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戦え!守れ!海の家

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戦え!守れ!海の家
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第4章

 義仲との釣り勝負を引き分けで終えて帰ってきた清盛は、海の家「うさうさ」の隣に、奇妙な建造物が出現したことに気付いた。
「何だ? 何か書いてあるな。『悪魔の忍者! 忍者超人 オクトパスマン(にんじゃちょうじん・おくとぱすまん)現る!』……何のことだ?」
「ようこそ、清盛。蒼空学園のハーティオンだ」
 木材を担いだままのコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、清盛に名乗る。
「私は、今回、海の家『うさうさ』を盛り立てる為に、仲間達と協力してプロレスを行うことになった。うさ太郎、うさ次郎、うさこの夢の篭った海の家……盛り上げる為に、私も微力ながらのお手伝いをさせていただこう! シャンバラ維新軍の皆さんとレッツプロレスリング!」
「プロレスというものは、よく知らないが、あの舞台で、おまえが、戦うのか?」
「私はシャンバラ維新軍に所属していないし、そもそもプロレスラーではない。試合はオクトパスマンに任せるとして、私の仕事は会場の設置等の大道具係だな。何より、下手に海辺で戦うと、私は沈んでしまうしな……」
「スミスミスミ〜!」
 コアの後ろで、奇声を上げたのは、顔をタコに覆われた筋骨隆々の大男、オクトパスマンだ。
「それにしても……オクトパスマン。君は、パラミタ大タコ達と話をして、帰ってもらうように説得するわけにいかなかったのか?」
「フィギュハーッ! 俺様はタコじゃなくて『タコの化身の悪魔』だぜーっ! あんな何体生物どもと言葉が通じるわきゃねぇだろうがーっ!」
「なんだか、面白そうだな。見ていくとするか」
 うさ太郎、うさ次郎、うさ子と清盛一行が、混み始めた観客席に腰を下ろすと、清盛の隣に鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が座った。
「おまえは、前にも会ったことがあるな」
「はい、今日は、プロレスリングシャンバラ維新軍の興行があると聞いて、観戦に来ました。ただ、今回の興行先は海の家………コントラクターの選手が戦ったら、建物、倒壊しそうですね」
「うーん、倒れたら、困るな」
「おまかせください」
「はあ? 何だと?」
「いえ、何でも……こちらの話です、はい」
 そうこうするうちに、客席が暗くなり……、
「……え〜…。シャンバラ維新軍、実況担当の『実況マスク』です。本日の試合の実況を行わせて頂きます。皆様、最後までお楽しみ下さい」
 実況マスクの正体は、地球にある大手企業「白鳥不動産」の一家に仕える忠実な執事のサー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)。スワン・ザ・レインボーを名乗るお嬢様、白鳥 麗(しらとり・れい)の正体バレ回避のため、無理やりマスクを被らされている。本人は嫌で仕方ないのだが、プロ意識が仕事に手を抜くことを許さない。
「では、各選手の入場です。ゴージャスな衣装で登場したのは、シャンバラ維新軍の『ダイアモンド・クイーン』こと、スワン・ザ・レインボー!」
「おーっほっほっほ!」
「姿と言動だけは正統派魔法少女、今日もろざりぃぬスタイル爆発か? 魔法少女ろざりぃぬ〜!」
「きらっ☆ ろざりぃぬだよ! みんな私の魔法でマットに沈んじゃえ〜」
 観客席の清盛は、ろざりぃぬと名乗る九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)に見覚えがあった。
「あいつは……前に温泉卵を食べて感激していた奴じゃないか? 名前がちがうようだが……」
「『赤き死のマント』を身に纏って登場したのは、忍者超人オクトパスマン〜! 悪の将軍に仕えていた噂は、果たして真実か?」
「スミスミスミ〜!」
「伊達と酔狂の享楽主義者、キャプテン・ニューシャンバラ〜! 高い所と逆光と説教をこよなく愛する神出鬼没の不審人物、シュバルツ・ランプンマンテル(しゅばるつ・らんぷんまんてる)〜!」
