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暴走の眠り姫―アリスリモート-

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暴走の眠り姫―アリスリモート-

リアクション

 
 ――、天御柱学院 第三棟 非常階段付近

「早く避難してください! ここは危険です!」
 笹野 朔夜(ささの・さくや)たちが生徒たちに避難指示を出す。機晶姫の保管場所がこの棟の近くに有るらしく、暴走した機晶姫たちとそれに対処している生徒との戦闘が聞こえる。
 学院には非戦闘要員も多くいる。彼らの安全を確保に務める役目が必要だ。しかし、それをイルミンスール魔法学校の生徒が行うのは些か変ではあるが、朔夜たちは元天御柱学院の生徒のため、学院内の事は把握している。
「階段を降りたら、学院の外もしくはグランドへ」
「朔夜!」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が彼の名を呼び走ってくる。
「――、いや、おまえ桜か」
 外見は変わらないが、朔夜は今笹野 桜(ささの・さくら)に憑依されている状態にある。エヴァルトだけがその憑依状態の有無を見分けられる。
「エヴァルトさんどうしてここに?」
 エヴァルトは蒼空学園の生徒のはずだ。桜は天御柱で何かイベントがあるとは聞いていない。
「気になることがあってな。この騒動も多分ソイツのせいだ。俺は今から原因を止めに行く、お前たちも気を付けろ」
 というと、エヴァルトは非常階段から飛び降りた。地面まで大分高さがあるが彼なら問題ない。
「騒動の原因ってなんですの? 怖いですわ……」
 爆音と銃声にアンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)が怯える。携帯のメールで知り合いに片っぱしから、天御柱で起きている機晶姫たちの騒動を伝える。誰か自分を助けてくれないかと思っての行為だが、天御柱にいる危険性を知らせる役割も果たしている。
「……ハァ。たく、なんだよ」
 笹野 冬月(ささの・ふゆつき)がため息を吐く。荒事は慣れている彼女だが、概要のつかめないこの騒動にうんざりしていた。
「――! 何か来ます!」
 朔夜の《殺気看破》が反応したのを桜が伝える。廊下の床がはじけ飛び、機晶姫が飛び出した。剣を持っている事からセイバータイプだとわかる。
―― 敵発見 優先順位ニ従ッテ 殲滅シマス――
 機晶姫が剣を振り上げて切りかかってくる。狙いは、この場に居るなかで一番倒しやすい相手だ。
「いけない!」
 機晶姫の狙いがアンネリーゼとわかった桜が彼女を庇う。背中で攻撃を受けようとする。最悪憑依している朔夜が死ぬことに成るかもしれないが、朔夜もまたそうしないと、と思っていた。
 桜の背後で何かが砕ける音がした。振り返ると、機晶姫の剣が大きな氷塊に攻撃を阻まれていた。名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)の《氷術》が二人を守っていた。
「大丈夫ですか!?」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が駆け寄り、二人の無事を確認する。「助かりました」と桜が彼に礼を言う。
「まったくおぬしはお人好しじゃのう」
 白き詩篇が真人に毒を吐く。《氷術》で機晶姫の足を氷漬けにする。そのお人好しに付き合う彼女も彼女だ。
「ぼさっと、してられないよ!」
 冬月が注意を促すと、彼女のしかけていた《氷術》のルーンが発動した。また来客が来たらしい。《バーストダッシュ》で先駆ける。《氷術》でできた氷柱に機晶姫をプレスする。
「成るべく傷つけないようにしてください!」
「わかっている!」
 真人に言われずとも、冬月は手加減している。アンネリーゼもまだ避難者もいるのに本気で戦うわけにはいかない。《スウェー》で攻撃を躱す。
 アンネリーゼを抱え、桜も《奈落の鉄鎖》で機晶姫の動きを封じる。壁に張り付いたところをすかさず白き詩篇が《氷術》で動きを封じた。
 先に、桜たちが避難誘導をしていたおかげもあって、避難する人はもういない。真人が《天のいかづち》で追撃し、更に一人を無力化した。ここでどこから雷が降ってきたかは疑問に思わないように。
 襲ってきた機晶姫の動きが停止した。
「おわったのですか……?」
 アンネリーゼが訊く。桜が頷く。
「マルトリッツがなんか知ってるみたいだったけど……あいつと、こいつらになにか関係があるのか?」
 冬月には思い当たるフシがない。アリサの事を知らないのだから当然ではある。
「それよりも、私たちは他の場所に行きましょう。まだ避難していない人がいるかも知れません。真人さん手伝ってください」
 桜に頷き、真人と白き詩篇は次の避難経路確保に向かった。