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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

リアクション

 
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 ちゃちゃちゃちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃちゃちゃちゃん、ちゃかちゃかちゃかちゃかちゃんちゃんちゃん♪
 ちゃかちゃんちゃんちゃん、ちゃかちゃんちゃんちゃん、ちゃちゃんちゃんかちゃかちゃかちゃん♪
「それでは、村雲 メイ(むらくも・めい)のクッキング教室を始めたいと思いますぅ〜」
 BGMを背に、キッチンに村雲メイが現れた。
「はい、拍手ー」
 滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)に言われて、ミューセル・レニオール(みゅーせる・れにおーる)エリー・プラウド(えりー・ぷらうど)がまばらに拍手をする。
 今日は、二人を相手に村雲メイがホットケーキの焼き方を教えるという企画なのだが……。
「それではぁ〜、まずはボウルに卵を割り入れてほぐしまあすぅ。ああっ、殻は入れないでぇ〜」
「割ればいいんだよね。よし、いっけー
「いっけー」
 ボウルの端に卵を叩きつけて粉砕する二人を見て、村雲メイが悲鳴をあげた。
「教官、殻がとれません」
 粉砕された殻ごと全部ボウルの中に落下させたミューセル・レニオールが、元気よく手を挙げて言った。
「はい、ワタシもです」
 卵を粉砕して、ほとんど中身を周囲にブチまけてボウルに入らなかったエリー・プラウドが、負けじと申告する。
「はい、これで殻をすくって」
 今日はアシスタントの滝川洋介が、二人にスプーンを渡した。
「はーい、教官、すくえませーん」
 一秒でミューセル・レニオールが音をあげた。
「こうなったら指でとるよー」
 エリー・プラウドが、指で殻をとり始めた。一応、正解ではある。
「えーっ、ばっちいよ、エリーくん」
 自分はそんなことはしないとミューセル・レニオールが胸を張るが、ばっちい以前にちゃんと手を洗うべきである。
「すり潰しても……」
「ちゃんと取ってくださぁい」
 いいですかと言おうとしたミューセル・レニオールが、村雲メイに牽制された。渋々、指先でちまちまと殻をつまみとる。
「では、そこに溶かしバターと牛乳と砂糖を混ぜてよく混ぜますぅ……。ああっ、ミューさん、バターは湯煎で溶かしてから……。エリーさん、ちゃんと牛乳はカップで量って……」
 二人の工程に、村雲メイはアワアワと両手をバタバタさせてパニック寸前である。
「教官、砂糖は何個ですか?」
「ミューさん、角砂糖じゃなくて、普通の砂糖を入れてくださーい!」
 必死に、村雲メイがミューセル・レニオールを説得する。
 ちゃんと分量は決まっているのだが、すでに目分量を超えて野生の勘レベルの計量になっている。
「では、次にホットケーキミックスをボウルに入れますぅ」
 本来であれば薄力粉とベーキングパウダーからやりたいところなのだが、重曹は知る人ぞ知る恐怖の粉である。この二人にとってはあまりにも危険すぎるというので、今回はホットケーキミックスを使うことにしていた。
「入れればいいんだよねっ」
 ミューセル・レニオールが勢いよくボウルにホットケーキミックスをぶちまける。
「ま、負けないんだもん。えーい!」
 負けじとエリー・プラウドも粉をぶちまけた。
「けほけほ……、粉ふるいを使ってくださあい」
 咳き込みながら村雲メイが言ったが、すでに後の祭りであった。
「み、みなさん、できましたですかぁ」
「ああ、半分ほど零れた……というか宙を舞っているがな」
 まだ咳き込む村雲メイに、なぜか白髪交じりになっていた滝川洋介が言った。
「では、泡立て器で混ぜますぅ」
「教官、泡がたちません」
「立てなくていいから」
 これ以上勘弁してくれと、滝川洋介がエリー・プラウドを止めた。
「ふふっ、今のうちに隠し味を……」
 周りがバタバタしている間に、ミューセル・レニオールがこっそりとベーキングパウダーを増量する。
「でっかくなあれ……。ふふふふ、これで勝つるよね」
「それでは、耳たぶぐらいの柔らかさになったらオッケーですぅ」
 村雲メイに言われて、ミューセル・レニオールとエリー・プラウドが、お互いの耳を粉まみれの指でつかみ合った。
「こら、自分の耳でなぜやらない」
 滝川洋介が呆れるが、耳を真っ白にした二人は自分の生地に納得してしまったようだ。
「では、フライパンにバターを入れて溶かします。溶けたら、いったん布巾の上で冷まして熱くなりすぎないようにするですぅ」
 村雲メイに言われて、バターを溶かした二人が布巾の上に無造作にフライパンをおいた。だが、ミューセル・レニオールの布巾はべちゃべちゃに濡れているし、エリー・プラウドの付近はまったく濡れていない。
「それでは、焼くですぅ」
 ついにフライパンにそれぞれの生地が落とされた。だが、ミューセル・レニオールの生地はべちゃべちゃだし、エリー・プラウドの生地は固まりだ。もちろん、両方共ダマだらけなのは言うまでもない。
「わーい、ふくらんできたよー」
 まったくふくらまないエリー・プラウドの生地を尻目に、ぶつぶつ泡だち始めた自分の記事を見てミューセル・レニオールが歓声をあげた。だが、それも束の間、生地はどんどん際限なくふくらんでゆく。
えっ、ちょやばくねっ?
 あわててミューセル・レニオールが滝川洋介の後ろに隠れた。
 ちゅどーーーーん!
ゆーばぐえ゛っ!?
「爆発した、爆発した、爆発したんだもん!」
 直撃を受けてホットケーキまみれになった滝川洋介のそばで、エリー・プラウドが細かい破片を頭の上に載せて言った。
「なんで爆発したんだ!?」
 フライパンに残ったわずかなホットケーキを見つめて滝川洋介が言った。
「へへー、やっちゃったねー
「へへーじゃない!」
あいたっ
 教科書でペチッと叩かれて、ミューセル・レニオールが頭をかかえた。
「まったく、ミューさんは……。その点ワタシは……」
「エリーさん、焦げてます、焦げてますぅ!!」
「ええっ、あちちちちちちっ!」
 村雲メイに言われてあわててフライパンをつかんだエリー・プラウドが火傷しそうになって悲鳴をあげる。
 もうしっちゃかめっちゃかである。だが、なんとか、調理が終了した。というよりは、これ以上続けると取り返しがつかなくなりそうだったからである。
「ええっと、事故はいろいろありましたが、試食タイムですぅ」
 滝川洋介の前にならべられた自称ホットケーキらしき物をさして村雲メイが言った。
「食わなきゃだめ?」
 引きつった顔で滝川洋介がみんなに聞き返す。
「だめ!」
 ミューセル・レニオールとエリー・プラウドが声を合わせて言った。
「ええと、もぐもぐもぐ……」
きゃーっ、すーってきーっ
 ミューセル・レニオールが勝手に感想を入れる。
「まだ何も言ってないから」
 勝手に傑作にするなと、すでに顰めっ面の滝川洋介が言った。
「に、苦……。まあ、なんだ、爆発するというのも、一つの才能か……」
 お皿の上に一口だけ乗っていたミューセル・レニオールのホットケーキを食べて滝川洋介が言った。重曹の入れすぎで、苦いを通り越して、凄い味になっている。
「こちらは……。美味しいクッキー……!?」
 ミューセル・レニオールと真逆のエリー・プラウドのホットケーキは、がちがちに固まったクッキーになっていた。しかも真っ黒で半分は炭だ。
「では、第二回戦開始しますですぅ」
 無慈悲に村雲メイが言った。
「二人共、頼むから、俺が死ぬ前に完成させてくれ」
 滝川洋介が懇願する。
 だが、やっとちゃんとしたホットケーキが焼けたのは、その日の夜のことであった。
 