 不敵な笑いを見せるキャプテン・ニューシャンバラことフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)に続いて現れた、覆面姿にガチムチな肉体、褌にマントというシュバルツの異様な外見に、会場から悲鳴が上がる。
「そして、最後は、キャプテン・ニューシャンバラの応援要請に応えてやってきた『キマク女王イカス娘』、屋良 黎明華(やら・れめか)〜!」
「ひゃっはあっ♪ 勝利の美酒を味わうのは、この黎明華なのだ〜!」
 6人全員がそろったところで、レフェリーの鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)が、リングに上がる。
 今回は、なんでもありのルール。黒羽は、観戦してる人達に万が一の事がないよう、ガードライン使って、さり気なく守りながら判定するつもりだ。
「それでは……『シャンバラ維新軍』主催、反則裁定なし、一番最初に一本取った人が勝者のバトルロイヤル……これよりゴングです!」
「人間どもを、恐怖のどん底に落としてやる! この俺様の悪魔のファイトを見て、恐れおののきな〜!!」
 オクトパスマンが、試合開始と共に、マントを脱ぎ捨てた。
「さあ、始まりました、SWRin海の家『うさうさ』、なんでもありのバトルロイヤル!」「この試合の解説を務めさせて頂きます、冬月 学人(ふゆつき・がくと)です。よろしくお願いします」
 実況マスクに続いて、学人の声が場内に流れると同時に、スワン・ザ・レインボーが、キャプテン・ニューシャンバラに挑む。
「ああっ、飛びつきからの関節技! 地味目な技ですが、観客の視線は釘付けです!」
「おお……」
「すごいな……」
「おーっほっほ!」
 ちょっとえっちい衣装に観客の視線が集まるが、高笑いのスワン・ザ・レインボー自身は、ゴージャスさに皆見惚れていると思っている。
「スワン・ザ・レインボーのファイトスタイルは、『軽身功』利用のルチャに近いスピーディーで身軽なファイト。華麗で派手が信条で、力押しは好みではありません」
 学人の解説も、あえて衣装には触れない。
「敵役さんにはタコ超人さんがいらっしゃるのだ……黎明華はパラミタ大王イカよりも『ひゃっはあ!』な、『キマク女王イカス娘』だから、たこVSいかの海鮮バトルなのだ〜!」
 と、オクトパスマンに挑んだ黎明華は、序盤、相手の技を受けまくっている。
「黎明華の綺麗な受身!」
 海の家を破壊したり、観客に怪我をさせるのは黎明華の本意ではない。細心の注意を払いつつも、受身は大きく派手に、「伝わり易いプロレス」を心がけている。
 魔法少女ろざりぃぬは、常に笑顔を振りまいてるので、一見そうは見えないが、魔法少女ろざりぃぬは、シャンバラ維新軍のレスラーで、しかもヒール。表立って反則などはしないが、結託した相手も平気で裏切ったり、狡賢く立ち回る彼女の合言葉は「ズルして騙して頂き」だ。
 今日は、試合開始後から、積極的にバトルには関与せず、観察するように立ち回り、気が向いたら、ドロップキックやエルボー等の小技でちょっかいを繰り返している。
「こちらも、相手の技を、積極的に受けている魔法少女ろざりぃぬですが……」
「他の選手の体力が落ちるのを待っているようですね」
 プロレスにおいて、技を受ける技術は重要だ。
 ただ単に強く、勝てるだけのレスラーは良いレスラーとは言えない。
 怪我を負わない負わさせない、相手の技を綺麗に見せる。
 受けて勝つ、それが真のプロレスラーなのだ。
「おや、キャプテン・ニューシャンバラ、何をするつもりでしょう?」
「あれは……カニですね。ハサミを使うようです」
 キャプテン・ニューシャンバラは、浜で捕まえてきたカニのハサミで、シュバルツ、オクトパスマンら男性選手の乳首を挟ませはじめた。
「これは痛い! キャプテン・ニューシャンバラの残虐ファイトだ!」
「なんてことを……」
 と、貴仁が、戦きながら呟く。
 レフェリーの黒羽が、さらにオクトパスマンの乳首を狙うキャプテン・ニューシャンバラを引きはがし、リングに落ちたカニを拾い集めた。
「カニさん、カニさん、逃げちゃだめだよ……」
 キャプテン・ニューシャンバラは、この隙に、海の家「うさうさ」のカレーを選手、スタッフ、観客問わずに無差別に食べさせ、ダメージを与えようとしたが……。
「うまい! うまいぞ、このカレー!」
「期待していたダメージは与えられなかったようです。この『海鮮激辛うささんカレー』はおすすめですね」
 おいしくなったカレーで皆を元気にしてしまった。
 そして、混戦が続き、中盤。
 プロレスラーたちの体力が再び削れてきた、と見た魔法少女ろざりぃぬは、ろざりぃぬスタイル爆発!
