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リアクション
●異変はありませんでした
「向日葵の種をさがすのー♪」
龍滅鬼廉(りゅうめき・れん)の頭に乗っている、キャロ・スウェット(きゃろ・すうぇっと)が元気よく言った。
「キャロ。流石に今の時期向日葵の種はないぞ……」
廉が困ったようにキャロに言った。
「しょんぼりなのー……」
がっくりと肩を落とす行為のように、キャロは廉の頭の上に垂れ広がった。
しかしと、廉は今回教導団が訓練としてこの祭りを利用しているということを聞いて、部隊にいた頃を思い出していた。
「どうかされましたか?」
廉に誘われた小暮秀幸(こぐれ・ひでゆき)が聞く。
「いや、な……サバイバル訓練と言って雪山に身ひとつで投げ出されたことを思い出してな」
「はは、確かにそれに比べたらこの訓練はどうってこと無いでしょうね」
廉の思い出に、秀幸は思ったことを素直に言った。
「確かに、そうだな。道具もあれば食料もある」
うんと廉は秀幸に同意した。
むしろ訓練よりも、ハイキングやただの採取目的で来ている人の方が多いのではないのかと廉は思っていた。
「いたいのー……」
頭の上から、唐突にキャロが声をあげた。
「どうした?」
廉はキャロを頭から降ろし、何が起こったのか確認する。
それは綺麗にキャロの頭に乗っかって――むしろ刺さっていた。
「毬栗ですね」
「毬栗だな」
覗きこんでいる秀幸に廉も同じように答えた。
「毬栗ってなんなのー?」
不思議そうにキャロが二人に尋ねた。
「食べ物だ」
手短に廉はキャロに答えた。
「たべものー!」
キャロは頭に乗っていた毬栗を廉にとって貰い、それを手に持った。
そして、ぼとりと取り落とした。
「いたいのー……」
つぶらな瞳に涙を湛え、キャロは抗議するように廉を見た。
「キャロ殿、これはこうやるんですよ」
秀幸が小さいがしっかりした木の枝を手に持ち、毬栗に突き刺す。
そして、その中から茶色の木の実――栗を取り出した。
「秀幸おにーちゃんすごいのー!」
そんなことを言いながら、キャロは廉の手からぴょんと飛び降りると栗を探し始める。
片手には小さな木の枝を携え、毬栗をぱっくりと割る。
そして中からでてきた栗を片っ端から頬袋に詰め込む。
「すまない、小暮。キャロを見ていてもらってもいいか?」
「ええ、構いませんよ。どうかされましたか?」
「ロードが見当たらない」
廉は一緒に来ていた、ロード・アステミック(ろーど・あすてみっく)がいつの間にか消えていることに気がついた。
「俺はここでロードを待つから、頼む」
「そういうことでしたら」
秀幸はそういうと、米粒ほどの大きさになってしまうくらい先に進んでいるキャロを追いかけていく。
暫くして、がさがさと近くの茂みが揺れる。
廉がそちらに目をやると、
「おや、龍滅鬼殿、どうかされましたかな?」
肩や髪などに枯葉を引っ付けたロードが表れた。
「いや……って、ロード……」
廉が呆れた声をあげる。
それもそのはず、肩には栗鼠が乗っていたり、ロードの回りには小動物が様々な鳴き声をあげてロードの周りを歩き回っているのだ。
そして、両手一杯には無花果を持っている。
色んなものを収穫してきすぎである。
「いえ、聞いてくだされ、向こうに無花果がたくさん実っていると聞いたので、そちらに向かったら何か暴れた後のような物がありまして……」
ロードは廉に説明する。
木々がなぎ倒されていたりして、怯えた動物たちの相手をしていたら懐かれてしまって今に至るということを事細かにだ。
「……わかった。でも、ロード、流石にその動物たちを連れて帰るとか、言わない……よな?」
表情を引きつらせ廉は釘を刺した。
そして、戻ってきた、顔が異様に変形している――頬袋に栗を詰めすぎたキャロを頭に載せ、キャロを見てもらっていた秀幸と共に、食材を持って帰るのだった。
†――†
トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は感動に震えていた。
「ここは天国か……」
芳醇で濃厚な香りが鼻腔をくすぐり、あたり一面に生えるパラミタマツタケが目を喜ばせる。
群生地だった。
中には既に傘が開ききり風味の飛んでいるようなのもあった。
「これだけあれば! なあ、これと同じのを探してくれないか?」
トマスはパートナーの、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)に声をかけた。
「ああ、いいぜ、これと同じ香りを追えばいいんだな」
獣人であるテノーリオが胸をどんと叩き、俺に任せて置けといった様子を醸し出す。
逆にミカエラは、
「……今回も、私は料理の主要な部分には手出しさせてもらえないのですね」
肩をがっくりと落としたかと思うと、
「ええい! こうなったら、根こそぎ、生体系が壊れるくらいまでにマツタケを収穫してやる!」
近くにあるマツタケを一本引き抜くと、それをサンプルにしたのか、ミカエラは全力で他のものを探しに行く。
「はは……、じゃあ頼むよ」
「勿体無い食べ方はしたくないからな」
