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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 
パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~  パラミタ・イヤー・ゼロ ~愛音羽編~ 

リアクション

「ごちゃごちゃと、わけのわからないことを抜かしてんじゃねぇ!」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)が【神速】で零に駆けつけた。
「遺伝子操作に改造実験、あげくにゃ自分の遺伝子を練りこんだ生物の品種改良……どんだけナルシストだ、てめぇは!」
「私はナルシストなのではない。正確に言えばナショナリストなのだ。人としての共同体に、私は憂いているのだよ」
「またそうやってわけのわからねぇことを……。たしかにあんたは、技術も規模も資金も備えて、自分の野望を実現しつつあるんだろう。けど……やろうとしている事は、子供の夢想と何が違う?」
「ふん。ヒーローごっこしている奴に言われたかないな」
「――そうさ。我がやってるのはヒーローごっこさ」
 拳を握りしめて、巽は告げる。
「ごっこ遊びで結構なんだよ、八紘零。ヒーローなんてのはTVかショーの中だけで十分だ。だから……悪の親玉が起こす惨劇だって、現実に必要ない」
 変身ベルトを壊され、生身のままで、巽は啖呵を切った。
「これ以上の惨劇は実現させやしない! お前の夢も野望も……ごっこ遊びで終わらせてやる!」

「お前の野望とやらは実に幼稚だ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が零に向けて吐き捨てた。彼の発言には本音も多分に含まれていたが、なにより挑発して零の目的を自供させるのが狙いであった。
「そうだよ! 大勢を犠牲にしてまで……そんなの絶対おかしいよ!」
 しかし正義に対して純情なルカは、すっかり義憤に駆られていた。
 この期に及んでも、零はあくまで契約者たちを睥睨(へいげい)している。
「貴様らもやがては気づくことになるだろう。パラミタのイヤーゼロ(紀元)は私のうちにあると」
「ふざけないで! パラミタの歴史は、誰かが独り占めしていいものじゃないんだから!」
 ルカが両の拳で、結界を力まかせに叩く。

「――御託は聞き飽きたわ、八紘零」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の声は、絶対零度よりも冷たかった。
 彼女は昏く澱んだ瞳で、零を凝視している。
「うふふふふ……。それにしても原子力発電所だなんてずいぶん素敵なものを造るじゃない。あんたのことだもの、どうせわざと放射線が漏れ出るようにして大好きな人体実験をしているんでしょう。うふふふふふ……。本当、素敵すぎて反吐が出るわ」
 ときおり狂気じみた笑い声をあげるセレンたが、彼女の瞳には、憎悪や殺意といったものだけが込められていた。
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は胸が張り裂けそうになる。最愛の恋人がこれ以上、壊れていくのを見たくない。その一心でついてきた彼女の目の前には、恋人を狂気に陥れた張本人がいる。
「……セレンをこんな目にあわせた、八紘零……。私はお前を……絶対に許さない!」
 セレアナはついに、これまで押さえつけていた怒りを爆発させた。

 その時だ。
 零を覆っていた結界が、あとかたもなく霧消したのだ。
 五階にいる神崎 荒神(かんざき・こうじん)らの活躍によって、ついに、レイゲノムの結界が解呪された。
「右手は目の前です! 行きましょう、団長!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、鋭峰との連携スキル【ロイヤルドラゴン】を放った。
 鋭峰が気迫を竜の如く飛ばす時、ルカはそれに乗る竜騎士となる。
 惨劇の元凶ともいえる赫空の掌を前にして。ルカは、鋭峰と戦える喜びに、内なる心を震わせていた。
――団長と共に戦える事が嬉しい。
 お役に立てること。
 傍らで戦えること。
 そして、共に往くこと……。
「三本とも、まとめて一刀両断よっ!」
 ルカの放った一閃が、ついに赫空の掌を捉えた――。
 ように、見えた。
 
 しかしながら。あと一本の右手――天殉血剣の分だけが、ルカの剣戟を弾き返していた。
 二階にいた匿名四天王の設置したバリアが、発動したのである。

 ギフトの腕が一本でも残れば、儀式は続行され、やがてはアトラスの上空を血で浸すだろう。
 契約者たちは思わず絶句する。
 ここまで来て、間に合わないのか……。
「フハハハ!」
 不吉な想いを振り払うように、最上階のフロアには聞き慣れたドクター・ハデス(どくたー・はです)の笑い声が響き渡った。
「我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポ……ゴフゥッ!」
 口上が長すぎて彼は血ヘドを吐いた。ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)によって刺された傷が悪化したようだ。
 ハデスのアナウンスを、怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)が引き継く。
「発電所に仕掛けられたトラップは、僕たちオリュンポスがすべて解除した!」