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リアクション
★ ★ ★
「はいはいはい、みなさん、こちらがお仕着せ教室……じゃなかった、着付け教室ですよー。順番に中に入ってくださいねー」
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が、雅な扉の部屋へとシャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)やココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)たちを案内して行った。
今日は、ここ世界樹でも成人式が執り行われている。この部屋は、和服で参加する人たちのために着付けをしてくれる店だ。
「いいけどさあ、着物とか、高くないのか?」
全てクロセル・ラインツァートの奢りであるときいて、ちょっと心配そうにココ・カンパーニュが聞いた。
「なあに、心配は御無用。イルミンのあきんど、クロセル・ラインツァートにお任せあれ」
ちょっと黒い微笑みをクロセル・ラインツァートが浮かべた。金の出所は詮索しない方がいいだろう。
「なんで、それがしまで……」
「いいのだ、たまにはクロセルと仲良くしてほしいものなのだ」
ちょっと戸惑い気味のシャーミアン・ロウの背中を押して、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)がお店の扉をくぐった。
「わあ、凄い」
一面に飾られるように用意された振り袖を見てアルディミアク・ミトゥナが歓声をあげた。
いくつかは壁にタペストリーのように飾られ、いくつかは桐の箱にきっちりと収められていた。他の場所には色とりどりの帯も綺麗にならべられている。
「へえ、こんな服見たことないなあ」
感心したように、ココ・カンパーニュも言う。
「ミニの着物ドレスでしたらあ、魔法少女用に持っていますけどお、本物は初めてですわあ」
これはいい物だと、チャイ・セイロンが布地を手で確かめつつ言った。
「ミニは少し恥ずかしいですが、これはちょっと着てみたいですね」
うっとりとした目でペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)も同意する。なんだかんだ言っても、ゴチメイたちも年頃の女の子たちだ。
「それがしは、獣人としてはもう成人の儀は済ませてあるのですが」
今さら間を漂わせて、シャーミアン・ロウが言った。
「まあまあ、それはそれ、これはこれ。お祝いは、何度あってもいいものです」
ひとまずここはそういうことでと、クロセル・ラインツァートがシャーミアン・ロウをなだめる。
「着付けが分からないのであれば、私が手伝ってあげるのだ」
台の上に乗ったマナ・ウィンスレットが、着物の端を持って言った。
「えっと、一応聞きますが留め袖という方はいませんよね?」
クロセル・ラインツァートがよけいな質問をする。
「留め袖?」
意味の分からないココ・カンパーニュとペコ・フラワリーが顔を見合わせた。
「既婚者用という意味ですわあねえ」
チャイ・セイロンが説明すると、アルディミアク・ミトゥナだけがちょっと乾いた笑いを浮かべた。
「ささ、式が始まってしまいます。早く着替えてください」
ニコニコしながら、クロセル・ラインツァートが言った。
ゴチメイたちが、思い思いに好きな着物を選ぶ。
「それはいいとして、なんでクロセルがここにいるんですか?」
今さらという感じで、シャーミアン・ロウが訊ねた。
「それは、スポンサーですから……」
「そういう意味じゃないです。なんで、女子の着替えのど真ん中にクロセルがいるのかと言っているんです」
「はっ!?」
シャーミアン・ロウの言葉に、あらためて全員の視線がクロセル・ラインツァートに集まった。
「皆の者、懲らしめてやるのだ」
マナ・ウィンスレットに言われるまでもない。
いくつかの殴打音の後に、店の外にボコボコにされたクロセル・ラインツァートが放り出された。
「いつもは空気にするくせに、こういうときだけ……」
しばらく気を失っていたクロセル・ラインツァートが、やっとのことでよろよろと立ちあがった。
ちょうどタイミングよく、シャーミアン・ロウたちも出てくる。
シャーミアン・ロウは、マナ・ウィンスレットが選んでくれた品のいい桜色の晴れ着に着替えていた。濃いピンクの帯を巻き、大きな花かんざしを髪に挿している。
ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナは、お揃いの赤に金糸銀糸の刺繍の入った振り袖だ。金糸の入った薄紅色の帯がちょっときつそうにも見える。髪は簡単に結い上げて、髪留めで纏めている。
ペコ・フラワリーは、濃い浅黄色の落ち着いた晴れ着に、銀糸の入った白い帯を巻いていた。こちらは、すらりとした長身にあわせて、髪はまっすぐに下ろしていた。
チャイ・セイロンは、オレンジ色の艶やかな振り袖に、黄色い帯を巻いている。髪は、花飾りのついたカチューシャで飾っていた。
それぞれが、ふわふわもこもこの白いショールをかけてうっすらとお化粧をしていると、さすがに普段とは違って落ち着いた年頃の娘に見える。
「おおっと、みなさんステキです。では、会場にむかいましょうか。不肖、このクロセル・ラインツァート、エスコートさせていただきます」
そう言うと、クロセル・ラインツァートがシャーミアン・ロウとココ・カンパーニュの手を取った。
