リアクション
〇 〇 〇 南塔到着後直ぐに、エイボンの書とアリアクルスイドは医薬品とシーツを持って、別邸へと向っていった。事前に涼介と連絡が取れており、エイボンの書が持ってきた空飛ぶ箒を使えば、僅か数分で着ける場所、危険も今はあまりないと分かっていた。 ヴァル達は後発組みの安全を確保するため、南塔に残って物資の整理を行いつつ、周囲に警戒を払っていた。 南塔にもまだ少し人員は残っていた。 「お疲れ様です」 キリカはまず、彼らにティータイムとナーシングを施す。 そして彼らから彼ら視点の現在の状況を聞いたのだった。 ……皆さほど詳しい事情は知らないようだ。 転送の成功には誰もが強い喜びを見せていた。 「来てくれてありがとう。私も少しほっとした」 迎えに来ていた琳 鳳明(りん・ほうめい)とヴァル達は合流を果たす。 持って来た食糧、救護器具、大型通信機のうち、通信機は地上とは繋がらなかった。かなり距離があり閉ざされた空間であることから、ヴァイシャリーの通信機での通信は難しいようだった。 また、ソフィアが放った電波も電波を妨害するものではなく、機械類そのものを狂わせる、失われた古代の技術による妨害であったことから、精密で高性能であればあるほど、影響を受けてしまう可能性がある。現代の技術や個人の能力では太刀打ちできない。 「しばらく時間あるっスから、先に荷物運ぶっスね?」 シグノーがヴァルに確認をとる。 超感覚や殺気看破で周囲を探ってみるが、今のところこの辺りには敵の気配はない。 西塔に残っていた者に頼んで本陣のある別邸へ連絡を入れてもらったところ、即物資を運び入れて防衛を手伝ってほしいという連絡が届く。 後発組み到着まではかなり時間があり、後発組みは人数も多く、戦力的にも十分な為護衛はいらないと神楽崎優子は判断したらしい。 「やはりかなり緊迫した状況のようだな。急いで物資を運び、別邸側から迎え入れ態勢を作るぞ」 ヴァルはそう言って、荷物を背負っていく。 「ボク達地上から訪れた者が顔を出すことが、皆の励みになるでしょう。ティータイムやナーシングで少しでも和ませて、混乱を抑えていきたいものです」 キリカはそう言い、救護用具、飲食物を台車に乗せていく。 そして、ヴァル達は南塔に残っていた鳳明の案内を受けて、別邸へ向うのだった。 「地下水路みたいに臭くないのが救いっスね」 シグノーがそう呟いた。 明かりは灯っているが、不気味さを感じる空間だった。 ヴァルは周囲を見回しながら、思いを馳せる。 離宮を浮上させたら、ヴァイシャリーの一部が破壊される。 そうなれば民は不幸になるだろう。それは阻止しなければならないとヴァルは思っていた。 しかし、再封印をするとなると、レイルや6騎士……もしくは、女王の血を受け継いでいる誰かが長い時を眠らなければならない。 (誰かの犠牲の上に立つことは、終わりにしたい。綺麗事かもしれないが、物分かりのいい諦め顔はもう、たくさんだ) 強く拳を握り締めた。 だから、離宮はいっそ破壊してしまいたい。 そんな強い思いを抱いていく。 おそらくそれは、ヴァルだけではなく、多くの者もそう思っているだろう。 離宮を破壊し、浮上もさせない、その方法があるのなら――。 ヴァルが別邸に到着した時には、別邸北側はすでに交戦状態にあった。 先に訪れたキメラは無事討伐できていたが、その後に続く光条兵器使いに別邸の存在が気付かれ、遠距離攻撃を加えられていた。 別邸前に指揮官の指示によりある程度の防衛線が展開されていたため、知能が低いとはいえ光条兵器使いにも、多勢に無勢であると見て理解が出来ているらしく、今はまだ近づいてはこない。 「エメから連絡にゃう」 宮殿地下にいるエメのパートナーアレクスが神楽崎優子に近づく。 「騎士ジュリオが襲い掛かってきたにゃう。封印の玉は手に入れたにゃうけど、どうするにゃう?」 アレクスは宮殿地下メンバーの置かれている状況について優子に説明し、指示を求める。 「ジュリオ・ルリマーレンの封印は子孫でも解除できると思われる。封印の石を死守しここに持ち帰ってくれ。敵の本格的な攻撃が行われる前の帰還が望ましい。