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リアクション
混濁するシティズン
――オリュンズ郊外 難民地区
「早くジオフロントへ避難して下さい!」
「慌てるなよ。開いているゲートに一人づつ入るんだ」
叶 白竜(よう・ぱいろん)、世 羅儀(せい・らぎ)は難民の避難誘導に追われていた。
一般市民の避難は殆ど終わったが、一箇所に数十万もいる難民たちを誘導しきるにはまだ時間がかかる。
関谷 未憂(せきや・みゆう)、リン・リーファ(りん・りーふぁ)たちも手伝って入るが、数名では誘導の手が足りない。
暴動を起こしそうな様相はないが、郊外にいる難民たちの不安と疲労感は誘導しているとひしひしと伝わってくる。RAR.の精神制御の電波の効果が郊外では薄いようだ。
(これでRAR.が全く電波を流さなくなったらどうなるんだ)
羅儀が《テレパシー》を白竜に送る。感情を制御されていることを市民は知っているのかも怪しく、口で言うのは憚られた。
(パニックや暴動が起きるかも知れませんね。RAR.が電波を止めることがなければいいんですが)
RAR.を信用しているわけではないが、戦闘が防衛区域で開始された今、RAR.の機能に頼るしかない。ゲートの転送システムもRAR.が地下へと繋いでいるのだし。
だが、市長は信頼に値する。鉄の女を連想させるポーカーフェイスだが握手した手は紛れも無く人だった。
「遅くなりました! 都市内の避難誘導は終わりました!」
アッシュ・トゥー・アッシュ(あっしゅ・とぅーあっしゅ)とシュラウド・フェイスレス(しゅらうど・ふぇいすれす)が【機晶バイク】で現れ告げる。「残りは難民だけだ。我らも手伝うぞ」のプレート。
「年配のかたを優先して近くのゲートに誘導しましょう」
スノー・クライム(すのー・くらいむ)は杖つきの老人をゆっくりと先導する。
少し遠くでも街中のゲートはジオフロントへと繋がっている。若輩者はそちらへと回ってもらう。
「本に運動をさせるなと、いつも言っているのだがなぁ」
「リオン文句いわなのよ」
禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)の愚痴をスノーは叱咤した。
「ああ、分かった分かった。動けばいいだろう? ――、これは、終わったら和輝に本を大量に買ってもらわねば割りに合わないぞ」
この世界の電子書籍5000冊くらい。紙書籍再現機能付きで。
「ゆっくり進んでくださいね」
未憂もスノーに習い、老人たちの誘導を手伝う。ゲートは二人分の幅はあるもの、年配者は一人ずつ誘導する。
「人、家の者とその矛を彼の地に封じる♪」
《幸せの歌》伝承の原文を乗せて歌うリン。誘導するお爺さんに歌の内容を尋ねる。
「おじーちゃんはこの歌しっています?」
老人はじわりとその伝承を思い出す。
「知ってるよ。ここに住んでいる人は誰もが知ってる」
「じゃあ、彼の地って何処かわかります?」
「さあぁ……何処だったかなぁ」
ぼけているのか忘れているのか、老人は首をかしげた。
「じゃあ、ヘリオポリスは知ってます?」
未憂も気まぐれに尋ねる。すると――
「おお! そこだ! 俺らの祖先がそこに大いなる厄災を封印したんだった!」
老人の思い出した内容は、RAR.の言っていることと違わなかった。しかし、伝承に付いての謎も増えた。
彼らの祖先。それは伝承の『人』に当てはまるのだろう。が、今までの調査で回答をエられなかった言葉がこの老人の口から出たのか、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は甚だ疑問に思った。
「魯粛、さっきの話どう思う?」
トマスは魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)に意見を求めた。
「坊ちゃん、伝承はこうです」
魯粛が伝承の原文を復唱する。
『
その昔、大いなる災い来たりて、破却をばらまく。
巨大な傀儡を操り、天地を蹂躙する。
人、巨人に乗り、屍を積む。
人、彼の者とその鉾を彼の地に封じる。
しかし、大いなる災い、再び黄泉返るなり。
それを阻止するは、外世界より来る来訪者なり。
』
「『人』とはその語り手たち自身の種族を指すことが多いでしょう。つまり、老人の語る『祖先』がその『人』なのでしょう」
「じゃあ、伝承自体が外来のモノってことはないんだな? いくら探しても伝承の原本が無いのがな」
テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)はそう言う。
この世界で伝承の原本はいくら探しても見つからなかった。
「それどころか、関連書籍も見つからないのはおかしいわ。彼らは本を読んで叱咤とも言っているのに」
ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)には今もソレが訝しい。
「……嘘をついているのは誰なんでしょうね」
未憂は呟く。
画一された素晴らしい未来の都市なのに、あることあることがきな臭く思える。
ともかく、今は避難を優先する。只今はひとりでも人員が欲しいところだった。
「にしてもお嬢ちゃん小さいのにえらいねぇ」
リオンがよしよしされる。
「私を子供扱するな! お前たちの何十倍も年上だぞ! ってそこの年寄りども、生暖かい視線を送るんじゃない!!」
――オリュンズ 『雷霆』 『ウェスタ』
「大規模な戦闘とは聞いていないぞ!」
「提示された襲撃予測数を超えているとはどう言うことだ?」
「難民までも避難退避させろと要求も来ている。ジオフロントの定員もあるだろう。軍は何を考えている」
その言葉に、荒井 雅香(あらい・もとか)はキレた。避難誘導の協力を議員にも要請しに来たのに、こいつらときたら、率先して動きもしない。
「市民てのは難民キャンプの人達もでしょう! 当然でしょ、あなたたちと同じ街の住人なのよ!」
ドールズに家屋を破壊されてテント暮らしをしているが、オリュンズの市民ではある。
「情勢も何も知らないよそ者が何を――」
「彼女の言うとおりにしなさい。『ユピテル』の職員たちも避難誘導に全員参加させたわ。あなた達も『ウェスタ』に集うものとして責務を果たしなさい」
市長が現れて、議員の言葉を遮った。議員のエアディスプレイに最高命令のアラートが表示される。これに逆らえば、市民からの信用を無くし失墜する。
「――、しかし市長我らはここを離れる訳にはいかない。復興に債権、ミネルヴァ軍の本国からの圧力要請と問題が積算している。この戦闘の真意も議題の1つとして軍に問いたださなければならない。軍の要求に立場の優劣を見出させては、この都市の存続に関わります」
議会はこれまで軍の要求の多くを飲んでいる。他国を圧倒する技術的、資金、条約といくつも譲歩して代わりに防衛を任せている。
議員がこの有事に即しても『ウェスタ』に残っているのは、後の都市の明暗を担ってのことだった。
「なら、市民を守ることも議員の責務です。市民なくしては復興もできません。こちらが手を拱いては、被害が出たときに『対処が遅かった』と不祥を言われます。
それに『ウェスタ』は家庭と聖なる火を守る炉の女神。都市という家庭の構成たる市民を守らずしてどうするのです」
「――わかった。だが我々は欠けることは出来ない。ジオフロント内部での誘導に当たらせてもらう。それでいいか、外来の人」
雅香は深く頷いた。保身的ではあるが、彼らは自分たちの役目を分かっている。
「それでいいわ。直ぐにお願い!」
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