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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

リアクション

「やばいじゃん!」
 壁を通り抜けた途端、イーディが声を上げる。
 魔法陣の先は、地下道だった。
 通ってきた地下道と同じ造りだ。
 ただ、自分達が通った時とは違い、地下道にはあの生物――光条兵器使いが溢れていた。
 魔道生物の姿も見られる。
 通り抜けた壁には、魔法陣は描かれていない。側には梯子があり、地上へ続いているようだ。
「違和感の感じる造りだと思わないか?」
 グレイスが唸り声を上げながら言った。
 道はここで行き止まりになっている。
 反対側に続いている道は、十字路になっており、おそらく南へ向うと通ってきた道へと出るものと思われる。
 北に向えば使用人居住区の方へと出るのだろう。
「真っ直ぐ行った先の突き当たりにも梯子があるのでしょうか? 宮殿の中に出そうですよね」
 フィルがそう言った。
「その行き止まりの壁もどこかの部屋と繋がってるのかもな。魔法陣描かれてなければ一方通行?」
 ウィルネストがグレイスに問う。
「いや、壁の反対側に描かれていれば、通過できると思う」
「行ってみよう、大丈夫だと思う」
 アリアがこちらに気付いた敵を見据えて言う。
「出来る限り情報を持ち帰りたいです」
 フィルも武器を手に言った。
「交戦の準備は出来ています。十分切り抜けられるでしょう」
「頼むよ」
 ステラが言い、グレイスが首を縦に振る。
「じゃ、進むか!」
 ウィルネストが言い、進み始める。
 敵のことは十分解っている。
「では、目的地は真正面突き当たりとします。道を空けさせます」
 ステラが言い、イルマ、陳到が前へと進む。
「通してもらうじゃん」
 イーディは両手のハンドガンのトリガーをひき、光条兵器使いの手を撃ち抜いていく。
 接近と攻撃を受けた途端、光条兵器使い達も次々に光条兵器を取り出して、攻撃を繰り出し始める。
「出来れば大人しくしていてもらいたいんだが」
 十字路に出たイルマは北側に立つ。直後、石像がハンマーを振り下ろしてくる。
「その身体、砕かせてもらう!」
 イルマはソニックブレードで、石像の攻撃より早く、石像の胴体を破壊する。
 続いて光条兵器使いの光の槍がイルマの脇腹を切り裂く。即座に、イルマは剣を叩き下ろし、光条兵器使いの腕を斬り落とした。
「困難な状況が続きますな」
 陳到は南側へと躍り出る。
 防御体勢ととり、皆を守りながら薙刀を振るっていく。
「倒す、倒す、倒す」
 単語を呟きながら、光条兵器使いもまた、武器を突き出していく。
「倒されるわけにはいきませぬ」
 光条兵器を持つ手を貫いて、一旦引いた薙刀を再び繰り出して敵の腹を貫く。
「罠などはないか!?」
「石像系以外は、見当たらないじゃん」
 景戒の問いに、イーディが捜索し、そう答える。
「燃えそうなものもないし、火術を使うのだわ。イルミンの教授は一気に駆け抜けるのじゃ!」
 景戒は後方から火術を放ち、前方の敵を退かせる。
「真っ直ぐ行くじゃん!」
 まずイーディが突破をする。
「先生、ついてきてください」
 続いて、フィルがスナイパーライフルで、迫る光条兵器使いを撃ちながら走る。
「行きますよ」
「走り抜けるぜ。その先も地獄かもしんねぇけどな」
 ステラ、ウィルネストがグレイスに気を配り、守りながら、共に走り抜ける。
「通してもらうじゃん」
 十字路の先に入り込んでいた敵を鬼眼で一瞬怯ませて、イーディは足を撃ち抜いた。
 続いてフィルが銃で光条兵器を破壊する。
 倒れている光条兵器使いの脇をグレイスを囲みながらステラとウィルネストが慎重に通り抜けて、走る。
 その先は来た道と同じように行き止まりで、やはり梯子があった。
「上を調べてみるじゃん」
 イーディが梯子を上って、ピッキングで天井の鍵を開錠する。そろりと蓋を上げて見回してみる。
「……うん、宮殿の中みたいじゃん」
 とりあえず、蓋を閉じて下りてくる。
「壁の先、行けるんなら行くべきだけど、深入りしすぎて脱出できなくなったらヤバイからな」
「様子を見ていただき、危険がないようなら先に進みましょう」
 ウィルネスト、ステラがそう言い、頷いてグレイスは壁に手を当てた。
 やはり、反対側に魔法陣があるらしく壁に手が吸い込まれていく。
 フィルはグレイスに付き添い、一緒に壁を途中まで通過し、先の部屋を覗き見た。
 直後に、2人は戻ってくる。
「研究室のような部屋だ。進もう」
 グレイスがそう言い、皆頷き合う。
「振り切ってこっちに来るのじゃ! 先に進むのだわ」
 景戒がステラと陳到の声をかける。
 2人が武器を振るって敵を振りほどき、こちらに駆け込み合流した直後、皆で壁を通過し先の部屋へと進んだ。
 薄暗い部屋をライトで照らす。
 その部屋には大きな水槽がいくつも置かれていた。
 中には合成生物のような生き物が入っている。
「2つのものを掛け合わせて何かを作り出す装置、か?」
 グレイスが眉を寄せる。
「気持ちのいい話じゃねぇな」
 ウィルネストはこれまでのことを通信機で指揮官に報告をした。

