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学生たちの休日8

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学生たちの休日8

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「それじゃあ、これから、世界樹の成長と共になぜか狭くなってしまった部屋のお掃除を始めるよー」
 床も見えないほどガラクタで埋め尽くされた自室の中央で、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が元気一杯に言った。
「ちょっと待て、掃除を始める前に言っておくが、部屋が狭くなったのでは世界樹のせいではないぞ。よく周りを見てみるのだ。一目瞭然であろうが」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、足許のガラクタをかき分けてなんとか数歩前に進みながら言った。
「えー、どういうこと?」
「ガラクタを集めすぎだと自覚せぬか! 見よ、おかげで壁に掛けてある我のレールガンコレクションすら見えぬではないか!」
 誰のせいかわかりきっていると言わんばかりに、ジュレール・リーヴェンディがカレン・クレスティアを軽く睨みつけた。
 その言葉どおり、床にはワンドやら、マントやら、指輪やら、箒やら、本やら、ブーツやら、怪しい薬やら、何かの破片やら、仮面やら、着ぐるみなどなど、何が大切な物で何か変な物なのか分からない物が山と積み重なっていた。おかげで、壁に綺麗にならべられたジュレール・リーヴェンディのレールガンコレクションが、ほとんど先っちょしか見えない。
「とりあえず、全部捨ててしまおう」
はうぅ〜、それは勘弁だよー」
 容赦ないジュレール・リーヴェンディに、カレン・クレスティアが泣きついた。
 とりあえず、貴重品はちゃんと取っておくにしても、ゴミは容赦なく廃棄だ。
「ああ、それは、思い出の破片……」
「敵の破片などとっておいても、ただの石ころであろうが。やはりみんな捨てるのだ」
「じゃ、レールガンも一つあればいいよね」
「何を言う! これは砲身が伸縮式の大出力レールガン、それは砲身が折りたたみ式の携帯用レールガン、あれは冷却砲身の連射型レールガン、あれは電磁誘導フィールド式のコイルガン、あれは磁力コーティングされた弾体を撃ち出すリニアガン、あれはプラズマ化した弾体を撃ち出すプラズマキャノン、あれはNゲージを撃ち出すレールガン、全て違うのだあ」
 必死にレールガンコレクションをかばいながら、ジュレール・リーヴェンディが叫んだ。
「捨てちゃだめー」
 うっすらと目に涙を浮かべながら訴える様は、カレン・クレスティアとしてもドン引くしかない。
「はいはい。レールガンは捨てないから。じゃ、ボクの『よく分かる邪神召喚 入門編』のテキストと、クトゥルフ像も……」
「それは捨てる」
 きっぱりと、ジュレール・リーヴェンディは言った。
 
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「よいしょっと。資料になりそうな本、ここにおくぜ」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、かかえていた本の山を長机の上においた。
「ありがとう、ベア」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、レポートを書く手を休めて礼を言う。
「それにしても、チラム・バラムとかポポル・ヴフとか、なんだか難しそうな本を調べてるな」
 ソア・ウェンボリスに言われて集めてきた本のタイトルをあげて、雪国ベアが訊ねた。
「ちょっと気になることがあったんです。ほら、遺跡でオプシディアンたちと戦ったときに、あの人たちがお互いを別の名で呼んでいるのが聞こえたんです。気になって調べてみたのですけれど……」
 そう言うと、ソア・ウェンボリスが開いていたページを雪国ベアに見せた。そこには、マヤ神話の神としてテスカトリポカなどが記載されている。
「神様ってえと、そのものか、英霊ってとこかな。なにしろ、パラミタじゃ神様の意味が地球とちょっと違うからなあ」
 一概に、地球の資料本を鵜呑みにできる訳じゃないと、雪国ベアがさりげなく釘を刺した。
「にしたって、俺様のメカ雪国ベアをぼろぼろにしやがって、オプシディアンめ、許せん。だが、今回は不慣れな御主人とソラがパイロットだったからなあ。奴も運がよかったぜ。俺様が相手だったら、今ごろはぼろぼろにしてやっていたところだ」
 悔しそうに雪国ベアが言った。
 なにしろ、メカ雪国ベアは自慢のマフラーアームを切り落とされ、オートバランサーも破壊されて動けない状態にされたのだから。対するオプシディアンのイコンは、ルビーのイコンと共に無傷で逃げている。
ごめんなさーい。それにしても、あの魔導球のマントはやっかいですね」
 多数の小型ドローンの集合体であったマントにしてやられたソア・ウェンボリスが、ブルンと身を震わせた。
 小型機晶ロボットであるドローンは、集合離散で形状を変え、ビームを反射したり盾となったりする。射撃攻撃に対しては、かなり嫌らしい攻防一体の兵器だ。しかも、接近戦ではこちらの機体にとりついて、関節部などから内部機構を破壊しに来たりする。
「一気に叩き潰すか、魔法で殲滅するしかないだろ」
「そう簡単にいけば楽なんですが……。手強い、相手ですね……
 雪国ベアの言葉に、イコンは難しいとソア・ウェンボリスが顔を曇らせた。
「いずれにしても、彼らはいつも何か私たちを試すように事件を起こしていますから、きっとまた現れるでしょうね」
「ああ、そのときこそリベンジだぜ。見てろよ、俺様の大活躍
 今度は任せろと、雪国ベアが胸を張った。
 
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「木の中に魚が泳いでいるというのも不思議なものですねえ」
 世界樹の中に新しく開館した水族館で、水槽の中の魚をながめながら博季・アシュリングが言った。
「でも、世界樹の樹液が混じった水で育てているから、すっごく元気なんだよ」
「へえ、そうなんですか」
 それは知らなかったと、博季・アシュリングがリンネ・アシュリングに言った。
「うん。だから、凄く美味しそうだよね」
 リンネ・アシュリングは、目をキラキラと輝かせながら答えた。ちょっと、いろいろな意味で危ない輝きだ。
「ええっと、そろそろ公園にでも行きましょうか」
「うん」
 さしのべられた博季・アシュリングの手を、リンネ・アシュリングは元気よくつかんだ。
 
