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リアクション
「なあ、舐めてもいいかー?」
両手を頭で組みながら森を歩く、ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)が友人であるグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に聞いた。
「ダメに決まっているでしょう」
そんなロアとグラキエスの間に割って入る、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)。
「いや、俺は別に……」
「グラキエス様、ロアの前ではそのような無防備な態度を取らないように」
ぴしゃりとエルデネストはグラキエスに言う。
「グラキエスを見てると、どうしても食欲が湧いてくるだよなー。良い匂いだし、美味しいし」
過去ロアは一度グラキエスに家事ぶりついた経験から感想を漏らす。
「まあ、飯の前のおやつみたいな感じで、舐めるくらい良いだろ?」
「確かに……」
エルデネストは二人には聞こえないくらいに小さな声で、そう呟いた。
昨夜、グラキエスとエルデネストの間で行われた支払い行為。その行為でグラキエスの醸し出す色気が、ロアの食欲をそそっている部分もあるのだろうとエルデネストは考えた。
「……ロア、貴方は、グラキエスに飢えた獣のような目を向けすぎです」
エルデネストがこめかみに手を当てながら嘆息する。
「そうか? 普通だろ」
「いや、だから俺は別にそこまで気にしない、と」
「ほらやっぱり。つーか、グラキエスがいいって言ってるんだから、いいだろ?」
立ち止まり、ロアはグラキエスを自分の方に振り向かせ、顎に手を添えた。
そこで一度エルデネストをちらりと見る。
「ダメですよ、ロア。貴方はグラキエスを物理的に食べる可能性がある」
真っ赤な舌を覗かせながら、首筋に舌を這わそうとするロアをエルデネストは引き剥がした。
「私の目が光ってるところではさせません」
「ちぇっ、お預けか」
ロアはあきらめたように、食材探しに戻った。
「そうです。ダメに決まってるじゃないですか」
グラキエスとロアの間に立つエルデネストは、わが仕事完遂したりといった様子で頷いた。
「ロア。今日は誘ってくれてありがとう」
「ま、一人で参加するより誰か誘った方が良いなって思ったしな。飯は誰かと食った方が美味いし、何より食えば体力回復にも役立つ!」
礼を言うグラキエスに、ロアはよせやいと言った様子で少しだけ照れていた。
しかしグラキエスの体力が回復しないのは、別の要因も絡んでいることに、ロアは気付いていない。
「そろそろ時間ですね。戻りましょうか」
エルデネストは食材の入った籠を持つ。中にはデザートに使えそうな果物が一杯入っている。
「ロア、一つくらいどうだ?」
グラキエスが、籠の中から生食できる果物を見せて言った。
「おお、食う! さっきから腹減って仕方なかったんだよ!」
嬉々としてロアはそれを受け取ると、美味しそうにかじりついた。
うめえ、うめえとロアが言いながら、三人は帰路につくのだった。
†――†
「酸っぱいな」
「むむむ……」
かれこれ既に三度ほど、こんなやり取りを繰り返している、源鉄心(みなもと・てっしん)とイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)。そしてそのやり取りを楽しく眺めているティー・ティー(てぃー・てぃー)。
イコナが見つけてきた山葡萄を鉄心に渡す。そして、鉄心が素直な感想を漏らすと、イコナがちょっとだけ涙目になって、また新しい葡萄を探しに行く。
「酸っぱいですわ……鉄心食べて!」
酸っぱいと分かっていながらも、イコナは鉄心に房から数粒の葡萄を渡す。
「はいはい」
苦笑しながら鉄心はぱくりと一口。
「うん、酸っぱい」
「むぅー!」
ぷくっと頬を膨らませて、イコナはティーの連れている[ワイルドペガサス]のレガートに八つ当たりを始めた。
「イコナちゃん危ないですよ」
ニコニコ笑いながら、やんわりとティーはイコナをたしなめる。
だが、レガートはそれが面白くなかったようで、嘶き前足を大きく上げるとイコナを転ばせた。
「きゃっ」
「イコナ、大丈夫か?」
尻餅をついたイコナを鉄心は引っ張り起こして言った。
「酸っぱくない葡萄を探してきますわ!」
「はいはい、怪我しないようにするんだよ」
躍起になっているイコナは奥へと進んでいく。
「ティー、ついて行ってくれないか?」
「はい、任せてください!」
「流石に手ぶらで帰るのは拙いからな、俺は食材を探しながら追いかけるよ」
鉄心はそういって、ティーを見送るとあちこち見渡した。
食べられそうなものはそこかしこにある。食材自体には困らない。
「イコナちゃーん?」
先に進んでいるイコナを探すようにティーが大声を上げているのが聞こえる。
ある程度籠に食材を入れた鉄心は改めてイコナとティーが向かっている方へと向かう。
「ふっふっふ! 鉄心、ティー見るのです!」
茂みから飛び出してきたイコナは、髪や服に枯葉を纏いつつも不適に笑っていた。
「どうしたの?」
ティーが聞いた。
「マツタケを見つけましたわ! そう、わたくしは最初から酸っぱくない葡萄なんか探してませんでしたの!」
「おおー! イコナちゃんすごーい」
えっへんと胸を張って自信満々に言うイコナ。それに笑顔でぱちぱちと手を叩きながらティーは感心している。
そんな二人のやり取りを見て、鉄心もくすりと笑う。
「イコナちゃん、もしかしたら村に酸っぱくない葡萄があるかもしれないから、そろそろ戻らない?」
ティーが提案した。
時間的にも、そろそろだろう。
「分かりましたわ!」
イコナは同意して前を歩き出す。
そして鉄心とティーはイコナの少し後ろを歩く。
村に戻ってから、パラミタマツタケを提供する代わりに、イコナは酸っぱくない葡萄を堪能したようだ。
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