リアクション
〇 〇 〇 「百合園の学院内にもキメラが来る可能性があります」 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は状況の説明をしながら、負傷者を集めてリカバリで全体を癒していく。 「校庭の地下辺りに離宮の南塔があるようです。封印が解除されている場所ですので、この辺りから敵もキメラを転送させようと考える可能性もあります。防衛に回れる方は、よろしくお願いします!」 本部の手も足りないが、資料運びや治療は戦闘能力のない百合園生でも行える。 戦う能力のある者には、防衛に出てほしいとノアは呼びかけて回るのだった。 「春佳さん、大丈夫ですかっ!」 学院に駆けつけた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、生徒会長の伊藤 春佳(いとう・はるか)を見つけてパートナーの七瀬 巡(ななせ・めぐる)と一緒に駆け寄った。 会議を行っていた本部メンバー達は皆酷い火傷を負っており、春佳もそれは同様だった。 「直ぐ治しますからね」 歩は何度もヒールをかけて、春佳を癒していく。 「ありがとう、凄く楽になったわ……」 廊下の壁にもたれながら、春佳は大きく息をついた。 「これからは絶対守りますから!」 「大丈夫、ボクたちに任せてよ!」 歩と巡の言葉に、春佳は弱い笑みを浮かべて頷いた。 「油断しすぎてしまいました。他にも仕事が色々あって……なんて、言い訳になりませんね」 そう言って、春佳は立ち上がる。 歩は春佳に肩を貸した。 「どうしてこんなことになったのですか? 皆は百合園の生徒の暴走だと言っていますが……」 不安気な目で、歩は春佳に尋ねた。 「連絡係を務めてた……クリスさん。多分彼女は鏖殺寺院関係者だから、皆にも気をつけてもらってね」 春佳は悲しそうな目でそう言った。 「連絡係のクリスさんが? ……友達のはずだったのにどうして」 歩は深く考え込む。 「友達が……敵かも……」 巡は殺気看破を使って周囲に警戒をする。 本部であった部屋は、消火は済んでいるものの、5分の4ほど焼けてしまっている。資料や備品はほぼ焼失。集めてあった物資はある程度無事だったようだ。 「危険ですから、春佳さんもパートナーと一緒に行動された方がいいかもしれませんね」 「そうね……」 春佳のパートナーは無口な守護天使の少女だ。 生徒会メンバー以外には心を許していないため、こういう場にはあまり同席することはない。 春佳は白百合会本部のメンバーや白百合団の団長、桜谷鈴子とも親しくしているのだが、皆別件で忙しくしており、春佳の周りは手薄になっていた。 「と言っても、私はさほど重要な役割を担っていないから、大丈夫よ。他の方を助けてあげて。ありがとう」 そう微笑んだ後、春佳は百合園生を呼び集める。 「テーブルと椅子を運んで下さい。筆記具とメモ用紙も沢山用意して」 そして、焼けたてしまった本部の隣室に新たな本部を作るための指揮をとっていく。 「それじゃ、あたしはミクルちゃんの様子見てきますね」 精神力が尽きていた歩は、ミクルのことを思い出し、春佳にそう言った。 「ミクルにーちゃんも守らなきゃな!」 巡もうんうんと頷く。 「よろしくね」 「はい」 春佳に歩はぺこりと頭を下げて、巡と共にヴァイシャリー家に戻るのだった。 「ノート型パソコン持ってきましたわ」 ブネ・ビメ(ぶね・びめ)がノート型パソコンを抱えて本部となる部屋へ入ってくる。 「ありがとうございます、ここにおいて下さい」 オレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)が、焼けたパソコンを操作しながら、パートナーのブネに指示を出した。 「痛み止めも持ってきましたけれど、お使いになりますか?」 「大丈夫です。治療していただきましたから」 「他に何か必要なものはありますか?」 ブネの問いに手を休めることなく考え、オレグはこう答える。 「……紅茶をお願いします。お茶を楽しむ時間はないかもしれませんが、心は涼やかでありたいですから」 「わかりましたわ」 言って、ブネはお茶を淹れるために百合園生に給湯室へ案内してもらう。 「かなり状態は悪いですが、データを移動していきます」 焼けたパソコンは電源は入るものの、僅か数分で強制的に電源が落ちてしまう。 動作も遅く、作業はなかなか進まない。 オレグはノート型パソコンと接続をしてデータを移動を試みていく。 1分1秒でも早く復旧できるよう精を尽くしていく。……敬愛するラズィーヤの為にも。 「春佳さん、こちらをお願いします」 今必要なデータはプリントアウトして、春佳や集まっていく本部役員に預ける。 