〇     〇     〇


 宮殿時計塔の解放班は、地下に向うメンバーを送り出した後、塔へ続く扉を閉ざして最上部に集まり、相談を行っていた。
 その最中に。神楽崎優子から全体への通信として、地上に人造兵器がまだ眠っているという情報を掴んだことと、敵がテレポートで援軍を送る可能性があるという連絡が届く。
 すでに通信機は正常になっており、地上にいるパートナーからの連絡も届くようになっていた。
 攻略隊の隊長である樹月 刀真(きづき・とうま)の元にも、パートナーの玉藻 前(たまもの・まえ)からの連絡が届いていた。刀真は電話を切らずに、ハンズリー状態で胸ポケットにしまっておく。
「地下へ向った方々は大丈夫でしょうか」
 影野 陽太(かげの・ようた)は、精神状態を落ち着かせながら、銃を構えて緊急時にはいつでも狙撃が行えるよう備えておく。
「今のうちに、現在の戦力を把握し、戦闘時の連携が取りやすくなるよう隊列などを決めておきましょう」
 中原 鞆絵(なかはら・ともえ)がそう提案をし、それぞれの武具の状態やスキルなどを確認していく。
 バランスは良いのだが、鞆絵としてはパートナーのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の性格に不安を感じていた。
 何か変な行動に出たりしなければいいが……。
「屋上から非常階段に出られるようだ」
「宮殿の北側に出られるみたい。そちらには敵は集まってないよ」
 時計塔にかけられていた梯子を下りて屋上を見回っていたクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が塔へと戻ってくる。
「宮殿内に入る別の入り口もあるけれど、その先には光条兵器使いが溢れてるだろうね」
 クリスティーが更にそう付け加えた。
「地下に向ったメンバーだけで騎士の解放が行えそうならば、私とパートーは今最も状況の悪い北に向かおうと思うのだけれど」
 リカインが刀真に問う。
「そうですね。通信機からの情報によるとどうやら北に兵器が集中しているようですし。宮殿の調査より今は兵器の殲滅を優先した方がいいでしょう」
 刀真はそう答えて、指揮官に確認を取る。
 ――指揮官の意見は解放班は解放を最優先に動いてほしく、宮殿の調査を行う余裕はもうないだろうとのことだった。戦力的に余裕がるのなら早急に北の援護に向ってほしいそうだ。
「リカさん……」
 鞆絵は大きく息をつく。あえて危険な場所に踏み込もうとするリカインが心配で仕方が無い。
「しかし……」
 刀真が眉を寄せながら言葉を発する。
「彼らがソフィアは倒さないと言葉を発していた以上、命令としてそう刷り込まれている可能性が高いでしょうね」
「ソフィアが敵である可能性が高いと?」
 クリストファーの言葉に、刀真が頷いた。
 その時。
 離宮に設置されていたスピーカーから声が響いてきた
「えぇっと、マイクはいってる? てすてすー、あー、あー」
 それは少女の声だった。焦りのない穏やかな口調だ。
「えーっと今から諸事情により、通信機器使えるようになったんで、放送させてもらうよー、ボクはこれからソフィアくんについていくことにした。詳しいことはソフィアくんから聞いてね」
 声の主が誰であるか、わかる者は少なかった。