そういって、テノーリオもまた別のところへ探しに行く。
小一時間ほど経った頃、一杯になった手提げ籠が三つ、トマスの前に置かれていた。
「これだけあれば、闇鍋に入れる分も確保しつつ、マツタケの味も楽しめるだろうな」
トマスはそういって、収穫してきたばかりのパラミタマツタケを全部ひっくり返した。
「さて、鍋組みにわたすマツタケは傘の開いている奴にするから、分けるの手伝ってくれ!」
そういって、少しだけあくどい笑みを浮かべながら、トマスはパラミタマツタケを仕分け始めるのだった。
†――†
アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)、親不孝通夜鷹(おやふこうどおり・よたか)はパートナーの六連すばる(むづら・すばる)が調理する人たちに合流できたことを確認してから食材探しに来ていた。
すばる曰く、フルーツポンチを作りたいらしく、それに入れるような食材を取ってきて欲しいとのことだ。
「でもぎゃー、アルー……スバの考えてる、ふるーつぽんちき、って何か違うような気がするぎゃー…… いいんぎゃか?」
木に登り、もいだ梨をアルテッツァに投げ渡しながら夜鷹は言った。
「確かに、フルーツポンチは、フルーツ鍋ではありませんよ、ヨタカ。でも――」
と、アルテッツァは夜鷹に、すばるの考えている本来のものが何なのかを伝える。
すばるの考えるフルーツポンチとは果物を鍋に入れて煮詰めるもののようだ。どちらかというとそれはジャムの工程に近いものではあるが、料理の腕がどう頑張っても残念なすばるには似たようなものと言う認識でしかないらしい。
本来のフルーツポンチとは、果物を切り、水や炭酸水、もしくはそれに順ずるシロップに漬け込み冷やして食べるデザートのような物だ。
「大丈夫ぎゃか……」
「心配要らないでしょう。ボクたちは食材を集める。それを調理して出てきたものは誰かが処理してくれるでしょうし、何より……」
元からこのイベントは食材を鍋に全力投入する、そんなイベントだ。
何かあってもお祭りの一環。それで済むことだと、アルテッツァは内心ほくそ笑む。
「そうんなもんぎゃか」
夜鷹は興味を無くしたのか、風景に目をやり、
「パラミタの果物ぎゃら、メロンとかあったりするのぎゃね?」
アルテッツァにそんなことを聞く。
「さあ、それはどうでしょうか……、メロンの旬は夏ですからね、多分無いと思いますが」
「そうぎゃー、残念ぎゃ」
しょんぼりと肩をおとしつつも、夜鷹は果物を採取する。
たまにつまみ食いをしたり、アルテッツァに食べさせてみたり。
そんなこんなで籠一杯に果物を収穫した2人はすばるにそれを渡すべく、村へと帰っていく。
†――†
「いったっ!」
頭にリンゴが落ちてきた、セルマ・アリス(せるま・ありす)は、頭をさすりながら何が起こったのか考えた。
辺りを見回して気付く、中国古典『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)が弓を構えていたのだ。
「大当たり!」
「シャオ!」
放った矢が木になるリンゴの茎に綺麗に射抜き、それがセルマの頭の上に落ちた。
簡単なことだった。
「何やってんだよ、全く」
ふうっと溜息を吐きながら、セルマはシャオに注意した。
「何って、訓練に決まってるじゃない。一応教導団ではサバイバル訓練の一環として、やってるのだし。これも周囲に対する警戒心を養う為の訓練よ」
事も無げにそんなことを言う。
ニヤニヤとあくどいことを考えている笑みを隠そうともしないシャオは、次はどうしようかと考えた。
「それは良いんだけど、シャオがすることじゃあないだろ?」
「どうしようかしら♪」
シャオはセルマの抗議が耳に入ってない様子で、辺りを見回す。
「って、まだやるのか!」
シャオを止めようと、セルマはシャオに近づく。
「きーめた♪」
そんなとても嬉しそうな声、とても嬉しそうな表情でシャオは矢をつがえて、キリキリと弦を引く。
セルマは鏃の先を見る。
そこには、球状の大きな――典型的な蜂の巣があった。
「シャオさん?」
「なあに、セルマ?」
お互いにっこりと笑みを浮かべている。
「今狙ってるのは蜂の巣じゃないですか?」
「うん、そうだけど」
「避けても、蜂の軍勢が襲ってくるじゃん!」
「もう遅ーい!」
しゅっと矢は放たれ、リンゴを打ち落とした時のように蜂の巣を射る。
ぼとりと蜂の巣は地面に落ち、ぶうんと不快な音を立てて蜂が飛び出してくる。
「ちょ、ちょっと!」
慌てて、セルマは【氷術】を使い、巣事凍らせた。
飛び出してきた数匹の蜂はやり過ごして、どこか飛ぶに任せることにする。
「…………」
シャオがとてもつまらなさそうな目で見ていた。
「なんでつまらなさそうな目で俺を見てるんだ!?」
「だって、ねえ?」
言わなくても分かるじゃん、と言った空気を出しながらシャオは次はどうやってセルマを困らせようかと考える。
そして、セルマはどうやってシャオの攻撃をかわそうかと考えるのだった。
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