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暴走の眠り姫―アリスリモート-

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暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション

 ――天御柱学院内
 
 校内は暴れる機晶姫に加え、剣の花嫁も破壊活動に加わり、更なる混乱が起きていた。
 剣の花嫁は、機晶姫に対して数は少ないものの、その《光条兵器》は厄介極まりない。さらに、言えば彼女たちは機晶姫と違い、完全な機械体と言うわけではない。より人間に近く、腕を壊されれば、取替は利かないし、治すことも出来ない。貴重性もさることながら、暴れる彼女たちを無事に止めるのに苦労することと成る。
 こうなっては悠長なことはしてられない。一刻も早く根源であるアリサを見つけて、機晶姫と剣の花嫁を止めさせなければならない。
「香菜 おまえは大丈夫か? 体に異常はないか?」
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)はパートナーの剣の花嫁である東峰院 香奈(とうほういん・かな)を心配した。彼女が剣の花嫁であるならば、暴走する可能性だって十分にある。
「私はどこも異常ないよ、しーちゃん。心配してくれてありがとう」
「じゃが、油断するでないぞ。暴走の原因がわからぬのだからな」
 織田 信長(おだ・のぶなが)がそう注意を促すと、香菜は頷いた。
「信長の言うとおりだ、このままだと、香菜も暴走するかもしれない。でも、信長、アリサはどうやって機晶姫たちを暴走させているんだ?」
「それは私にもわからん。研究所の時のように《サイコキネシス》でというわけではなさそうじゃしのう……。その解明は別の者に任せて、捜索に集中するぞ!」
 ともかく、今はアリサを探すことが先決だった。しかし、校内では彼女の姿を見つけられない。
「桜葉!」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が忍を呼んだ。
「お前たちもアリスを探しているのか?」
「ああ、そうだ――、アリサじゃないのか?」
 忍はアリサが脱走したと聞いた。「どうやら別人格のほうが、騒動を起こしているらしい」と真司は答えた。
「兎も角、協力して探すぞ。少人数アリスと戦うのは危険だ」
 一度彼女と対峙した真司がそう言う。前回は精神体のみで襲ってきたが、今回は体を持っている。能力の出力が違っていても可笑しくない。
「真司!」
 リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が走ってくる。ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)もだ。
 「そっちは見つかったか?」と三人に訊くが、彼女たちは「見つからなかった」頭を振った。
「校舎内の監視カメラにも写っておらんかった。《テクノパシー》で写らんようにしているのじゃろうが、この分だと校内にはいないのかもしれんぞ」
 アレーティアがハックした映像を元にそう言う。
「となると、学院の外か」
「もしかすると、海京にある極東新大陸研究所の分所を狙ってるのやもしれんぞ」
 信長の意見に皆も納得する。
「確かに信長の言うとおりかもしれない。アリスが復讐目的なら、天御柱だけじゃなく研究所も潰したがるはずだ」
 と忍が言う。
「なるほど、天御柱への攻撃は機晶姫たちに任せて、自分は直接研究所に乗り込むってわけだな。急がないとな」
 真司たちはアリスを止めるべく、学院の外に向かった。