 しかし、通信機を所持し、ある程度の情報を得ている者はそれが、ソフィアとパートナー契約を結んだ、桐生 円(きりゅう・まどか)の声であること解る。
「キィィ!」
「ギャーギャー!」
 続いて、奇声に気付いて窓から上空を見上げる。
 空に怪鳥……いや、キメラが居た。
 キメラよりも上に変わった形の空飛艇も浮かんでいる。
 その後に再び、放送が流れる。
「宮殿の時計塔をご覧下さい」
 ソフィア・フリークスの声だ。
「あの生物は、私達が誘った合成生物です。この離宮にはシャンバラ古王国時代の技術が眠っており、それ以上の生物を作り出すことも用意に出来ます。倒しても滅しても戦いに終わりはありません。皆様の命には終わりがありますのに」
 冷静な声だった。
「私は兵器を相応しい者に渡すために、離宮に来ました。そして、邪魔となるあなた方を離宮に閉じ込めるために。降伏は認めません。ですが、同志とは共に地上に戻り、新しいヴァイシャリーを築いていきたいと思っています。まずはあなたが私の同志であることを証明してみせて下さい」
 言葉は滑らかに紡がれ、離宮という閉ざされた空間に響き渡っていく。
「疲弊しきったヴァイシャリーには皆様全員を短期間で地上に戻す手段はありません。ですが、離宮を浮上させようとはしていません。皆様は見捨てられようとしています」
 途端、各方面から通信機へのアクセスがある。
 通信機を持っている者は僅か数十人だが、皆混乱しているようだった。
 周囲に広がっていく混乱が手に取るようにわかる。 
 瞬時に、刀真も割り込むように通信に入り込む。
「狼狽えるな! 転送なら地上本部で転送術者を確保している、俺達がここで頑張っているように地上の奴らが頑張っている事を忘れるな!」
 続いて、バスタードソードを手に、窓から身を乗り出す。
「地上と周りにいる仲間と自分を信じて突き進め、俺達は必ず帰れる!」
 上空を飛ぶ、キメラにアルティマ・トゥーレを放ち、羽を凍らせる。
 キメラが1匹、屋上へと落ちてくる。
「援護します」
 陽太が窓から銃を落ちたキメラに向けて、その足を撃ちぬいた。
「この程度の宣告で折れると思っている奴らの鼻をあかしてやろうぜ?」
 刀真は梯子に手をかけて、飛ぶように下りていきキメラの元に飛び、その首にバスタードソードを叩き込んだ。
 続いて、通信機から東塔にいる永谷の声が流れてくる。
「俺の手元には、地図データがある。これを解析すれば、地上へ帰るルートも、きっと見つかるぜ。だから、心配しなくても大丈夫」
 更に、神楽崎優子の声が続く。
「両名の言う通りだ。敵が援軍を送り込むというのなら、ヴァイシャリーもまた援軍を送ってくれるだろう。確かに直ぐに全員で戻る手段はないかもしれない。だが、最初から我等の役目は離宮に眠る兵器を破壊し、地上を守ることでありそれに何も変わりはない。この場を切り抜けること、それ以外に生還の方法はない」
「わかったなら返事をしろ、不安があるならそれを吹き飛ばす為にこの時計塔に聞こえる程の大声でな!」
 刀真が剣を振るいながら大声を上げる。
 通信機はまだ混乱しているようだ。
 だが、それは悪い意味の混乱ではなく、我先に鬨の声を上げるための回線の混乱のようだ。
 隊長、班長から現場の隊員達に通信機の言葉が大声で隊員達に語られていく。

 先に通信の回復の連絡もいっていたことから、大きな混乱は起きなかった。