★ ★ ★
「はっ、はっ、はああ!? 何、これ!?」
相変わらずダイエットマラソン中の神代夕菜であったが、エントランスの真ん前にドンと立てられた変な像を見て目を白黒させた。
「これね、通報のあった不法投棄って」
巨大なザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)の一刀彫りの像を前にして、天城 紗理華(あまぎ・さりか)が言った。
「いや、まだ不法投棄と決まったわけでは。誰かへのお届け物かもしれないじゃないですか」
決めつけは早計ですよと、大神 御嶽(おおがみ・うたき)が言う。なんとも不似合いなリボンが形だけ巻きつけてあったからなのだが、単に運ぶときの紐だったのかもしれない。とはいえ、こんな巨大な物をどこの力持ちが運んできたのだろうか。
「こんな物、不法投棄に決まってるわよ。絶対よ、絶対。さあ、さっさと排除しなさい!」
完全に決めつけると、天城紗理華が風紀委員たちに命令した。
「やれやれ、なんで無関係な俺らまで手伝わないといけないんですら」
「まあまあ」
ぶつぶつと文句を言うキネコ・マネー(きねこ・まねー)を、大神御嶽が必死になだめた。
風紀委員たちが力を合わせてロープをかけ、なんとか一刀彫りを地面に引き倒した。
「それで、いったいどこに運びます?」
とりあえず横倒しにしたまではいいが、置き場所に困ってアリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)が天城紗理華に聞いた。
「お風呂の燃料にでもしてしまいなさい」
ちょっと考えてから、天城紗理華が命じた。
★ ★ ★
「うーん、資料と言っても、断片的すぎて、どうにもとっちらかっていますなあ」
ベッドの上に胡座をかいて座りながら、高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)が散らばったメモ用紙をながめて溜め息をついた。ザナドゥで体験したことをその都度書きとめたメモ群だ。そろそろ纏めてちゃんとした資料にしようと思ったのだが、どうにも纏めようがない。それほどに、いろいろな出来事があったと言うことでもあるのだが。
「とりとめがないというのは、こういうことかな。まあ、いろいろとありましたからねえ。おーい、広目天王、少しは詳しいでしょう、ちょっと手伝ってはくれませんか」
部屋の外にいるだろう式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)に、高月玄秀が呼びかけた。悪魔であれば、ザナドゥのことも詳しいだろう。
「我が君、手伝いとう心は確かなれど、今は動くことがかなわぬ」
隣の部屋で武器の手入れをしていた式神広目天王が、姿を現さずに返事だけしてきた。
「何をやっているんですか」
「いや、頭の上にわたげうさぎが……」
式神広目天王の答えに、やれやれと高月玄秀が頭をかかえた。ここは、そんな物は払いのけてこいと言うべきか、わたげうさぎが乗っているのなら仕方ないと言うべきか。
「シュウ、手伝うことがあるなら私が……。ううん、それより私を手伝って……」
ふらふらと部屋に入ってきたティアン・メイ(てぃあん・めい)が言った。
「こら、ティアを呼んだ覚えはないぞ。今忙しいんだから、邪魔しないでくれ……」
追い払おうとした高月玄秀に、ティアン・メイが仔猫のように背中にしがみついてきた。
「おーい、広目天王、なんとかしてください」
面倒なことだと、高月玄秀が式神広目天王に助けを求めた。
「御自身の招いた結果ではございませぬか。我は知りませぬぞ」
案外に、今日は式神広目天王が素っ気ない。それとも、何かに気を遣ってでもいるのだろうか。
「ねえ、もうずっと……。最近は遠出ばっかりだったから、ゆっくりできなかったよね……。ねえ……」
そう言いつつ、ティアン・メイが高月玄秀にしなだれかかってくる。どうも、ザナドゥでの一件以来、情緒が不安定だ。そのせいか、やたら人肌恋しく接してくる。
「しょうがないな。相手をすればいいんだろ、相手を。僕の邪魔をしたんだから、それなりの覚悟はしてもらうよ?」
そう言うと、高月玄秀はティアン・メイにキスをした。
★ ★ ★
「ああー、平和ですー。ぬくぬく」
自室のコタツでのんびりと足をのばしながら、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)がつぶやいた。
神代明日香は校長室に入り浸りだし、神代夕菜は何やらトレーニングウエアに着替えて飛び出していった。
いずれにしろ、今は誰もいないのだから、部屋の掃除を手伝わされたり、買い物を言いつけられたりすることもない。実に平和な休日だ。
「あー、ぬくぬく」
それにしても、コタツというのはなんと偉大な発明だろう。暖かくて、一度入ると誰でもそこから抜け出せなくなる。そして、ぬくぬくしながら読む本もまた格別だ。
「ぬくぬくとアイスの魔法な関係……。ああ、なんてステキなタイトルの本なのでしょう。ああ、そうです、アイスです。そろそろおやつの時間ですから、アイスが食べたいです。で、でも、コタツからでられない……。ああ、いったいどうしたら……。でも食べたい……。私はどうしたらいいのでしょう。アイスぅ〜」
コタツに両足を突っ込んだまま、ノルニル『運命の書』は悶えてゴロゴロするのだった。
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