自分自身は一時もパソコンから離れず、セキュリティにも気を配っておく。 「鳳明は、女王器を持って、無事神楽崎優子さんと合流を果たしたようです」 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)が、そう報告をしながら、椅子に腰掛ける。 セラフィーナは火傷を負ってからも、何度もパートナーの鳳明へ電話をかけて、離宮のことを案じていた。 繋がるようになってからも、心配させないために自分の状態のことは一切語らず、鳳明から状況を聞きだしては皆にこうして報告をしていた。 「転送を急いでもらいましょう」 春佳も腰掛けつつ、ラズィーヤに電話をかける。 「皆さん大変な状態ではありますが、席に着ける方は着いてください。会議を始めます」 副本部長の神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)がそう言い、ばたばたと皆が席につき、会議が再開される。 エレンも、集まった者のうち被害に遭った者達の多くも、服も髪も乱れた状態だったがそんなことを気にしている余裕はなかった。 クリスが犯行に及んでから、かなりの時間が流れている。 「この状況は襲撃のチャンスでもあるのう。気は抜けんの」 フィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)はエレンの隣に腰掛けながら、殺気看破で警戒を払っておく。身体を休めつつも警戒しておくことくらいはできる。 「軍人の運用に関しましては、仮本部の方でご検討くださったようですから、それ以外の件について話し合っていきましょう。まずは転送のことですわね」 そう言いながら、エレンはパソコンの操作をしていく。 機晶姫のプロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)が記録していたデータをまとめながらの会議進行だ。 「また襲われる可能性は十分ある。自分の身は自分で守らねばな」 プロクルはそう言いながら、武具を持って会議に参加をする。 そしてメモリープロジェクターに残る映像を投影して皆への資料とする。 「そっちのパソコンからだも引き出せるようにするのである」 プロクルが言い、エレンはオレグのノート型パソコンと自分が用意したパソコンを繋いでリンクをさせる。 「離宮へラズィーヤさんの弟さんが向われるという話ですが、その件について相談したいことがあります」 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が手を上げる。 「お願いします」 春佳の言葉をうけて、ソアは意見を述べ始める。 「レイルさんはまだ7歳だと聞きました。まずは、彼の女王器を扱わせることにどれだけのメリットがあるのかを検討するべきだと思います」 そしてソアはセラフィーナに目を向ける。 「女王器について詳しく教えていただけますでしょうか?」 セラフィーナが頷いて話し始める。 「女王器は現在、離宮の別邸にあるとのことです。魔法考古学者の方の説明によると、魔法を増幅させる効果のあるロッドのようだとのことです。他にも効果がある可能性はありますが、現場にいる者達にはわからないようです」 「魔法を増幅……」 ソアは少し考えた後、こう言う。 「それを利用して、離宮と地上との転送術の強化を試みてはどうでしょうか!? 転送にかかるコストの問題を、転送魔法自体を強化することによって解決できれば、多くの人数と物資の転送が可能になり、非常に有益なはずです」 「なるほど……良案だと思います。ただ、彼にそれを成功させることが出来るかどうかというとかなり危ういとは思いますけれどね」 春佳がそう答える。 レイルは魔法はまだ学び始めたばかりだとという。武術のたしなみもまだない。 「扱えるかどうか試してみる価値はあると思いますので、護衛をつけてレイルさんを離宮に転送してみてはどうかと思います」 そうは言いつつも、ソアとしてはレイルや転送術者を危険に巻き込みたくはないという気持ちも強かった。 だけれど、状況を好転させなければ、きっと多くの命が失われるから……。 「私も一緒に行きます。全力を尽くしますので、皆さんどうか力を貸してください」 ソアの言葉に、春佳や本部のメンバー達が強い頷きを見せていく。 「俺様も勿論、ご主人と一緒に行くぜ。他に行ってくれる奴はいるか?」 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がそう言うと、沢山の手が挙がる。 |
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