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リアクション
●何つくろう? 鍋つくるんだよ!
クレア・シュルツ(くれあ・しゅるつ)は食材調達に向かった面々が帰ってきたのを見計らって料理の準備を始める。
そんなクレアの行動がきっかけとなったのか、次第に鍋の準備や即席の竈に火を起こすなどを始める者たちが現れた。
†――†
「あの、よ、よろしくお願いします!」
調理班に来た、六連すばる(むづら・すばる)はぺこりとお辞儀をした。
他の調理班の面子も、よろしくー、や、頑張ろうねー、など口々にすばるに声をかけた。
そして、すばるは籠一杯に入った、フルーツを次々まな板の上にのせる。
「どうしましょうか」
あたりをキョロキョロと見回してすばるは、フルーツをどのようにカットすればいいのか観察する。
楽しそうにお喋りをしながら、野菜なんかを切っている姿を見よう見真似で切っていく。
一口大の大きさに丁寧にカットされたフルーツを、別の器に纏めて入れる。
「後はこれを鍋に入れて……」
よいしょっとフルーツを手に持ち、すばるは鍋に持っていき、それを全部ひっくり返していれた。
「後は、砂糖をいれて」
袋砂糖をそのままひっくり返そうとしたところで、
「ちょ、ちょっとまって!」
佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)が声をかけた。
「はい?」
手を止め、すばるは弥十郎を見た。
「後は私たちに任せてもらっていいかな?」
真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)がにっこりと笑みを浮かべてそういう。
「……? ええと?」
「はは、ワタシたちも料理の手伝いに来たんだ。どうだろう、君は食材を切って運んできてもらって、私たちが火加減を見るというのは」
「ああ、そういうことでしたら!」
すばるは得心が行ったという様子で、嬉々として食材の元へ戻っていく。
封を切った砂糖を受け取った弥十郎は危なかったと、安堵の吐息を漏らした。
元が甘いフルーツに砂糖をこんなにいれれば、甘さで味覚が崩壊してしまう。
それを未然に防げたことが何よりよかった。
「まあ、そんなことしなくてもよかったんじゃないかな? 闇鍋を楽しみにしてる人のほうが多いだろうからさ」
真名美がそんな恐ろしいことを言った。
「それでも、料理は美味しい方がいいじゃないか」
「はは、まあ確かにね。それじゃあやろっか」
「はい、先生」
弥十郎は真名美に頷いて返すと、鍋の中身を確認しだした。
「でも、まさか一番大きなお鍋に果物が入ってしまうとはねぇ」
「これも集団行動の醍醐味だよ」
「確かにそうですね」
くすっと笑うと、弥十郎は手に持った調味料を大雑把に入れる。
はしごがないと中を見ることができない鍋だ。分量なんかしっかり量って入れても仕方ないものである。
お菓子を作るわけでもないし、数人分でもな。数十人と言った大量の物を人力で作る場合はどうしても、分量などは大雑把にしてしまった方が手間がかからない。
それは、料理をよくする弥十郎や真名美には痛いほど理解できていた。
「うーん、もうちょっとコンソメ入れようか」
真名美が味を見て、弥十郎にそう言った。
全部を一人で引き受けるなら、出汁もしっかりとるところだが、既に中には果物が入っている。
そういうときほど、出来合いの調味料の便利さを痛感させられた。
洋風ベースの味付けに和風テイストの鍋というのが存在しないわけではないし、どちらの風味も損なうことなくおいしくできる料理を作ることもできる。
「はい、先生」
弥十郎は楽しそうに真名美の言うことにしたがって、コンソメを多めに入れる。味が濃すぎたら水で薄めればいいだけだ。
これだけの量、どうしても煮詰めれば水は飛んでしまう。
だから何も難しいことではない。
二人はそんなことをお互い言い合いながら、鍋の中身にしっかり味付けしていく。
†――†
「レキ殿、そちら、野菜類と一緒にまとめてもらってもいい?」
八王子裕奈(はちおうじ・ゆうな)がレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)に頼んだ。
レキはわかったと言い、手に持っている香り付けに使える果物を野菜の方へと置いた。
二人は、食材を仕分けしている。
その中から、食材を取りに来た人に取り分けているのだった。
「うーん、今回はどうなるんだろう?」
闇鍋と聞いて、レキには一抹の不安があった。
「今回とは?」
「うん、別の依頼で大変なことになったんだ。だから、大丈夫かなって」
「大丈夫よ。こうやって私たちが食材仕分けしているんだし」
そんなこといいつつも、裕奈はこっそりと食材の中に毒キノコを仕込むのを忘れない。
さすがに食べて死ぬ、といった有名どころのキノコは抜いてあるが、それ以外のものは混ぜている。
お祭りなのだ、誰が入れたかなんてのはわからない。真相はきっと闇(鍋)の中になる。
「うん、そうだよね! あ、毒草だ」
レキは真面目に毒物は避ける。
あらかじめ村の人たちにどういうのが危ないか聞いておいたのだ。
「さて、とりあえず仕分けは終わりだし、私たちも調理の方に移ろっか」
