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リアクション
「イカとタコが手に入りましたわうさ。これで、海鮮カレーにできますわうさ」
「ちょっと待って!」
カレーの鍋に、ゲットしたばかりの食材を投げ込もうとしたうさこに、抱きついて止めたのは、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)。見た目は幼女だが、学生証も持っている高校生カレー職人だ。
「それが噂の、いまいちなカレーなのですね」
「噂通り、色も香りもいまいち」
「『一度食べたら、二度と食べなくていいカレー』って、ご近所でも評判だよ!」
次々とうさこに抱きついたのは、舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)、ディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)、シンク・カルムキャッセ(しんく・かるむきゃっせ)。
「ギクッ! で、でも、海の家のカレーなんて、たぶん、こんなものですわうさ」
4人にもふもふされながら、言い訳しようとしたうさこだったが……。
「カレー屋として、マズいカレーだけは、絶対に許せないんだから! いまいちをデリシャスにしてやろうじゃないの!」
カレー好きなネージュの迫力に、たじたじと引き下がるしかなかった。
「まずいカレーじゃ、集客どころの騒ぎじゃないよね! だから、あたしは、ヴァイシャリーで趣味でやってるカレー屋から、ホールスパイスと携帯ミル、調合済みのカレー粉と、ガラムマサラを持ってきた。本気のカレーを作るよ!」
「は……はい、お願いしますうさ……」
「まかせて! その為に、わざわざ、スパイシーで辛いカレーが得意なマイナちゃん誘ったんだし。マイナちゃん、シンク、ディア! おいしいカレーで、集客するよっ!」
「お母さんのカレーで、ボクだって育ってきたんだ。お母さんのお手伝いだって、出来るってとこ、証明するよ!」
全員でキッチンを整理整頓したら、まずは、基本のルゥ作り。
「海の家だから、シーフードカレーにあわせたルゥにするよ」
特製の調合済みカレールゥをベースに、すぐに飛んでしまうスパイスの香味を、持参のミルで轢いて、すぐに入れることで確保。
続いて、辛いものが苦手なネージュの代わりに、辛口以上のスパイスの追加調整を行うのは、舞衣奈の仕事だ。
基本のルゥを半分とりわけ、ピリッとした真夏の太陽のイメージになるよう、粉砕ガーリック、粒コショウ、パラミタブートアップジョロキアを配合する。
「極度なオーバーキルではなく、ボッ!と瞬時に突き抜ける、癖になる辛さを目指すのですよ」
舞衣奈は、ネージュの基本のルゥを、さらに刺激的に拡張していった。じっくり焙煎した香草と激辛唐辛子を粉砕追加したルゥの辛さは、じわじわ持続せず、口に含んだ時のみ強く感じ、すぐに抜けていくことだろう。
そして、ここで加えられるのは、ディアーヌの隠し味。
「思わずドキドキ、ゲンキになっちゃう花妖精の花粉を、ぽぽぽん」
さらにもうひとつ。
「ほんのりとした気分になれる料理酒に、ラベンダーの花を漬け込んだ香味エッセンスを、ぽぽぽん」
基本のルゥも辛口ルゥも、さらに複雑な味わいに仕上がった。
大きさを揃えて切り分けた具材をまとめて、コトコト煮込むのは、鍋担当のシンク。
未来の世界で、母であるネージュの背中を見て、見よう見まねでカレー作りを覚えたシンクは、今回、鍋担当。お客さんやみんなの笑顔のため頑張ろうと、張り切っている。
「火加減に気をつけなきゃ。お母さん特製のスパイスを台無しにしたくないもんね」
ゆっくりとかき混ぜているうちに、鍋からは、素晴らしく刺激的な香りが立ち上りはじめた。
「良い香りじゃのう。海の家といえば、やはり、カレーじゃな」
漂うスパイスの芳香に、ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が、感心している。
うさぎたちが困っているという話を聞いてやってきたものの、連れのウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)は、浮き輪がなければ絶対に水に近づかないカナヅチだし、自分やギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)は戦闘面では状況的に不利。というわけで、今日は、海の家「うさうさ」のスタッフとして働くつもりだ。