 ――海京

 佐野 和輝(さの・かずき)はアリスの隙を伺っていた。
 アニスを人質に取られ、為す術が無い。アリスがアニスに何をしたのか分からないが、アニスはアリスを無条件に慕っている。人見知りするアニスが今までに取ったことのない行動だ。
 操られているとしか思えない。なら、和輝はアニスを助けるため、アリスを攻撃するしかない。
 その隙を淡々と待つ。煮えたぎる腹の中を抑えながら――。
「!?」
 アリスが和輝の顔を覗き込んでいた。アリサが哂うと、和輝の頭が割れそうな程の痛みが走った。
「和輝!?」
 スノーが膝をつく和輝を支える。
「「いいぜぇ。やってみろヨォ? その代わり今のをこいつの頭が壊れるまでヤッちまうからよ」」
 和輝の心が《精神感応》を通じて読まれていた。どうやら、彼女の目的が果たされるまで迂闊には手を出せないらしい。
「「わかったな。裏切るなら裏切るでいいけどよ。またテメーの大事なものを無くす事になるぜ?」」
 和輝は歯噛みし、アリスを睨んだ。が、抵抗することはなかった。 再びアリスの先を歩く。
 そんな和輝の姿をスノーは見ていられなかった。誰か、彼とアニスを助けてと思う。
「――、いたぞ! アリサじゃ!」
 信長がアリスを発見する。
「「あら、なんかお出ましした見てぇだな……」」
 アリスは和輝に目で命令する。応戦しろと。
「教導団のかたが一緒にいますよ!?」
 まさか、彼らがアリスを連れ出したのではと、ヴェルリアは思う。
 和輝が攻撃を仕掛ける《歴戦の防御術》で【マシンピストル】の銃弾を受ける忍。
 香菜の《パワーブレス》が忍と信長に掛かると、信長は和輝を敵とみなして斬りかかる。スノーがそれを《エンデュア》で受けた。
「おぬしら何ゆえ、こやつの加勢をしておる!?」
 信長の問にスノーは答えない。【ハルバート】で信長の刀を弾く。
「お姉ちゃんの邪魔しちゃダメー!」
 アニスの《サイコキネシス》が忍と信長を弾き飛ばし、アリサとの距離を開けさせる。二人の衝撃をヴェルリアの《フォースフィールド》が緩和する。
「「よーし、いいこだ」」
 アリスがアニスを褒める。例えそれがアニスの意思によるものでなくても。
「大丈夫か桜葉!」
 遅れた真司たちが駆けつける。
「アリス、今すぐに機晶姫たちの暴走と止めろ!」
「「誰がそんなこと聞くかよ」」
 やはり、機晶姫の暴れているのはアリスが原因か。
「真司、言っても無駄そうだよ!」
 リーラが【如意棒】で攻撃するため《神速》でアリスに近づく。が、和輝がそれを阻んだ。
「「アハ、こいつぁイイや! 良く働いてくれる犬だ」」
 アリスは和輝たちの事をそう称した。
「この者たち、アリスに操られているようじゃ!」
 忍と信長に《ヒール》をかけ、アレーティアがそう判断する。
「アリス、あなたの目的が何かはわからないけど、こんな事はやめて!」
 ヴェルリアがアリスを説得しようとする。
「「やめるって誰がだよ? やめたところでワタシに何の得がある? 今度はテメーらがワタシの体を弄繰り回すだけだろう?」」
 今尚、アリスの一身は決まっていない。だが、このままだと極東新大陸研究所でも天御柱でも貴重なサンプルとして扱われることが眼に見えている。
「「ダーレがおめおめと捕まってやるかよ! 犬ども、加勢をつけてやるから、そいつらをヤれ! 豚の餌にしろ!」」
 アリスは機晶姫と、剣の花嫁を呼び出した。裏切られたときの為に和輝たちに見えない位置から自分を追わせていた奴だ。今、自分が操っている中で一番整備の行き届いている二体だ。
「「研究所の時も、お前らはワタシの邪魔をしてくれたなぁ。まずはそこのチビクソやれ!」」
 アリスは近くにいる機晶姫や剣の花嫁なら、細かい命令を下せる。狙うはアレーティアだ。研究所ではアレーティアの助言のせいで回収されたと言ってもいい。敵視している。
「アレーティア!」
 《光条兵器》の蒼光が彼女の本体を狙う。
 真司がアレーティアを庇うため、彼女に飛びつく。結果、《光条兵器》の光はアレーティアではなく、真司の胸を貫いた。
 真司がアレーティアに覆いかぶさったまま、動かなくなる。
「……真司」
 アレーティアが真司に触ると、手が赤く濡れた。彼から流れる血がアレーティアを染めていく。
「「――ッハ、ハハ。ザマねぇーな。 さあ他の豚も屠殺しねぇとな」」
 真司が倒れたことで、動けない者たちを狙おうと、機晶姫に次の命令を下そうとするアリサだった。
 しかし、その時、ヴァルリアが吠えた。