「組まない? フォールは譲るよ」
「魔法少女ろざりぃぬがスワン・ザ・レインボーに声をかけた、ふたりでシュバルツを攻撃だ! 出たあ、必殺技、スワン・ダイブ・ボム!」
「コーナーポストからの飛び打撃攻撃ですね」
 しかし、ここでパイプ椅子を持ち出したろざりぃぬが、スワン・ザ・レインボーとシュバルツを攻撃。
「弱った所につけこむ魔法少女ろざりぃぬ、まさに外道!」
「まさに、ろざりぃぬスタイルですね」
 不意をつかれたスワン・ザ・レインボーに、ろざりぃぬが、さらにたたみ掛ける。
「決まりました、魔法少女ろざりぃぬのマジカル☆スリーアミーゴス!」
「3回連続での連続式高速ブレーンバスターです。投げた後、自分の腰を上げ横に捻ることで、次の投げの体勢へ移行する難しい技ですが、見事に成功させました」
 試合はもつれたまま終盤へ。
 シュバルツにブレーンバスターを仕掛けたキャプテン・ニューシャンバラが、フロントネックロックの体勢でいったん技を止めて、そのままの状態で、マイクを手にする。
「お集まりの皆さま、本日はSWRin海の家『うさうさ』にお出でくださいまして、誠にありがとうございました! 今回ご協力いただきましたこの海の家『うさうさ』、そして私共SWAを、今後ともよろしくお願いします! それでは最後になりましたが、海の家『うさうさ』の益々の繁栄を祈願しまして……ブレーン・バスター!!」
 観衆にアピールしてから技を出そうとしたキャプテン・ニューシャンバラだったが……、
「シュバルツ・ランプンマンテル、返した、ブレーンバスターを返しました!」
 逆にブレーンバスターで投げられ、会場の壁に激突、破壊してしまった。
「破壊なくして創造なし!」
 言い訳になっていない言い訳を叫ぶキャプテン・ニューシャンバラに、レフェリーの黒羽が、負けを宣告する。
 客席の貴仁は、秘かに近くに潜ませていた「ヒーロー派遣会社パラミタヒーローズ」の社員の施工管理技工を電話で呼び寄せた。
 彼の目的は、プロレスの観戦だけでなく、会社のPRでもあったのだ。
 あっという間に駆けつけ、みるみる壁を直す施工管理技工に、会場から感嘆の声が飛ぶ。
「困った時に早くて頼りになる! 流石、パラミタヒーローズだ!」
 さて、リング上では。
「ケケケ……なかなかやるようだな。だがこれはどうかな? 『悪魔忍術墨隠れ』ーっ!!」
 「隠形の術」を使ったオクトパスマンが、墨を霧状に撒き散らし、漆黒の闇の中に姿を消そうとしていた。
「スミスミーッ! そして闇の中から『テンタクルスティンガー』による『ブラインドナイブス』だーっ! とどめの時間だぜ〜最後の一撃を見舞ってやるぜ……ケケケーッ!」
 視界を遮る墨がリングを覆う中、ろざりぃぬとシュバルツが続けざまに倒される。
 しかし。
「……ひゃっはあっ!」
「おおっと、ここで黎明華の反撃開始!」
「何時までもやられてばかりではいけませんから」
「攻撃の隙を縫ったカウンターのヒップアタックを、オクトパスマンの顔面に喰らわせる〜!」
 黎明華は、ふらつきながら、リングの外に逃げたオクトパスマンを追い、会場の入り口付近にボディスラムで叩きつけた。
「黎明華、今度は、屋根に飛び乗ったぞ。さあ、何をするつもりでしょう〜?」
「これは……前方2回転ダイブ式ヒップアタックですね」
 最後まで立っていた黎明華の右手を、黒羽が高々と上げる。
「勝利のカレーを皆で一緒に味わうのだ〜!」
 黎明華の優勝宣言に、観客たちの拍手と歓声が飛び交った。