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リアクション
ちょうどその頃。
浜辺には、もう二組のコンダクターたちが到着していた。
「”シオヒガリ”の話を聞いて、俺もやってみたいと思ったんだが……『危険』で『禁止』と書いてあるな」
立て看板の前で残念がっているのは、好奇心旺盛なグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)。
「アサリが手に入ったら、貝に馴染みがないグラキエス様のために、私が料理して差し上げたかったのですが」
グラキエスに執着している悪魔、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が呟く。
「沖を見ろ、”シオヒガリ”が禁止された原因は、あれのようだ」
と、こちらも、もはや病気といっていいほどグラキエス至上主義のアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が指さす先には、交戦中のパラミタ大王イカとパラミタ大タコ。
「軟体動物共め、主の浜遊びを邪魔するとは……許せん! 串刺し……いや、串焼きにしてくれる!」
「あれを解決すれば、”シオヒガリ”ができそうですね」
「では、エルデネストのアサリ料理のために、あのイカとタコを倒そう。あなたの料理は美味いから、楽しみだ」
「グルル……」
ブルーブレードドラゴンが小さく唸る。
「ん? スティリアは、あれを食べてみたいのか? イカとタコもアサリと一緒に料理してもらおうか?」
初めての海に、やや興奮気味なブルーブレードドラゴンを、グラキエスは、優しく撫でてやった。
「ふふ……それ程楽しみにされると、腕が鳴りますね」
スティリアだけでなく、エルデネストにも、パラミタ大王イカとパラミタ大タコは、すでに、追加の食材としか見えなくなってしまったようだ。
「主よ、私とガディが、奴らを引き付けます。主は、丸焼きにするなり冷凍するなり、お好きな方をお選び下さい」
アウレウスは、そう言って、ダークブレードドラゴンのガディに騎乗した。
もう一組を率いているのは、自称、悪の天才科学者、ドクター・ハデス(どくたー・はです)。
「ほう、怪人うさぎ男とは珍しい。これは、我らオリュンポスにスカウトせねば!」
白衣に黒縁メガネという初夏の浜辺ではかなり怪しげな風体のハデスは、浜辺ではらはらと戦闘を見守るうさ太郎、うさ次郎、うさこを見かけた途端、転がるように走り寄った。
「フハハハ! 我が名は、世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」
「何だ、こいつは……うさ?」
「オレたちが、怪人だと……うさっ?」
「でも、この人も、お客さんですわうさ。話を合わせた方がいいですわうさ」
そこそと話し合うゆる族の兄弟と妹は、ハデス的には、秘密結社の怪人にぴったりな勧誘対象だ。
「うさ太郎、うさ次郎、うさこよ! 我ら秘密結社オリュンポスが、お前たちの望み、大タコと大王イカ退治を叶えさせてやろう!」
上から目線で協力を申し出るが、インドア派のハデスが、直接、モンスターに立ち向かうわけではない。
「ククク、さあ行け、我がオリュンポスの改造人間サクヤ、暗黒騎士アルテミスよ! 怪人うさぎ男3兄弟をサポートするのだっ!」
「了解しました、ハデス様」
騎士道を重んじるアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は、礼儀正しく一礼してから、海の家「うさうさ」で水着姿に。
「ちょ、ちょっと、兄さん! 誰が改造人間ですかっ! 変な呼び方しないでくださいっ!」
高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)も、なんだかんだと言いつつ、命じられたままに、水着に着替えてきた。成績優秀で真面目な常識人の彼女は、ちょっとブラコン気味という唯一の欠点のせいで、いつも兄の暴走に振り回されてしまう。
「よいか、ふたりとも! あくまで陸地までおびき寄せるだけで、倒してはいかんからな!」
うさぎたちに自信をつけさせなければ、この作戦の成功はない、とハデスが小声でふたりに言い聞かせる。
「はい、咲耶お姉ちゃんと協力して、怪物たちを、陸地までおびき寄せます!」
「水着にも着替えたし、これでOKですね……ゆる族さんたちのために、がんばりましょう」
水着に剣と盾を持ったアルテミスと、ビキニの咲耶が、ボートに乗り込むと、ハデスは、さらに、「召喚」で悪魔のデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)を呼び出した。
「我が呼びかけに答え、召喚に応じよ、悪魔怪人デメテールよ! 怪人うさぎ男の手助けをするのだ!」
現れたデメテール・テスモポリスは、パジャマ姿だった。
「んー、あと五分ー」
アジトに居るときは大抵、ゲームをしてるか寝てるかのデメテールだが、今回は寝てる時間だったらしい。
「んもー。せっかくお菓子食べ放題の夢みてたのにー」
ぶつぶつ文句を言いながらも、とりあえず海の家で着替えてきたのは、スクール水着。胸には、「でめてーる」と大きく名前が書いてある。
「これ終わったら、海の家で、かき氷食べさせてよねっ!」
かき氷の契約のもと、モンスター退治に協力することになったデメテールが、のそのそとボートを用意している間に、アルテミスと咲耶は、波間にのたうつ触手を警戒しながら、パラミタ大王イカに近づいた。
「オリュンポスの騎士アルテミス、参ります! 咲耶お姉ちゃんには、指一本触れさせません!」
アルテミスは、盾を構えつつ「お下がりくださいませ旦那様」「オートガード」を使い、彼女に守られた攻撃役の咲耶が、「氷術」「雷術」「火術」で、敵を挑発する。
「よーし、この調子なら……って、きゃああっ!」
予想よりぐぐっと伸びた触手が、咲耶を捕まえ……、
「やっ、やだっ、水着がっ……」
吸盤だらけの先端が、ビキニを掴んではぎ取った。
「咲耶お姉ちゃん!?」
「グレイシャルハザード」による剣技で迎撃し、なんとか咲耶を助けようとするアルテミスだったが……、
「あっ、けど、倒しちゃいけないんでしたっけ……って、きゃあっ!」
手加減をした隙を突かれて、墨攻撃をまともに受けた。
「う……か、身体が動きません……」
痺れたアルテミスも触手に捕まり、咲耶の隣で逆さづりに。
「く……負けるな、改造人間サクヤ! 暗黒騎士アルテミス!」
ハデスが後方から「優れた指揮官」「行動予測」「士気高揚」を使用するが、パラミタ大王イカは、妹たちを離そうとしない。
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