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二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

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二人の魔女と機晶姫 第1話~起動と邂逅~

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■謎秘めた機晶姫
 魔女・ミリアリアの元へともたらされた棺桶状の箱。その中に眠っていたのは、性別不明の機晶姫。そして、その機晶姫は“鉄仮面の騎士”に狙われている。
 謎を多く孕んだその機晶姫が眠っていたという“機晶姫のゆりかご”へ、探索班が向かってから数刻。ミリアリアの小屋の中では、ある話が進んでいた。
「……この子の調査?」
「はい。ミリアリアさんがよろしければ起動前に色々と調べておきたいのですけれど」
 おっとりとした口調でラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)が代表してお願いする。その横には、同様の頼みをするつもりであったのだろう禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)もいる。
 ダンタリオンの書は、本当なら自身の契約者である佐野 和輝(さの・かずき)をせっついてから一緒に頼むつもりだったのだが、当の本人はルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)と一緒に『トラッパー』による自然物を利用した罠を張りにいってしまっていた。そして人見知りであるアニス・パラス(あにす・ぱらす)は、和輝が戻るまではルナと友人関係にあるらしいミリアリアの傍にいるつもりのようだ。
「んー……別に構わないわよ。でも、バラしたりはやめてあげてよ。目覚めた時にバラバラだったらこの子だってびっくりしちゃうだろうし」
 バラす、という言葉に一瞬水ノ瀬 ナギ(みずのせ・なぎ)はびくりと反応した。思わず首を傾げるミリアリアだったが、ナギは何とか笑ってごまかす。
 ――そんなわけで、機晶姫の調査が行われることとなった。起動準備も同時に進めるため、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を中心に、機晶技術に心得のある者たちが機晶姫の調査と準備を始めていく。
 ダリルの契約者であり、今回のサポートを担当するルカルカ・ルー(るかるか・るー)がシャンバラ教導団から持ってきた機材やノートパソコンを機晶姫の各連結部分へと繋いで、起動時の各種エネルギー伝達準備を整える。それと同時に、オーランドや朝野 未沙(あさの・みさ)匿名 某(とくな・なにがし)徳川 家康(とくがわ・いえやす)たちが機晶姫のボディ点検を兼ねた調査をおこなっていく。特に家康は『セルフモニタリング』で冷静になりつつ調査をおこなっているようだ。
「ミリアリアさん、ひとつ聞きたいんだけど……この機晶姫の中枢パーツが別の場所に保管されてる理由とか、鉄仮面の騎士が狙う理由……あと、鉄仮面騎士自体に感じたこと。推測とかでいいから聞かせてもらえるか?」
 護衛用なのだろう、『禁猟区』を施した絆のアミュレットを機晶姫に付けてあげながら、某はミリアリアに質問する。……少しの思案の後、ミリアリアはあくまで自分の意見だけど、と前置きをして答えた。
「多分、中枢パーツが別に保管されてるのは『そうしなきゃいけない理由』があるんだと思うわ。その理由はまだ断定できないけど、安心する理由じゃなさそうな気がするのよね。――鉄仮面の騎士については、わずかだけしか見てないから何とも言えないけど……まず、人間であるのは間違いない。そして、その時箱を持っていた冒険者を確実に倒そうとする明確な信念を感じ取れたわね」
 ミリアリアの返答に、ふむ……と頷く某。どうやら、相手は“戦い”に慣れているのだろう。一筋縄ではいきそうになさそうだ。
「機晶石は……通常のより伝達効率が高いタイプのものみたい。――機晶姫のゆりかごにいった人たちが、この子に関する情報を持ってきてくれればいいんだけど」
 ルカルカはノートパソコンのキーボードをリズム良く打ち、機晶石や機晶姫の状態などのデータを参照している。情報が少なすぎるためか、調べるのも一苦労、といった様子だ。
「古い遺跡と聞くし、あまり期待はできないだろう。その分、俺たちで何とかしなければなるまい」と、ダリル。
「ふむ、とにかく情報がなければ詳しく調べられないな。しかし、パーツだけを見るにかなり古い年代に造られた機晶姫には違いない」
 ボディ点検の際に一時的に取り外された腕のパーツを見ながら、ダンタリオンの書が言う。パーツ全体を見る限り、その古さが見て取れる。
「生きていない“モノ”である今なら、これも調査の役に立つはずだ――」
 ダリルは機晶姫や箱に手を触れると『サイコメトリ』を使い、その想いを調べようとする。……しかし、そこで見えたのは箱に納められる瞬間と薄暗い部屋で安置されている風景のみ。しかも時代が相当古いからか、かろうじて見えたというレベルである。これでは役に立ちそうになかった。
「なんだか、武装用パーツも少ないみたいだし補助タイプで造られたのかな?」
 機晶姫の状態をチェックしていた未沙は、武装向けのパーツが少ないことに気が付いたようだ。そして……オーランドが機晶姫の背部を点検していると、あるものに気が付いた。
「あら、これは……ぐるぐるマーク?」
 人型には何かの道具を使わない限りその目で見れない箇所、背中に小さく掘られていたのは……渦を巻いている太陽のような刻印。見たことのないマークにオーランドはおろか、技術者たちは首を傾げるしかなかった。


 ――その後も、技術者たちは機晶姫の調査をできうる限りでおこなったが、それ以上の成果は上がることはなかった。今までの調べた結果を高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)がまとめている。
「……これ以上のことは、中枢パーツを組み込んでからってことになるわね。でも、単純に考えてその中枢パーツが遺跡奥部にあるというのがやっぱり気になるわ。ミリアリアの言うように、そうしなければいけない理由があるとして……誰かが意図的に分けて管理してたってことになるでしょ? だとしたら……簡単に起動させてはいけない理由があったんじゃないかしら……」
 鈿女の言葉に、返答する者はいない。どうやら、そう考えるほかなさそうではあるようだ。
「……あ、そうですわ。背部に刻まれていた太陽のような刻印、何かわかりましたか?」
 オーランドがそう尋ねると、ダリルがその返答をする。
「さっき、定時連絡を兼ねて遺跡班のほうに聞いたみたんだが、どうやら同じ刻印が機晶姫のゆりかごにもあったらしい。あの遺跡は何か秘密があるとみて問題なさそうだ」
「必要な中枢パーツの形とかも、写真データで向こうに転送したから、あとは向こうの到着を待つだけかな」
 どうやら、ダリルたちはそこまでやっていたようだ。これなら遺跡班の探索も少しは楽になるだろう。
 その後、ルカルカはヴィゼルが派遣してくれるというアーティフィサーと連絡を取り、打ち合わせをする。アーティフィサー側でもいくつかパーツを持ってきてくれる算段となっており、綿密な打ち合わせとなったようだ。
 まだ時間はある。機晶技術を持った技術者たちはそれぞれの知識を武器に、少しでもこの機晶姫の謎に近づこうと試行錯誤をするのであった……。