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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ!(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ!(後編)

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 そして、動きを見せたのはPCではなく。室内の外部モニターだった。誰も手をつけていない大型モニターが勝手に動き出す。ノートPCからの命令でリモート起動したらしい。
〈願わくば、これを見ている君たちが賢兄なる善人であることを望む。そして、この老人の世迷言に耳を傾けて欲しい〉
 OSも起動せず、いきなりビデオレターが再生された。どうやらこれはこの老人の巧妙な細工のようだ。PCでは今もプログラムが走っている。
〈ここに君たちが来たということは、すでにこの街の封印が破られているのだろう。そして君たちは災いに直面しているに違いない。
 我は外世界より来訪し初め者の一人。「古の四賢者」、「慈悲深き賢者」と呼ばれている者だ。この都市と共に『大いなる者』を封じ、その椅子に座っている死体が我だ〉
 椅子に座る白衣は確かにモニターの人物と同じものだ。
〈まずは話そう。このヘリオポリスで起きたこと、そして、君らの敵の正体を――〉
 慈悲深き賢者は話す。
 嘗て、この地では『大いなる者』の意思が操るロボットの壮絶な戦いがあったこと。今のパラミタの人のように、彼もまた外世界からの訪問者としてこの【第三世界】に着き、『大いなる厄災』たるそれを倒すべく尽力したという。
〈しかし、結果から言えば、我らは負けた〉
 そのロボットはとてつもない超兵器を携え、この世界の軍を相手に一機当千し、多くの都市を壊滅させたと言う。勿論それに対抗すべく、人々は同じロボットを作り、応戦した。そうそれは慈悲深き賢者が外世界からこの世界に持ってきたモノだった。
 そして、この世界の高い技術力に眼を付けて対抗兵器を彼は作った。それが、周囲の元素を陽子中性子レベルで分解し、再構築してロボットの破損箇所を治す《自動修復ナノマシン》だった。
 これにより、無敵の機兵団が完成するはずだった。
 その矢先、『大いなる者』の意思がヘリオポリスを襲い、この都市のシステム中枢、オベリスクにある戦略演算の要たるマザーコンピューターを掌握してしまった。そして、ナノマシンも『大いなる者』の手中に落ち、その性質が本来のモノとは違う、群にして個なる生物的捕食意思を持つような悍ましいものへと変わったという。
「つまり、いま私らが苦戦しているのはあんたのせいか!」
 セレアナのツッコミは御尤も。
〈この期に及んで、なにもしない訳には行かなかった。そこで我は『大いなる者』の意思をこの地に縛り付け、都市ごと封印することした。空間障壁で街を覆い、内側から封じることでな。その過程で、我と共にこの地に赴いたハルをオベリスクOD-10に繋ぎ、『大いなる者』の意思を抑える依代とした。ハルには申し訳ない事したと思う〉
「『OD-10』それがここのマザーコンピューターの名前ってわけかい」
 菊が呟く。
 話は続く。『大いなる者』の意思と変異したナノマシンを街に封じ、敵の超兵器をも分断することができた。とのこと。
 超兵器、つまりRAR.に内包される『最終兵器』は、この土地で彼と戦った者たちの生き残りがRAR.に封印したということに成る。
「そして、その戦いと封印のことを『人』々は『伝承』として語り継いだのね」
 とベアトリーチェ。彼らの『外世界からの訪問者』の予言は、人々の期待を表しているに違いない。
〈だが、もうこの封印も打ち破られてしまったようだ。ハルの意思も『大いなる者』の意思に乗っ取られているだろう。奴はナノマシンを操り、この世界をまた荒らしていることだ。
 何としても止めて欲しい。『大いなる者』の復活は世界の滅亡に関わる。
 そのためにも、我が命を途した最後の希望を君たちに託す〉
 机からデータチップが出てくる。
〈それは、全てナノマシンを止めるマスターコードの入ったチップだ。性質が変化したとは言え、我の作ったプログラムパターンには変わりない。それを組み込んだ兵器を作くり、『大いなる者』の意思を封じたハルを壊せば、『大いなる者』の意思はこの世界で暴れることはないだろう〉
 一通り語った老人は一息着く。その顔が一気にやつれて見える。
〈ふぅ……、我ももう幾何もない。『大いなる者』の封印を守る使命を持ちながら、このザマだ。他の賢者達には合わせる顔がない。――、我はこのまま眠るとする。
 神よ。この者たちに慈悲を与え給え――〉
 映像はそこで途切れた。
 アルメリアがチップを手に取る。一センチ四方にも満たない小さな物だ。
「レギーナさん。今の映像はそっちにも見えていますか?」
 リンが輸送車に残るレギーナに通信する。
“ああ、バッチリです。そこからチップのデータをこっちに送れますか? トロイア基地にデータを送信しますので”
「分かりました。やってみます」
 ベアトリーチェが答え、AirPADを展開する。本体にチップを接続してデータを抽出、輸送車へと転送する。
 と、その時。大きな揺れが彼らを襲う。データは一瞬で転送できたが、ここにいては危うい。
「向こうの部隊が何かやらかしたな。脱出するよ!」
 ガガが叫び、自らをドラゴネット化させる。
「ここは地上に近い。我が退路を作る!」
 コンスタンティヌスはロケットランチャーで天井に穴を開けた。雲行きの怪しい空が見える。
「何人かガガに乗れ! 飛ぶぞ!」
 パワードスーツ隊以外をできるだけ背中に載せてガガは無理矢理空へと飛んだ。三船たちも、味方を抱えて、ワイヤーロープで外へと脱出した。