒……ッ」
「ナッ――!?」
 機晶姫の懐に勇士の薬を飲んで加速した無弦のパートナーであるフェイタルリーパーの三道 六黒(みどう・むくろ)が潜り込むと、乱撃ソニックブレードを周りも巻き込んで放った。
 完全に油断していた面々は、自分自身の防御・受身に精一杯だった。
「機晶石を奪え、との依頼だ。悪く思うなよ。ここはわしが面倒を見る。おぬしはさっさと機晶石を奪って去れ」
「くくっ……そうさせてもらいますかな」
「やれやれ、物騒な話だ。花や絶景でも楽しめれば良かったものの……」
 出来事を遠目から見ていたテクノクラートの源 鉄心(みなもと・てっしん)が、六黒の前に出た。
「やるか?」
 六黒が口角を上げてニヤリと笑った。
 それを見て鉄心は、目的は確かに機晶石なのかもしれないが、六黒自身はただの戦闘狂のように見えた。
「ふう。それを悪用するような危険性のある奴らに渡そうとするキミを、見逃せない。排除・殲滅を優先とする。いくぞ、ティー!」
「はい! 敵の抑えに回ります!」
 鉄心のパートナーであるヴァルキリーのティー・ティー(てぃー・てぃー)は、剣を構えて六黒に飛び込んだ。
「フンッ!」
 ――ガキィィンッ!
 剣の鍔迫り合いは互角だった。
 鉄心は素早く位置取りを行い、六黒に射撃を行った。
 だが、上手く後方に難を逃れる。
「番犬というのは、しつこいんです!」
 休む暇も与えず、すかさずティーが距離を詰めて鍔迫り合いを演じた。
「楽しいなあ! せいぜい、わしのために生き延びるがよい!」
 五分五分だった均衡がついに崩れた。
「ティー! 無理はするな!」
 六黒の気力を前に圧されたのか、ティーは腹に蹴りを食らって吹き飛ばされた。
 何かが違うと鉄心はパートナーであるティーを見て感じた。
 ティーの動きは、いつもよりキレがなく、鈍かった。
「……それは、ヴァルキリー、だから。ここの、影響……」
 六黒の攻撃を食らって倒れていた機晶姫が起き上がると、原因を告げた。
 そう言われて鉄心は、なぜ自分が軽装できたのか思い出した。
 ヴァルキリーは塔の影響を受けるから、出来る限り交戦は避けようと身軽さを選んだのだ。
「俺の不注意だった! なら、責任を取らなければ!」
「……ソウ。責任を、取って……」
「え?」
 あろうことか、塔のために戦っている鉄心の頭上を機晶姫の射撃が通った。
「……理解。敵は……全て、デス……」
 事態は更に悪化し、綺麗に絡まった糸を解くには、少し、時間がかかりそうだった。

「クソッ! どうすればいいんだよ!」
 フェンリルは一度収めた剣の柄を再び握りながら、戦況を見つめた。
 まさか同行者からこんな事態に発展するとは思わずに、混乱していた。
「あ、あの。皆さんはお先に行っていて下さい」
 プリーストの姫宮 みこと(ひめみや・みこと)は、振り絞るように言った。
「しかし!」
「ボ、ボクはプリーストだから治療しかできないけど、ここに皆さんと留まり続けるのは時間が……」
「さるは妾が守ろう。そなたらは先を急ぐのじゃな」
 みことのパートナーである英霊本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)がそう宣言するが、三つ巴のような現状にフェンリルが決断できずにいた。
「では、よろしくお願いしますわ。庭園でお待ちしています」
 だが、美緒はあっさりとそう返事したのだ。
 丁寧にお辞儀をすると、軽快な足取りで階段を登っていった。
「泉……ッ!? すまない、ここは任せた……!」
「ボ、ボク達に任せてください」
 後衛に回ってしまうことに少し後ろめたさを覚えていたみことだが、フェンリルに任されたと言われて少し気が晴れたのだ。
 後衛もいなければ、戦いなどうまくいかないのだ。
「揚羽、悪い人と機晶姫さんが来たらお願いします。ボクは、傷ついた人の回復に行ってきます」
「矢面に立って攻撃を防ぐ役目じゃな。良かろう。でぃふぇんすしふと、とやらじゃな」
 みことが狙われないように、揚羽は六黒と機晶姫からの射線に立ちながら後を追った。
「い、今、ヒールをかけますから」
 みことは最も近くにいたティーにヒールをかけた。
「あり、がとう……」
 伸ばされたティーの手をぎゅっと握り返すと、不思議と勇気が沸いてくるような高揚感があった。
 視線は次の仲間を捉え、回復が終わると同時に駆けた。
「あ――ッ!」
「ふん……ッ!」
 機晶姫からみことへの流れ弾を、揚羽は叩き落して見せた。
「さるは次の回復に専念すればいいんじゃ」
 みことは力強く頷いたのだ。

「まさか内紛まで起きるなんて……凄い記録になってきたわ」
「ふふ……。人の欲望は、俺を悲しくさせる……」
「16階……メインシステム……誰も解読できず……機晶姫ちゃん……内紛……っと」
 記録、謡う、メモる。
 記録係は三つ巴の16階の最後尾で上階へ駆け上がっていった。