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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

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「軍人配置だが……」
 続いて、レンは真菜華がおいていったメモに目を通す。
 天音からの提案として、
・西、南、東に各50
・北に50&北西の検問に100
・中央の時計塔に200
 もしくは、
・塔に各40
・残り40を遊撃隊とする
 と、2案出ていた。
 レンは予備軍人の必要性を考え、後者を押す。
 ヴァイシャリーの各地区の高い建物に配置し、キメラの動向を双眼鏡で確認させることを提案する。
 特に反対意見はなく、軍人の配置については、各塔に40。検問に100、中央に200と決定される。
 また、天音からは、私服や学生服などに着替え、契約者のふりをしてはどうかとの案も出ており、それはそのままラズィーヤ経由で軍人に伝えることとなった。ただ、準備や統率の関係もあり少し難しいだろう。
「写真貰ってきたよ! 沢山コピー取ったから配ってね」
 真菜華が大量に刷ったクリスの写真を手に仮本部へと戻ってくる。
 それだけではなく、彼女は沢山の仲間をも連れていた。
「パートナーと連絡が取れなくなったことで、駆けつけてくれた人達だよ。やっぱり全員連絡繋がらないんだって」
 真菜華の後から、救護班班長宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)のパートナー、セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)
 攻略隊隊長樹月 刀真(きづき・とうま)のパートナー玉藻 前(たまもの・まえ)が入ってくる。
 その後から、前に同行して百合園を訪れた閃崎 静麻(せんざき・しずま)とパートナーレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が入ってくる。
「こちらで待機しております」
「治療手伝ってるね」
 静麻のパートナーのうち、クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)閃崎 魅音(せんざき・みおん)は部屋には入らず廊下で負傷者の治療などをして待つ。 
「で、状況は?」
 静麻は部屋に入ると、樹月刀真の知り合いであることを説明。更に蒼空学園の生徒手帳を見せて会議へ加わっていく。
 レイナは紙と筆記具を借りると、書記の役割を担っていく。
 静麻はこれまでに出ていた軍人の配備などの案を聞いた後、自分の見解を述べていく。
「検問に引っかかったキメラだが、囮と推測される。本部爆破の件と合わせて、敵の目的は本部の目が他に向いている間に、離宮へのキメラ輸送をする手はずなんだろう」
 緊急的状況に、静麻は早口になりながら続ける。
「輸送手段で早い空輸でキメラを一部または全て運ぶと思われる。敵拠点かもしれない宮殿に一番近い転送箇所に配置する軍人を避難誘導に必要最小限だけ残して、上空から見えないように伏せて奇襲してはどうかと思う」
「んー。マナカはこういうこと詳しくないからよくわからないけど、まだ本部の手続きも済んでいない人の推測じゃ決められないと思う。検問は元々行われる予定はなかったのに、白百合団の人が提案してくれたお陰で臨時に行われて、キメラが乗っていることが分かったんだって聞いてる。キメラを運ぶための大型の飛空艇とかなんて、所有していたら目立つと思うけど、そんな話聞いたこともないし、飛んでくるんだとしたら、休憩が必要になると思うし大型船に乗せて川を下ってきた方が早いと思うよ」
 真菜華が眉を寄せて考えながら、そう言う。
 本部の仕事にずっと従事していた役員はおらず、この場でその推測が正しいのか、案が良案なのか判断できる者はいなかった。
 軍人配備はラズィーヤの側で資料の閲覧を続け、意見を出し続けてきた天音の案が優先される。
「それじゃ、配備はそのようにしてもらって、ヴァイシャリー軍の武装だが、接武器から射撃武器に変更し、契約者の戦闘支援を行えるようにしてもらえないか」
「うん、ラズィーヤ様に話しておくね」
 真菜華は報告事項として静麻の言葉をメモにとっていく。
「それから転送についても、少し意見を出させてもらう」
 静麻は以下2点の提案を行う。
・物資及び人員をある程度絞り込んで転送を可能な限り早期に行う事、必要なら重傷者を担架等で転送場所に運び、協力して貰う
・転送物資の再チェック案が出た場合はすぐに送る必要のある物資からチェックし転送出来るよう準備も並行
「こっちは本部へ提案出しておくね。無事だった物資の移動なども今行ってるところだから。どれだけ送れるのかも確認してからじゃないとわからないし」
 転送にはまだ時間がかかりそうだった。
「動ける者は動いた方がいいよな」
 言って、静麻は立ち上がる。
「俺は軍人に同行して、キメラ討伐に向う。ラズィーヤ・ヴァイシャリーに連絡を入れてもらえるだろうか?」
「うん、話しておく。まずはヴァイシャリー家に向って」
 真菜華はそう答えるとラズィーヤに電話をかける。
「パートナー達には上空からの監視も行わせる予定だ。随時こちらに連絡を入れる」
 言って、静麻は本部用の携帯電話の番号を控えるとパートナー達と足早に出て行った。
「あ、繋がりましたわ」
 直後、電話をかけていた阿国の耳に、コール音が届く。
 その言葉を聞き、急ぎ集まった者達も離宮にいるパートナーに電話をかけていく。
「……出ませんわね」
 阿国のパートナーの大地は電話に出なかった。出れる状況ではないらしい。
「千歳は東の塔にいるようですわ。かなり厳しい状況のようです」
 イルマは千歳と会話をしながら、そう報告し、更に紙に大まかな離宮の地図を書き出して千歳が把握している東塔付近の状況を記入していく。
「祥子お姉さまは、指揮官の神楽崎優子さんと一緒に、救護所のある別邸に向っているそうです」
 ほっとした表情でセリエが言う。
 本陣を別邸に移動することになったことなど、別邸、本陣に関係する情報が飛び込んでくる。
「こちらの状況も伝えなければなるまいな」
 ランスロットが代わり本部に炎が放たれたこと、治療と復旧作業が行われていることなどを祥子に伝えていく。
「録音機があったら、貸してくれ。携帯の録音機能ではそう長時間録音できなんからな」
 前は少し不機嫌そう言う。
 繋がった途端、前は刀真に文句を言おうとしたのだが、それよりも早く相手から「スピーカーに切り替えろ」との有無を言わさぬ言葉が飛んできたのだ。
 携帯をハンズフリー、スピーカーに切り替えて、前に出す。
 更に録音もしておく。
『樹月刀真です。攻略隊を率いて、現在宮殿の時計塔最上部にいます。軽く傷を負った者はいますが、こちらは大きな問題は起きていません。ただ、使用人居住区側の戦況はかなり悪いようです』
 刀真から彼が把握している離宮の状況が皆に伝えられていく。
「こっちはヴァイシャリーにキメラが現れて大変なの! ラズィーヤ様が離宮に送るつもりかもって言ってたから注意して!」
 真菜華は身を乗り出して前の持つ携帯電話に叫び、状況を説明していくのだった。