「たしかに、美味そうな匂いだけど、メニューがひとつだけじゃ、海の家、意味ねぇから! 焼きそばとか色々ねぇとおかしいから!」
ウォーレンがわめいているうちに、退治されたパラミタ大王イカとパラミタ大タコが運ばれてきた。
「イカもタコも、立派なものじゃのう」
「おーおーすげぇな。こりゃぁ、海鮮パーティでもするか? 追加メニューは、海鮮焼きそばに海鮮バーベキューで決まりだな!」
ギャドルが「火術」で炎を呼び出す。
戦いたい意欲は誰よりもあったのに、ルファンとウォーレンに言いくるめられて、モンスター討伐に加わることはできなかった。たとえ、一日中コンロとして使われたとしても平気なくらい、まだまだ、体力はあり余っている。
「エコロジーじゃな。ガス代を節約できるのう」
「……初めからそのつもりで連れてきたのか?」
「ち、ちがうって。用心棒だよ、用心棒。変な奴がお客さんにちょっかい出してきたら、遠慮なくぶっ飛ばしてくれ」
「用心棒か……悪くないな」
要するに、コンロ兼用心棒なのだが、ギャドルは、またもや上手く言いくるめられてしまった。
「うささん……♪ 可愛い……もふもふ……うささん……」
ネーブル・スノーレイン(ねーぶる・すのーれいん)は、ゆる族3人に、順番にぎゅうっと抱きつき、うっとりしている。
「お嬢様、さあ、記念の写真撮影を!」
シュガー・ヴィネガー(しゅがー・う゛ぃねがー)がカメラを構え、4人でにっこり……したが、ドジっ子メイドのカメラは、なぜか全く反応しない。
「え、あの、その……」
「かっぱ!」
カッパ姿のゆる族、鬼龍院 画太郎(きりゅういん・がたろう)が、横から手助けして、ようやくパチリ。もう一枚、ポーズを変えてパチリ。
「みんな一緒に……撮りたいな……」
シュガーにねだられ、最後はセルフタイマーでパチリ。
「うささん、大好き……お土産のうさグッズ……全部欲しいな……でも、その前に、うささんたち、助けてあげたい……」
ネーブルは、海の家「うさうさ」を見回した。
屋内と屋外の両方にセットされた木製の椅子は、白いペンキが塗られ、テーブルには、ギンガムチェックのテーブルクロスがかかっている。
「あの……あのね? 海の家……すごく素敵だけど……もっと素敵にしたいと思うんだぁ……」
「うさうさ」の内装は、うさぎたちにぴったりだ。でも……、
「ちょっと……ご飯工夫してみようって……思うんだけど……どうかな? えっと……えっとね? カレーライス……なんだけどね? ニンニクと漢方薬をほんのちょっと入れると……美味しくなるよ♪ えっとね……インドではカレーって薬膳料理でね……? 漢方薬の成分のほとんどが……カレーのスパイスだからなんだって。カレーは、もう完成したみたい……だから……薬味にニンニクと漢方薬……用意するね」
「ニンニクと漢方薬……おいしそうだな……うさ」
「後は……カレーライスを盛り付ける時に……ちょっと工夫してね……? お皿に、うさぎさんの形にご飯を盛って、周りにカレールーを入れて……うささんカレーにしたらどうかな?」
「うささんカレー、素敵ですわうさ!」
「目の部分は……プチトマトで。首元に……ハムで蝶ネクタイを作って。これを……売りにしたらどうかなぁ……?」
「かわいいうささんカレーは、かわいいオレたちにぴったりだうさっ!」
うさぎたちは、ネーブルが作った「うささんカレー」の試作品に夢中になった。
「お嬢様が、この海の家をもり立てたいと言うのであれば、それを叶えてあげるのが、メイドとしての務めですわ♪」
シュガーは嬉しそうにそう言ったが、ニンニクを刻みはじめたネーブルに、
「では、わたくしも、お嬢様のお手伝いを……」
と、近づこうとした途端。
ガラガラガッシャン!
重ねてあった薬味皿の倒壊を引き起こして……、
「……ご、ごめんなさいですわ?……」
落ち込むシュガーの耳に、ネーブルの呟きが聞こえる。
「あとは……これだけじゃ、やっぱり味に飽きちゃう人も居るだろうから……あるもので作れそうな物を作ってみようかな……」
「で、では……わたくし、外で獲物を仕留めてきますわ」
表に飛び出したシュガーは、「超感覚」で耳を研ぎ澄ませ、「サバイバル」で、空の鳥を、カーマインで撃ち抜いた。
ダーンッ!