裕奈はそう言って、籠に野菜類を入れて作業台へと向かっていく。
「あっちのほうで、マツタケ料理作ってる人がいるから、そっちを見に行って手伝おう!」
レキは裕奈を誘導して向かう。
そんなやり取りをみていた、カムイ・マギ(かむい・まぎ)が隣に丁度いた、金元ななな(かねもと・ななな)に声をかけた。
「なななさん。闇鍋、というものは初めてなのですが、どういったものなのでしょうか?」
「うーん、そうだねぇ。本来なら食材を一品持ち込んで鍋に入れて、周りを暗くして取ったやつは絶対食べるんじゃなかったかなー?」
カムイに簡単に説明したなななはさらに話を続ける。
「今回はなななも初参加だから、よくわからないんだよねー。多分闇鍋テイストの何かだとは思うんだけどー」
「そうですか」
「よく分かってなくてごめんねー」
あははとなななは笑うとカムイに謝った。
カムイは首を振る。
「いえ、要するに身の危険性が高いということだけはわかりましたので。大丈夫です」
「うん、そうだね!」
笑って頷くななな。
そんな二人も、話を終わらせてレキと裕奈のもとへとむかった。
「ふむ、仕込みとしてはこんなものかな」
魯粛子敬(ろしゅく・しけい)は調味料や食材をみてそう呟いた。
作るものは野菜とパラミタマツタケをふんだんに使ったものだ。
土瓶蒸しに、天ぷらなど。
パートナーたちがこっそりと持ってきた香りのいいパラミタマツタケをふんだんに使った料理だ。
パラミタマツタケには包丁を入れず、手で裂く。
そして、肉は一口大に切りそろえ、塩や調味酒をふりかけ味をしみこませる。
「中々無効はにぎやかですね」
わいわいと騒いでいる中はなれたところで作業をする。
量がそこまで作れないというのもあるが、香りが重要な食材を扱うのに、大雑把な香りでも大丈夫な場所には好き好んでいきたくは無い。そんな思いもある。
「ふむ、これなら」
ぺろりと調味料を混ぜた特製ソースを味見し、ひとつ頷いた。
「これは、まあ、早いもの勝ちでしょうね。まあ、坊ちゃんたち優先には変わりありませんが」
そう呟いて、一人パラミタマツタケをふんだんに使った料理を作る、魯粛子敬だった。
†――†
調理場とは別のところ。
食肉の加工だけ離れたところでやっている。
血抜きは既に終わらせてあるとはいえ、肉となる動物の死骸はそのままだ。
「さて、やりますか」
「うん、やりましょう」
樹月刀真(きづき・とうま)とルディ・アッヘンバッハ(るでぃ・あっへんばっは)が同じように言った。
目の前にあるのは、大型の熊2体だ。二人で分けてやれば何とかなるだろう。
回りには村の人たちが数人、猪や鶏などを捌いている。
刀真は【金剛力】を発動させ肉切り包丁を手にする。
首を落とし、毛皮を剥ぐ。そして、腹を開き内臓を取り出し、部位ごとに小分けしていく。
その姿は手馴れたもので、数十分とかからずに熊は部位ごとの肉塊になってしまった。
「月夜、これを持っていってくれ」
「はいはいっと」
その様子を見ていた、刀真のパートナー、漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)がやってくる。
「……絶対調理には参加するなよ。やるなら皿洗いとか、食器並べたり位にとどめて置けよ」
「むー。しないわよ! でも、ちょっとは料理上手になってるんだから!」
ぶーぶーと文句をいいながら、月夜は解体した肉を調理場に運んでいく。
「ああいう風にすれば、いいのか……」
ルディはそう呟いて、刀真の見様見真似で肉切り包丁と、小型のナイフを振るう。
サバイバルの知識はあるが、それは小型の動植物に対するもので、熊のような大型のものを捌くのは今回が初めてだ。
「んっ……!」
力を目一杯込め、爪を断ち、ナイフで線をいれ生皮を引っぺがす。
その際力の入れ方を間違ったせいで、内臓の内容物が飛び散りルディの服を汚す。
血や肉片もとび、汗を拭うと顔には血化粧が出来上がってしまった。
そして、同じような考えでこちらに向かってきていた日笠依子(ひりゅう・よりこ)が、ルディに気付く。
「流石にそれは、怖いな」
「……そうですか?」
ひきつった笑みを浮かべて依子は素直な感想を述べた。
「もしそれで、人前に出るつもりなら止めておいたほうが無難でしょう」
ルディを見て刀真までそういった。
「はあ……」
まだ分かっていないかのように、ルディは頷いた。
「まあ、なんというか、殺し合いを一戦やってきた。という感じだな!」
「そうなんですか?」
ぐっと親指を立てて力説する依子に、ルディはなんとなく自分の姿が想像できてきたようだ
「ああ。俺たちの仕事はもう終わりだし、依子、ルディを頼んでもいいかな?」
刀真は依子にそう頼んだ。
「月夜も一緒についていってやれ」
「んー、いいけどー」
丁度戻ってきた月夜にも刀真は頼んだ。
「それじゃ、ルディを着替えさせたら一緒に料理やろうぜ!」
依子はそう言って、ルディを連れて行った。
「月夜。お前は絶対手伝うな。皿でも並べてろ」
「酷い!」
月夜は文句を言いながらも、二人の後を追いかけていった。
それが、被害が出ない最善の策だと刀真は思っていたのだ。
しかし、料理は下手だが、料理が好き。そんな人は月夜以外にもいたのだ。
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