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「それでは、双方共に、準備はいいですか?」
 修練場の中央に立ったエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が、朝野 未沙(あさの・みさ)緋王 輝夜(ひおう・かぐや)の双方を見て言った。
「いつでもいいんだもん」
「こっちもだよ」
 二人が、ほとんど同時に言った。
 もともとは、エッツェル・アザトースが久しぶりに緋王輝夜に稽古でもつけようとしていたところへ、ちょうどやってきた朝野未沙が組み手を名乗り出てくれたのだった。エッツェル・アザトースとしては、ある意味これで助かったとも言える。
「始め!!」
 エッツェル・アザトースが試合開始を宣言した。
 即座に緋王輝夜がミラージュを展開する。だが、幻影が展開するよりも早く朝野未沙がゴッドスピードで突っ込んでいった。
 ハルバードを横に一閃、全ての分身を叩き斬った。
 そのつもりであったが、ありえないことに何体かの幻影を斬り逃す。
「間合いを外した!?」
 そんな馬鹿なと、朝野未沙が再度突っ込んで討ち漏らした幻影を倒す。
 だが、実践的錯覚で敵の間合いを外した緋王輝夜が、すでに回り込んでいた背後からブラインドナイブスで、ゴム弾を至近距離で撃ち込んできた。
 間一髪、龍鱗化で攻撃を跳ね返した朝野未沙が、背中のエンジェルの羽根を振るわせながら龍飛翔突で大きくジャンプする。その頂点で、ブリザードを放った。
 それを行動予測していた緋王輝夜が、真空波で冷気の嵐を左右に斬り裂く。ダイヤモンドダストが分かれた後ろから、本命の攻撃とばかりに朝野未沙がハルバードを前に構えて突っ込んできた。
 当然それを予測していた緋王輝夜がほくそ笑む。その真正面には、満を持してフラワシのツェアライセンが待ち構えている。飛んで火に入る夏の虫だ。
 妖怪のカマイタチのような姿をしたツェアライセンが、腕の鎌を振り上げた。
 だが、見鬼でフラワシの姿を看破した朝野未沙は、間一髪でわざと真下に落ちてハルバードを突き立てた。
 そのフラワシを避けた朝野未沙を、緋王輝夜が狙撃する。ゴム弾を龍鱗化で弾くものの、後ろへ飛ばされた朝野未沙がハルバードを手放した。間合いをとりつつも、いったん動きを止める。
「悪霊退散!」
 朝野未沙が印を結ぶと、フラワシが姿を消した。だが、緋王輝夜がカーマインを構える。
「そこまでだよ。武器を失っては……きゃっ」
 たたみかけようとした緋王輝夜が、突然倒れた。
 いつの間にか足許に忍びよっていたロープの式神が、緋王輝夜に絡みついて縛りあげたのだ。
「ふふふふ、勝負あったー。こんなこともあろうかと、式神をしのばせておいたのよ」
 朝野未沙が勝ち誇る。
「悔しいじゃん」
 必要以上に身悶えしながら、緋王輝夜が悔しがった。
「ふふふふふ、これでその身体は揉み放題……」
 両手をワキワキさせながら、朝野未沙が緋王輝夜に迫った。
「はたして、そううまくいくかな?」
 突然足払いを受けて、朝野未沙が床に倒されて組み伏せられた。
「何が……」
 なんとか後ろをのぞくと、ツェアライセンが上に乗っかっている。
「さっき、除霊したはずじゃ……」
「錯覚よ」
 ロープにグルグル巻きにされた緋王輝夜が答えた。
「はーい、そこまでです。痛み分けかな」
 そこで、エッツェル・アザトースが試合終了を宣言した。
「さっさと止めを刺さないで、欲望に負けたのが敗因ですかな」
 エッツェル・アザトースが寸評を述べる。
「それじゃ、戦う意味がないもの」
 そう言って、朝野未沙が必死に緋王輝夜の方へ手をのばした。嫌ーっとばかりに転がって逃げようとする緋王輝夜を、式神が朝野未沙の方へ引き戻そうとする。戦いはまだ続いているようだ。
「はーい、君たちお疲れ様でしたー。今すぐ、回復してあげるんだもんね」
 床の上でもぞもぞしている二人に、グレン・ヴォルテール(ぐれん・う゛ぉるてーる)が駆け寄った。いそいそと、なんだかおっきい画鋲のような物をぺたぺた二人の全身に貼りつけていく。
「ちょちょっと、まさかこれ……」
「はーい、熱いのは最初だけなんだもん。えいっ」
 焦る朝野未沙を無視して、グレン・ヴォルテールが火術でお灸に火をつけていった。
「あちちちちちち!!」
 緋王輝夜と朝野未沙が悲鳴をあげる。
「我慢してねー、すぐに元気になるんだもん」
「いや、熱いって!」
「無理無理無理無理!」
 身動きできないまま、全身にお灸を据えられて二人がのたうち回った。
「うむ、いい絵が撮れた。これは、返しておきますよ」
「はーい、ありがとうなんだもん」
 朝野未沙から記録映像を撮ってくれと頼まれて渡されたカメラを、エッツェル・アザトースがグレン・ヴォルテールに手渡した。
 後はよろしくとその場を後にして自室へさっさと戻る。
 ドアを閉めたとたん、エッツェル・アザトースは思わずその場にしゃがみ込んだ。
「あまり、時間は残されてはいませんかね……」