「……アアアアアアアアァアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!」

 少女の声に似つかわしくない、自ら喉を潰すような声が口から吐き出された。
 ヴェルリアの青い瞳が充血するように赤く変わると、一帯の人間を無差別に襲う《カタクリズム》が放たれた。
「ヴェルリアどうしたの!」
 リーラ呼びかける。しかし帰ってきたのは、返事ではなく彼女を狙った《サイコキネシス》だった。リーラは《殺気看破》のおかげでなんとか避けられた。
「気安く呼ばないでよ。模擬人格の連れクソみたいなくせに」
 傲慢に見下すような目付きをするヴェルリア。
「彼女もアリサ同様、人格が変わったの?」
 香菜が、驚く。さっきまでのヴェルリアとは別人だ。
「違う違う。変わったんじゃなくて元に戻っただけ。不正解者は退場ね」
 と、ヴェルリアは香菜に向かって《サイコキネシス》を放つ。吹き飛ばされた、香菜を忍が受け止める。
 アリスはまるで自分を観ているような錯覚を覚えた。彼女とヴェルリアには共通点も多い故だろう。
「「テメーらで殺し合ってくれるなら、手間ないなぁ。こいつらは放っておいていくぞ――」」
 かくいうアリスにも変化が起きる。苦痛に耐えるように頭を抱える。
「「くそ、こんな時にアリサのクソが……」」
 頭の中で、人格交代をアリサが促しているらしい。この瞬間ばかりは彼女の能力も低下した。アニスにかかった『無意識』の呪縛が解れ落ちた。
「和輝!」
 アニスの心がアリスへの慕情から恐怖に戻る。彼女は和輝の元に戻った。
「もう俺はあんたに従う必要はないな。アリス!」
 膝付くアリスに銃口を向ける。アリスは舌打ちした。
「「チクショウ。退くぞ!」」
 アリスは人格をアリサにとって変わられる前に機晶姫に命令をする。自分の体を回収させて、【ダッシュローラー】でこの場から離脱した。
「待つのじゃ!」
 追おうとする信長の前に【六連ミサイルポッド】の弾頭が飛んでくる。【クロスファイア】で撃ち落とさなければ、危ないところだった。
「あら、逃げちゃったんだ残念。せっかくお友達になれそうだったのに」
 そんなこと心にも思っていないことをヴェルリアが言う。
「さて、真司はあいつがヤッてくれたことだし、他は私が殺さないとね。また「模擬人格」に出てこられたら嫌だし」
 別人格のヴェルリアは真司を抱えて、動けないアレーティアを狙う。
「じゃーね、アレーティア。リーラも後で送ってあげるから、向こうで楽しくしてなさい」
 《カタクリズム》を唱えようとする。
「――、誰が殺されたって言った」
 突如、真司の体が動く。ヴェルリアは驚き《カタクリズム》の発動が遅れた。真司に組み伏せられる。
「死んでいなかったの!?」
「……運良くな」
 アレーティアが気絶していたときに、名を呼び続けてくれたおかげで、真司は意識を取り戻すことができた。
 真司はアリサに使うはずだった【Pキャンセラー】をヴェルリアの首に突き当てた。そして、《テレパシー》で自分の知るヴェルリアの人格を呼び戻す。
「ちぇ、今回はここまでか。次出てきたらあなたの頭を確実に潰してあげるから――」
 別人格のヴェルリアは消えた。元の彼女の目へと戻る。
「あれ? 真司? 真司!?」
「ざまないな……」
 真司は再び気を失って倒れた。胸を貫かれて重傷ではあるが、悪運強く肺、心臓に損傷はない。
 彼らのアリス捜索は中止せざるおえなくなった。真司にヒールを掛けつつ、急いで彼を病院へと送った。