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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 
パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~  パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

リアクション

 三階・夜炎鏡の間


「あははは! またおめーらか!」
 蓋を蹴りあげて、夜炎鏡が棺から飛び出した。空中でくるくると宙返りする彼女の両手では、チェーンソーが轟音をあげている。
「夜炎鏡さん。殺しあう前に、ひとつ確認したいことがございます」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が戦闘の構えをとりながらつづける。
「“殺す事”が楽しいのであれば。――貴女は“殺される事”も楽しいのでしょうか?」
「……そんなこと、考えたことなかったな」
 夜炎鏡が、めぐりの悪い頭を働かせて考えこんでいた。
「そっか……。あたいが殺されるっていうオチもあるわけか。なるほどなぁ……。うん。あんた賢いな!」
 彼女はニカッと笑うと、チェーンソーをフレンディスに向ける。
「自分が殺されるかもしれないと思ったら、よけい楽しくなったぜ! あはははは!」

 ジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)は迷っていた。殺すことしか知らない夜炎鏡と戦うべきは、自分なのではないかと。
 そんなジブリールの迷いを察したベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が、首を横に振った。
「ここはフレイに任せるんだ」
「……オレも子供だから、偉そうには言えないけどさ。夜炎鏡みたいな何もわからない子にいろいろと教えたいよ」
「その必要はないだろうな」
 ベルクが向けた視線の先では、すでにふたりの死闘がはじまっている。
「夜炎鏡はもう知っちまったんだ。最高の友達(殺し相手)ってやつをな」



――ふたりの攻防は長くつづいていた。
 だが。
 決着の時は、一瞬だった。
 わずかに体勢を崩したフレンディスへ、夜炎鏡がチェーンソーを振り下ろす。
「あははは! ミンチにしてやんよー!」
 殺戮の興奮で生じた微かな隙。その刹那ともいえる刻のなかで、フレンディスは鉤爪を貫いていた。
「が……は……っ」
 左胸を抉(えぐ)られた夜炎鏡がどろりと血を吐く。
――疾い。
 命を掠め取る瞬間、フレンディスに躊躇はなかった。彼女の前においては殺しの興奮さえ遅れをとる。

「な……なんだこれ……。これが死ってやつか?」
 穿たれた左胸をおさえながら、夜炎鏡は仰向けにぶっ倒れた。
「おいおい、こんなの初めてだぜ……。あはは! なんだか、今まででいちばん生きてるって感じがするぞ……」
 鉤爪から血を滴らせるフレンディスを見上げて、夜炎鏡はニッコリと破顔した。
「あんた……フレイとかっていったよな」
「はい」
「フレイと殺し合うために、あたいは生まれてきたのかもしれねぇな」
「――別の出会い方はできなかったのでしょうか?」
「あはは! 辛気くせー顔すんなよ! これでよかったんだ。フレイのおかげで、殺されることを死ぬまで楽しめた! あたいはフレイと最高のかたちで出会えたと思うぜ……。あははははは! あはははは! あはは……」
 夜炎鏡は、最後まで笑いながら息絶えた。


 大量の返り血を浴びたフレンディスのもとへ、ジブリールが歩み寄る。
「フレンディスさん……」
 ジブリールの声には憂いが込められていた。本人が望んだとはいえ、殺し以外の可能性を与えられなかった。自分はただ戦いを見守ることしかできずに――。
 落ち込むパートナーを宥めるように、フレンディスは優しく告げる。
「ジブリールさんが気に病むことはありません。手を汚すのは、私の役目ですから」
「……そんなことない」
「駄目ですよ。私と約束したではないですか。もう、殺しはしないって」
「違うんだっ! そういうじゃなくって……」
 ジブリールは跪くと、鮮血に濡れるフレンディスの手を強く握りしめた。まるで祈りを捧げるようにしてジブリールは言う。
「フレンディスさんの手は、汚れてなんかいない。……いつだって綺麗だよ」