空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション公開中!

暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション

 ――天御柱学院 資料室
 
 資料室では現在起きているアリサ脱走と機晶姫暴走について、その対処がないかと調べている生徒が居る。彼らはその2つの騒動は関連していると推測している。アリサが機晶姫達を操っているのだろうと。
「アリサを回収した時も同じようなことが有ったみたいだしな」
 ツァンダでの研究所で起きたことのレポートを見ながら、矢野 佑一(やの・ゆういち)が言った。レポートによれば、研究所ではアリサの操る死体が動き、生徒たちを襲った。今回は起動していないはずの機晶姫が学院内で暴れている。
「死体が機晶姫に置き換わっただけだね」
 ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)の言うとおりだ。
「事がアリサのせいだって言うなら、俺も納得だ。うちらの先輩らも酷い実験に参加していたみたいだしな」
 押収資料の『被験体αに関する実験レポート』を《サイコメトリー》した御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が言う。レポートを書いた人物は天御柱学院の研究者だったことが見て取れた。
「にしても、彼女はどないやって機晶姫を操っとらはるん?」
 これだけ多くの機晶姫を一変に一人が操れるとは考えにくい。と思う綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)の疑問もまた、レポートに答えが記載されている。
「恐らく彼女の『無意識に干渉する力』が原因じゃろう」
 アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)がそう睨む。当たりだ。
「起動前の機晶姫に意識はない。じゃから、彼女らの『無意識』を利用して、自動的に攻撃するように命令を出しておるのじゃな」
 アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)の言うとおり、アリサは、いやアリスはそれを行っている。
 詳しくいいならアリスは《精神感応》のネットワークから機晶姫の近場にいる《精神感応》所持者を中継して、簡易的な命令を《テレパシー》で強制的に彼女たちの無意識流し込んだ。一度無意識に流し込まれた命令に従い、機晶姫は動く。それなら、何故彼女たちだけを操っているかと言えば、電子頭脳である彼女たちの方が、1つのプログラムに従って、複数体動いてくれるからだ。有機的な脳を持つモノや概念的な存在を操るよりも効率が良く、自動的に動いてくれる。
「裏付けとして、動いている機晶姫たちは操られていないから。起きている奴らは動かせないんだろうな。どっちにしたってアリサを止めなければ、騒動は収まらないってことだ」
 風花の【銃型HC】の映像を見ながら紫音は言った。 
「でもどうやってアリサさんを止める? 彼女は恐らく自分を実験した極東新大陸研究所と天御柱に復讐でこんな事しているんだろう? 人格が分裂する位だし、相当恨み持っているだろう」
 血の付いたアリサの日記からもそれが読み取れた。日記自体も日付がアリサのパラミタ化手術の後から書き始められていることから、精神治療の一環だったのかもしれないが、効果はなかったようだ。精神疾患を抑える薬の処方も適切でなかったのかもしれない。
 となると、彼女を説得し止めるのはかなり難しいだろう。
「……? 佑一さん、何この日記。ページが殆ど血でくっついていて読めないよ」
 ミシェルがくっついたページとページを剥がそうとする。しかし、うまくいかない。「貸してみろ」と紫音が日記を渡すように言う。
「こう言ったときは《サイコメトリー》したほうが手っ取り早いだろう」
 と、紫音。だが、日記の《サイコメトリー》は多少危険だ。書いた人間の記憶と感情が一気に流れ込むことがあり、その感情に当てられることもある。実際、この日記を《サイコメトリー》して当てられた人も居る。
 慎重に開かないページだけを《サイコメトリー》する。紫音の頭に、そこに書いている文章が見えてきた。
――――――――――――――――――――――――――
 #月 19日

 研究者の立ち話を耳にした。 
 
 聞いていない。強化人間になるのにそんなペナルティーがあるなんて聞いていない。
 
 強化人間になったら地球人意外と契約出来ないなんて!

 これじゃ、私あの人の役に立てないじゃない 

―――――――――――――――――――――――――

「まさか恋人でも居たのか?」
 女好きの紫音が残念そうに言う。アリサが美少女だと聞いていたからだろう。
「どなしたん?」
 風花の声音が少し起こり気味だった。
「いや、なんかアリサは誰かと契約したかったらしいんだが」
 「それは誰とじゃ?」とアルスが訊くが、紫音は頭を横に振った。
「そこまではわからない。ただ、パラミタ種族と契約したかったみたいだけど」
「強化人間になったのにか? それは原則無理じゃろう?」
 アストレアの言うとおり、強化人間は原則地球人としかパートナーになれない。
「もしかして、アリサさんは望んで強化人間になったが、契約のルールを知らなかった。そういう事ですか?」
 佑一の予測に、紫音が頷く。アリサはそのことを後から知ったために、恨みを持つようになったと考えれば、辻褄が合う。紫音が《サイコメトリー》した後の日記では、それまで耐えてきた実験への不満が爆発している。
「別の人格が生まれたのも、実験よりもそれのせいじゃない?」
 この日記の書かれた日、アリサは1つの支えを無くしたため、それまで耐えてきた実験に耐えられなくなり、自分の存在意地のためにもう一人の人格を生み出した。
 佑一たちはアリサについて更に調べることにした。

 しかし、彼は大きな見逃しをしていた。
 電脳種族である機晶姫をアリサが操れるなら、未覚醒状態の『剣の花嫁』も同じように操れる。と言う事を。
 そして、無意識とは何も、意識のない状態に限らないと言う事を――。