「できましわ♪ これで鶏肉が手に入りましたわ!」
落ちてきた鳥を受け止め、得意になって戻ってきたが、ふと、自分の手をみると……、
「血だらけ!? ……ち、違う……わたくしもっと清楚に美しいメイドになりたかったのに……」
なりたい自分とは違った方向に成長しつつあることに、今更ながら落ち込んでしまう。
画太郎は、そんなシュガーの肩を、ポンポンと慰めるように叩いた。
「かっぱー!」
画太郎が、きりっとした顔で、巻物にしたためたのは……、
『ネーブルお嬢さんが、うささんの海の家をもり立てたいなら、河童であり執事である俺の出番ですね。材料を集めてくるので、待っていて下さい』
「わ……わたくしも行きますわ! たくさん鳥をしとめて来ます!」
そう言って、また飛び出していこうとするシュガーを止めたのは、バーベキューの支度をしていたウォーレンだった。
「焼き鳥なら、もう売ってるぜ!」
「なんですって……」
シュガーの目に飛び込んできたのは、華麗にフラメンコを踊りながら、焼き鳥を焼くリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)。
客の注文を受けてから、お肉、野菜、魚介類を串で刺し、塩とコショウをかけ、「爆炎波」と「パイロキネシス」を使用して焼くその一連の動作が、フラメンコの中に組み込まれている。
「ありがとうございました♪」
一礼する笑顔も、ハイヒールの似合う足も美しく、早くも、男性客たちが群がりはじめている。
「あんな風になれたら……」
リアトリスの性別が男と気付かないシュガーは、ため息をつくばかり。
「というわけで、鳥はいいから、ヤキソバに使うアサリを掘ってきてくれないかな」
カッパはともかく、メイドの方は放っておくと何が壊れるかわからない……そう考えたウォーレンの作戦で、ルファン、画太郎、シュガーの3人は、砂浜へと向かった。
「……あ、カレーや、カレーの匂いや。美味そうやけど、食いにいくの面倒臭いな……金もあらへんし……」
砂浜に座ったまま、もう一時間近く動いていない瀬山 裕輝(せやま・ひろき)が、ぼんやりと呟いた。
「カレーが好きなのか?」
渡辺 綱(わたなべの・つな)が尋ねるが、説明したくないので、聞こえなかったフリをする。
とにかく気怠い。
目の保養がほしくてやってきた6月の海。
さすがに水着はいないだろうと思っていたが、パラミタ大王イカとパラミタ大タコのおかげで、触手プレイまで堪能できた。
「理解できぬな、華々しい戦闘に加わらず、このような場所で無聊を託つとは……」
武術的知識はあるので、接近戦に参加すればそこそこの働きができただろうが、裕輝は、あえて戦わぬことを選んだ。
「オレなぁ……海水とか皮膚に滲みるからあんま海で泳ぐの好きやないんよぉ……」
綱が、呆れたような目で見ているが、馬鹿に何を思われようが構わない。
「金が足りぬなら、私が魚を釣ろう。カレーと交換すれば良い」
「なんや、清盛ちゃんと釣り仲間になりたいんか?」
「清盛? 誰だそれは」
「ああ、時代がちがうか」
綱は岩場へと向かい、ひとり残された裕輝は、戯れに砂を掘ってみたり。
「おお、アサリじゃな」
そんな裕輝に声をかけてきたのは、ルファン、画太郎、シュガーの一行。
「アサリです、アサリがいっぱいです!」
「かっぱ!」
「ほう……そなたは、アサリ掘りの名人か?」
「別に、そんなんやあらへん」
「そのアサリ、譲ってはくれまいか?」
「譲ってやってもええけど、金と交換やぞ」
「金か……そうだ、そなた、わしとともに、土産物の細工を手伝え」
「はあ?」
「そういえば、ウォーレンが、『うさぎのぬいぐるみに、もう一工夫ほしい』と言っていた。金になるぞ」
「いや、金になる言うても、オレ、そういうの面倒やし……」
「可愛いうささん……助けてあげたいですよね」
「かっぱー!」
「わたしたちと一緒に、海の家をもり立てましょう!」
「え? あれ、ちょっと……」
抗議も空しく、裕輝はアサリごと、海の家へと運ばれていった。
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