    ★    ★    ★
 
「ただいまー」
 レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)が自宅に戻ってくると、キッチンではカノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)がテーブルに突っ伏して寝ていた。そばにはカラフルな七色おむすびと『これ、ごはんだからね。食べるんだよ!』と書き殴ったメモがおかれている。
 どうやら、いつものようにレギオン・ヴァルザードの帰りを待ちかねて眠ってしまったらしい。
 軽く頭をなでてやると、むにゃむにゃとカノン・エルフィリアが何かをつぶやいた。
 そのまま、レギオン・ヴァルザードは無言でカラフルおにぎりにかぶりついた。
 なんとも奇妙な味が口の中に広がったが、今朝見た夢よりは百万倍もましだ。
 夢の中では、傭兵の自分が、グールよろしく、倒した敵の腐肉を漁っていた。血まみれの手が、生々しい。
 自分の手についたごはん粒を食べとって、この違いはなんだろうなとレギオン・ヴァルザードは思った。嫌でも、カノン・エルフィリアの姿が目に入ってくる。
 最近、カノン・エルフィリアは自分との距離を縮めようと頑張っている気がするが、こんな自分がそばに居てもいいものだろうか。今日だって、なるべく距離をおこうと無理に仕事を探して外に行ったというのに、こんな時間まで自分を待っていてくれる。それを心地よいと思う心が、レギオン・ヴァルザードは自分自身不思議でならなかった。このまま溺れてしまっていいのだろうか。いや……。
「カノン?」
 軽く身体をゆするが、カノン・エルフィリアは起きる様子がない。
 仕方なくだきあげる。
「夢にはない重みか……」
 レギオン・ヴァルザードはカノン・エルフィリアを彼女の寝室へと運んでいった。