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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

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 同時刻 迅竜 カタパルト
 
「ターボファンエンジンは四基とも異常なし。いきなり飛ばして行くか?」
 カタパルトに立つ禽竜。
 そのサブパイロットシートに座る強盗 ヘル(ごうとう・へる)はメインパイロットシートの相棒――ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)に問いかけた。
「ええ――なにせ、僕達は一刻も早くあの場所に辿り着く必要がある。イルミンスールをこれ以上やらせる訳にはいきませんし、あそこにはアーデルさんがいるんですから」
 躊躇なく答えるザカコ。
 ヘルはそれを予想していたようで、打てば響くように告げる。
「だと思ったぜ。だから、暖機も済ませておいた。それに禽竜なら他の連中に先んじて出た方が早い。迅竜に乗って戦場に到達するよりも、な」
「ヘル……」
「そういうわけだ。とっとと行こうぜ?」
「ありがとう――」
 そこで二人はともに一旦口を噤む。
 僅かな沈黙の中で目配せする二人。
 ややあって、ザカコはシートに座り直す。
 操縦桿も握り直し、ペダルに足もかけ直す。
 
 そして深呼吸するザカコ。
 深呼吸を終え、ザカコは見開いた目でモニターに映る風景を見渡す。
 眼前に一面の雲海、眼下に一面の樹海。
 禽竜の首を動かし、メインカメラをイルミンスール魔法学校の方へと向けたザカコ。
 すると丁度良いタイミングでウィンドウがポップアップする。
 
 ウィンドウに映るのはブリッジでオペレーターを務める女性――水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)だ。
『カタパルト推力正常。進路クリア――発進どうぞ』
 彼女の映るものに続いて、また新たなウィンドウがポップアップした。
 今度は金色のショートヘアをした若い女性が映っている。
 
「艦長」
 咄嗟にザカコはカメラ越しに目線を合わせる。
 睡蓮に次いで通信を送ってきたのは、艦長のルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
『アーデルハイドやエリザベートを、お願い!』
 冷静に振舞おうと努めてはいるが、ルカルカには所々感情が垣間見える。
 エリザベート達はルカルカの友人である。
 だからこそ、心配でならないのだろう。
 そしてエリザベート達が大切なのは、ザカコも同じだ。

 ルカルカの気持ちを察してか、ザカコは殊更堂々と答えた。
「勿論です」
 カメラ越しに睡蓮とルカルカに敬礼するザカコ。
 そして彼は雄叫びを上げるように宣言した。
「ザカコ・グーメル、禽竜で出ます!」
 雄叫びの如し声とともに禽竜を固定したレールが凄まじい勢いで走り出す。
 カタパルトの突端まで一気に移動すると同時、禽竜の足部を固定するパーツが開放される。
 禽竜が射出されるのに合わせて、ザカコはペダルを大きく踏み込んだ。
 それを受けて禽竜は背負ったターボファンエンジンを凄まじいパワーで吹かす。
 
「ぅ……ぐ……ぅぅ……っ!」
 ターボファンエンジンが点火された瞬間、ザカコの身体に凄まじいGがかかる。
 コクピットに蒼き涙の秘石を設置して体内へのダメージを抑えている他、数々の回復手段を用意しているザカコ。
 そのおかげでGによる肉体の損傷は回復する。
 ただし、回復したそばから再び強烈なGで損傷する彼の肉体。
 そのせいで、ザカコは文字通り身を斬られるような目を見る。
 だがそれでも、ザカコは更にペダルを踏み込むことを止めなかった。
 
 ペダルを踏み込んだ瞬間、禽竜は更に加速する。
 既に信じられないほどの速度で飛んでいるにも関わらず、禽竜はまだまだ平然と加速していく。
 とっくに迅竜は振り切り、もう遥か彼方の後方だ。
 超弩級の称号に恥じぬ巨大な艦体ですら、もはや豆粒ほどにしか見えない。
 
「ヘル……」
 歯を食いしばりながらサブパイロットシートを見やるザカコ。
 目に映るのは、やはり強烈なGに身を斬られているヘルの姿だ。
 咄嗟にザカコは操縦桿を動かし、禽竜のスピードを落とそうとする。
 だが、それを見て取ったヘルが制止の声を上げた。
「俺に構うことはねえ……全力で飛ばせ……!」
 互いに頷き合うヘルとザカコ。
 そして、ザカコはペダルを更に踏み込んだ。