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【四州島記 外伝】 ~ひとひらの花に、『希望』を乗せて~

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【四州島記 外伝】 ~ひとひらの花に、『希望』を乗せて~

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第七章  〜 シラミネイワカズラ 〜

 一般参加者が、ミヤマヒメユキソウ目指し登山を続けている頃。
 日下部 社(くさかべ・やしろ)率いるシラミネイワカズラ捜索隊の面々は、皆一様に渋い顔をしながら、休憩を取っていた。
 シラミネイワカズラが、見つからないのだ。

 地上調査を始める前に、及川 翠(おいかわ・みどり)徳永 瑠璃(とくなが・るり)が数日かけて上空から偵察を行い、シラミネイワカズラの生息に適した「風があまり強くなくて、水はけの良くない、半日陰のような岩場」場所をピックアップしていた。
 その全てをまわったにもかからず、見つからないのである。

 【人の心、草の心】を持ち、植物と意思疎通が出来るエースは、見かけた植物に片っ端から話しかけてみたが、近くにシラミネイワカズラがあるという話は一度も聞く事が出来なかった。
 この辺りにシラミネイワカズラが生えていたことは、パートナーのメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が【サイコメトリ】で確認済みだ。

(これだけ探しても見つからないんだ。何か、オレたちの探し方に問題があるに違いない)

 エースは、手の中のコーヒーをじっと見つめながら、そう考えていた。

「ちょっと聞きたいんだが……。みんな、どんな風に探してたんだ?」
「オレは、虫を使って探してたんや」

 真っ先に口を開いたのは、日下部 社(くさかべ・やしろ)だ。

「虫は、花に集まるやろ?だから、この辺りの羽虫やらなんやらを【毒虫の群れ】で呼び寄せて、虫の行く所をオレとオリバーで探してみたんや」

 オリバーというのは、社の彼女の五月葉 終夏(さつきば・おりが)の事である。

「花はそのものは結構見つかるんですが、シラミネイワカズラの条件に合う、『黄色い小さな花』が見つから無くて……」

 終夏が、申し訳なさそうに言った。

「あたしたちは、レイカに【ダウジング】してもらったり、《賢狼》やら《オルトロスジュニア》に探させたり――」

 クリスチャン・ローゼンクロイツ(くりすちゃん・ろーぜんくろいつ)が一つ、二つと指を折って数える。

「あ、あとはカガミが【式神の術】で《女王土偶》を操ったりしたよな?」
「いや、アレは数えなくていい。まるで役に立たなかった」

 名前を挙げられたのが恥ずかしい、とでも言うように、カガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)は手をブンブン振って否定する。

「私のダウジングにも、まるで反応がありませんでした」

 レイカ・スオウ(れいか・すおう)などはすっかり意気消沈してしまっており、見ていて痛々しくなるほどだ。
 それもそのはず、シラミネイワカズラは、彼女の恋人カガミの病を治すの必要な薬草でもあるのだ。
 落ち込むのももっともといえる。


「私もレイカさんと同じ様にダウジングしてたけど、やっぱり反応なかったな〜」
「私の勘も外れまくりでした……」

 及川 翠(おいかわ・みどり)徳永 瑠璃(とくなが・るり)が、溜息混じりに言う。
 瑠璃の場合は、勘というよりほとんど当てずっぽうに近いのだが。


「あたしは、特別なコトは何も出来ないからな……。ひたすら探して歩ってるだけだよ」

 泉 椿(いずみ・つばき)が、悔しそうに言う。
 御上を誰よりも慕っている椿には、(絶対にシラミネイワカズラを手に入れて、御上先生を助けるんだ!)という強い想いがある。
 その想いの強さ故に、自分が何の役にも立てないことの悔しさもまた、人一倍強いのだ。 


「終夏さんの言う通り、花は色々見ましたが、小さくて黄色い花はありませんでしたね」

 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)はそう言って肩を竦める。

 実のところ優梨子は、シラミネイワカズラよりも、白峰信仰に関する遺構や遺物の方をより熱心に探していたフシがある。

(早くを見つけださないと……。万が一にも忘れてしまったらコトですわ……)

 彼女としては、一刻も早くシラミネイワカズラを見つけ出して、【記憶術】で記憶した諸々を【ソートグラフィー】で念写したくてしょうが無いのだ。


「そういえば、僕とプリムラの聞き込みでも、今年はシラミネイワカズラをまだ見ていないと聞きました」

 矢野 佑一(やの・ゆういち)プリムラ・モデスタ(ぷりむら・もですた)もまた、植物と心を通わすことが出来る。

「今年は……ってコトは、やっぱりここにはあるはずなんだよな……」

 うーん、と考えこむエース。

(『今年は……』か。いつもの年と気温に差があるのか?)