〇     〇     〇


 ヴァイシャリー家で話を聞いて直ぐ、緋桜 ケイ(ひおう・けい)は「ミクルのことを頼みます」とラズィーヤに頭を下げ、屋敷を飛び出した。
 本部も非常に気がかりだが、ケイが向った先は地下に離宮の中心部があると思われる運河だ。
 飛行系のキメラがこちらに向っているという話だが、どこを目指しているのかは解らない。ならば、転送場所の1つであり、中心でもあるここから護ろうと考えた。
「警備兵の姿はあるが、配備などはまだまだ出来ておらぬようだの」
 共に訪れた悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が鋭い目で周囲を見回す。
 百合園生達が周辺住民に避難を呼びかけている。
 避難命令の放送も流れ始めた。
 しかし、目に見える危機が迫っていないせいだろう。
 人々は準備、用意、建物の補強を続ける者が多く、避難はなかなか進まないようだった。
「さっさと家の中に入って鍵をかけとけ。外に出てると危ないから」
「店も閉めて、帰った帰った」
 避難を呼びかけ続ける百合園生に紛れて、ダサいヒーローのきぐるみ姿の八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)アン・ボニー(あん・ぼにー)も、建物を回っていた。
 屋上に上って空を見る者、好奇心から道路に出て写真や録画をしていく者なども多い。
 そんな人々の避難を誘導するふりをしながら、優子とアンは人々の様子を見て回る。
「こんな時に撮影? 度胸あると言うかバカというか」
「ちょっと鞄の中みせてもらおうか」
「な、なんだよ!?」
 ビデオカメラをセットしている青年に近づいて、優子とアンは強引に鞄の中や身体をチェックしていく。
「写真マニアか……。とにかく逃げとけ!」
 怪しい物の発見には至らず、優子は青年を解放する。
 そうして、逃げようとしない人物を探してキメラ対策に関する何らかのアイテムなどを持っていないかどうか探し回っているのだが……2人きりでの数時間、数日の捜索では見付かりそうもなかった。