ジュリオの対処はメンバー達の判断に任せる」 言って、優子は通信機で、主に隊長の刀真に向けて、宮殿地下の状況と地下に行ったメンバーの居場所について説明をする。 それから彼らの帰還の援護と、別邸前の防衛の指揮をとる者について検討をする。 「ティリアをもう少し休ませたい。誰か現場の指揮をとってくれ。適任者がいないのなら私が……」 しかし、指示を出していた神楽崎優子は、突如言葉を切り壁に手をついた。 「……っ」 何かに耐えるように目を強く閉じ、拳を握り締めていく優子の様子に、護衛の為に側にいたミューレリアが逸早く気付き、手を伸ばす。 「どうした? どこか痛むのか!?」 倒れそうな優子を支えながら、ミューレリアは問いかける。 「悪い……多分、パートナーに何かあった……」 苦しげに言う優子をミューレリアは壁に凭れさせながら座らせる。 「治療を……いや、治療をしなきゃなんないのは、パートナーの方か」 「大丈夫……座っていても、指示は出せる。この部屋には、あまり人を入れないでくれ。もし、私が意識を失うようなことがあったら……統括は、ティリアに任せる」 優子は気丈に意識を保ちながらそう言う。だが、酷いめまいに目もまともに開けてはいられず、携帯電話を取り出す力さえ、無かった。 この時、神楽崎優子のパートナーアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は、命に関わる深手を負っていた。 離宮が緊迫した状況にあることから、地上との連絡は他の者に任せ、優子はアレナに連絡をとっていなかった。 百合園側の事情を知る者からの連絡も、届いてはいなかった。 〇 〇 〇 東塔付近の戦いは熾烈を極めていたが、多くの敵を集めることに成功していた。 その他の敵は北塔へ向っており、使用人居住区には殆ど人型兵器は残っていなかった。 尋人と雷號は東塔の戦いに加勢できないことに心を痛めつつも、数名の軍人と共に南側から使用人居住区へと近づき、囲いを飛び越えて中へ潜入した。 そして身を隠しながら集会所にたどり着き、再び地下へと下りたのだった。 地下でまたしばらく様子を伺い、気配を探って、敵の姿がない時に地下道に走り出て北方面の近くの部屋へと入り込む。 慎重に足を進めて、例の……光条兵器使いと思われる男性達が眠っていた部屋に到着するが、その部屋にはもう誰の姿も無かった。 尋人達は更に北に向かってみる。同じような部屋があるのなら、今度こそ破壊をと考えて。 「うっ」 「あっ」 鍵のかかっていない部屋のドアを開けた直後に、人間の姿を目にし、尋人と雷號は後方へ飛んだ――が、それは自分達と同じように、地下を探索していた美央とジョセフだった。顔も合わせたこともあり、通信機で互いの行動を把握していたため、間違って攻撃したりせずに済んだ。 「何か分かった?」 小さな声で尋人が美央に尋ねる。 美央はこくりと頷いて、不安気な目を見せた。 「北塔に人造兵器が集まっていましたが、地下にそれ以上の人造人間が存在しています。出撃を待つかのように地下の大広間に集まっています」 「この地下道を通って移動して、集まったみたいダネ。皆移動した後だったから、ミー達は隠れて移動してここまでこれたヨ」 美央とジョセフがそう説明をする。 「そこの場所、教えてくれる? 爆薬を持ってきている」 尋人が尋ね、美央は不安気ながらも首を縦に振る。 「尋人、やれることには限界がある。なにもかもすぐに全てできるとは考えるな」 急ごうとする尋人に雷號がそう話していく。 「……ただその時点でできることや、次にやれそうなことを想定しながら動く事で……やれることは広がるはず」 「そう、だね。でも今優先すべきは爆破だよね?」 尋人の言葉に、雷號は眉を寄せる。 そうなのだが。それは非常に危険でもある。 だが、機を逃せば、二度と行えないことになってしまう。 「行きましょう。危険、ですけれど」 「ミーはあまり行きたくないんですけどネー」 美央とジョセフを先頭に北へと一行は進む。 |
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