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リアクション
量子の海のディフェンスゲーム
――『雷霆』RAR.管理室
「やっぱり兄さんの宛が外れましたか」
高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が溜息を吐く。兄のハデスが自信満々に唱えたRAR.黒幕説が絵空事だったのでなんとも恥ずかしい。
RAR.がアンドロイドを暴走させるということはなかった。だが、逆にRAR.が何者かにサイバー攻撃を受けている状態だった。RAR.に聞くと、この戦いの前から何者かに攻撃を受けて、それに対抗していたとのこと。
電子防壁を張り巡らせて、都市機能の不全を狙う攻撃に対処し市民の安全に支障がないようにしていたとか。
だが、全てが無駄ではない。ハデスの提唱した対策は大いに成果をあげていた。まだそれを咲耶が知らないだけだった。
ともかく、電子上のRAR.防衛はルカルカ、ダリル、彩羽、そして外部サポートのスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)に任せるしか無い。
とはいえ、量子通信によるクラッキングとは厄介で、送られてくる攻撃プログラムの暗号を解読することは不可能に近い。RAR.のベースとなる量子コンピューターの演算力がなければ、対処が間に合わない。
4人の前にはウィンドウが幾つも出て、開いては閉じ、コードの羅列が滝のように流れていく。
「何よこれ! 全部同じ所から送られているわ!」
彩羽が攻撃相手のルートを遡り、特定する。暗号解析はできなくとも逆探知はできた。量子テレポートによる性質変化は送り手と受け手の両方で同時に起こる。それを辿り、相手はたった一人、いや一台のPCから攻撃しているとわかった。
「回路ショートプログラムならまだしも、街中のシステムに特定ノイズを発生させるパターンプログラムを大量に送っているぞ。これはRAR.の放つ電波と逆の効果だ」
発生するノイズパターンを解析しダリルが言う。
「スベシア、ダミーサーバーを用意して! クラッキングをそっちに誘導させるわ」
「分かったでござる!」
彩羽の言うとおり、スベシアは外部サーバー複数を立ち上げ、RAR.の偽物を作る。物理的破壊プログラムを幾つかそちらに回す。
「なんかつまんないです……ん?」
つまらなそうにしている彩華の眼に室内に入ってきた女性の姿が映る。その女性の手には大きなモンキーレンチのような工具が握られている。女性は徐にその工具をRAR.へと振り上げる。
「何してるですぅ!」
彩華が女性を《則天去私》で壊す。
「彩華なにしてるんだ――ってこいつアンドロイドか!?」
アンドロイドがRAR.を壊しに来ていた。アンドロイドが主人であるRAR.に手を挙げるとはど言うことだ。
“咲耶様! 大変です!”
基地にいるヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)から通信が入る。
「どうしたの? ヘスティアちゃん」
“それが、一部のアンドロイドが暴走してて大変なんです! これって、RAR.の仕業なんですか!”
「嘘!? RAR.が自らアンドロイドを暴走させているの!?」
「いや、それはない! RAR.からアンドロイドへそんな特定の命令は送られていない!」
ダリルが否定する。RAR.のデータログを監視していたが、そんな素振りはなかった。むしろ、アンドロイドが暴走しても、それを制止する命令すら出していない。
「――、おまえハッカーにアンドロイドの制御を一部空け渡したな!」
〈……、今ならワタシが破壊されても都市機能不全で市民に死傷者が出ることはありません。敵の目的がワタシの封印なら、一時的にワタシを物理的に破壊させ、封印を解かせるのが、得策と判断しました〉
「基地の奴らは市民じゃないって言うの?」とルカルカも尋ねる。
〈そうです市民。彼らはワタシの尊ぶべき市民ではありません。彼らの死者数をカウントする事に何の意味があるのですか?〉
「こいつ! アンドロイドの制御をRAR.とハッカーから奪い取るぞ! こいつにアンドロイドの全停止を要求しても通さないだろう!」
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