「そうそう、何故かミヤマヒメユキソウが見つかってさ〜」
「見つかって欲しいのは、ミヤマヒメユキソウじゃなくて、シラミネイワカズラなんですけどね」

 東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)がボヤく。

「ちょっと待ってくれ!ミヤマヒメユキソウが見つかったのか?」
「う、うん。そうだけど……」
「それが、どうかしましたか?エースさん」

 いきなり大声を出したエースに、驚く秋日子とキルティス。

「そうだ!こんな基本的なコトを忘れているなんて……オレは間抜けにも程がある!今年は、気温が高いんだ!」
「気温が高いって……。そうか!」
「そうだ、メシエ。幾ら花を探しても無駄なんだ。なにせ、花はもう終わってるんだからな」
「花はもうみんな散った後かいな……。そりゃ、いくら虫を飛ばしても見つからんはずや」
「私も、ダウジングの時に『本草秘経』で見た花ばかり思い浮かべてました」

 エースに言われ、社やレイカを始めとするその場の全員が「ああ〜」という顔をする。

「よし、みんな。もう一度探し直しだ。これからは花じゃなくて、蔦の方を探してくれ」
「でもエース。蔦の生えてる草なんて、結構いっぱいあったぜ。正直、見分けがつく自信がねぇよ」

 不安そうに言う椿。

「確かに、花と違って蔦や葉は見分けるのが難しい。本草秘経の絵も、お世辞にも上手いとは言えないしな。だから、少しでも迷ったらオレを呼んでくれ。判断が難しいヤツは、みんなオレが同定する」
「では、こうしましょう。これから、エースと私は同定作業に専念します。皆さんは、少しでも怪しいと思う蔦を見つけたら、私たちの所まで持って来て下さい」

 エースの話を受け、メシエが言った。

「オレたちが抜ける分、みんなの負担は増えるが、結果的にその方が早いはずだ。なんとしても、今日中に見つけだしたい。みんな、よろしく頼む」

 エースの言葉に、皆は一斉に作業に取り掛かる。
 

「……よし、間違いない。やったな椿!間違いなく、本物のシラミネイワカズラだ!」
「ほ、ホントか……?」
「やったやないか、椿!」
「おめでとう、椿さん!」
「社、終夏……」
「やったね椿さん!これで、御上君助かるよ!」
「キルティス……。そうだな……。これで、先生を助けられるぜ……」

(これで、これで大丈夫だ……。父ちゃんの時みたいに、先生がいなくなることはないんだ……!)

 シラミネイワカズラをギュッ、と胸に抱きしめる椿。

「レイカ、カガミ。椿の話によると、君たちが必要なとする量も充分にあるみたいだ。良かったな」

 もしシラミネイワカズラが見つかっても、御上の分しか無かったらどうしようかと、内心心配していた二人は、ホッとした表情を浮かべた。


 そしてここにも、シラミネイワカズラ発見の報に安堵する者が一人――。

(良かった……。これで、御上先生は助かる……。後は、私が『想いの白雪』を最後まで勤めあげるだけ――)

 円華は、今まさに東の空から登らんとする月に、決意を新たにするのだった。




「申し上げます、景継様。金鷲党によるハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の呪詛は、失敗した由にございます」
「やはり無理か。大人しく、ワシの言う事を聞いておれば良い物を」

 三田村 掌玄(みたむら・しょうげん)の報告に、由比 景継(ゆい・かげつぐ)は眉一つ動かさずに言った。
 金鷲党の術者による【呪詛】は、東 朱鷺(あずま・とき)の張り巡らした【結界】に、防がれたのだった。

「金鷲党の者にとっては、ハイナは恨み連なる怨敵。我慢出来ぬのも無理からぬかと」
「まぁお陰で、敵の力量の程が分かった。やはり高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)の成功は、奇襲なればこそ、か」
「左様で」
「して、玄秀はいかがした」
「未だ、動きを見せておりませぬ」
「ふん。勿体ぶりおって……。まぁいい。掌幻、ワシもそろそろ出るぞ」
「畏まりました」

 景継は、掌幻を伴い部屋を出て行った。
 目指すは、白峰である。