天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

リアクション公開中!

嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

リアクション


〇     〇     〇


 使用人居住区へは東と西の塔からごく僅かに援軍は派遣されるも、厳しい状態が続いていた。
 救護班の治療を受けて直ぐ、隊長の風見瑠奈(かざみ・るな)は前線に戻る。
「代わるから退いて」
 負傷している数少ない契約者に瑠奈は指示を出す。
「隊全体を東塔まで下がらせよう」
 魔道生物と交戦しながら大岡 永谷(おおおか・とと)がそう提案をする。
「遅くなった、すまない! オレも同意見だ。東塔の奴等にも話してある」
 そう言い、魔道生物に駆け込み、一撃を食らわせたのは集会所から生還した国頭 武尊(くにがみ・たける)だった。
「けど、東塔に全てひきつけるのは無理よ。南方面に進行されてしまう」
「別邸に本陣が移動されるって話だし、多少討ちもらしても大丈夫だろう。余裕がある者を遊ばせておく必要もない」
 言って、武尊は瑠奈に目を向ける。
「前に神楽崎にも言ったが、痛い事や苦しい事を引き受けるためにオレは離宮に来たんだ。殿はオレが引き受けるから、君はヴァイシャリー軍と共に塔まで引いてくれ」
「他校生のあなた達ばかりに無理させるわけには行かないわ。……でも、今はお願いする」
 ごく僅かに笑みを見せてそう言い、瑠奈は東の塔まで退くように皆に指示を出す。
 軍人達が銃を撃ちながら、下がっていき、契約者が続く。風見は武尊達に任せてその後に続き、永谷が防御体勢を整えながら、敵の前に立ち、味方全体を広く守っていく。
「……こんな面倒な事に巻き込んで悪かったな」
 武尊はシャープシュータで敵の足を狙いながら、パートナーのシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)にそう声をかけた。
「私は武尊さんを信じています。だから武尊さんも私を信じ、思い切り戦ってください」
 そう優しく、しっかりした声が返ってくる。
 そして、シーリルは適者生存で、敵の動きを鈍らせる。
 軽く頷いた後、武尊は機晶姫のような敵の頭を撃ち抜いた。
「行きます……!」
 続いて、シーリルが巨獣の大腿骨を振るい、敵を2体連続で殴り飛ばす。
 崩れなかった敵の足を武尊が正確に撃ち抜く。
「離れろ!」
 永谷がブライトスピアを石像の胴に突き刺す。
「眠っててください……っ」
 シーリルが巨獣の大腿骨で打ち飛ばす。
「功を焦った、オレの責任だからな」
 武尊の銃が武器を持つ手と足の間接を撃ち抜いていく。倒れた石像が敵の進行の妨げとなっていく。
「塔の方に引きつけて。南はへ極力行かせないように!」
「広がり過ぎないようにな」
 瑠奈と永谷が軍人と契約者に指示と注意を促し、東塔の中へと走り込んでいく。
 東塔を守るための陣形を築いていく軍人と契約者の前で、武尊は敵人造兵器を押さえる。
「この先は通行止めだぜ。どうしても通りたいってんなら、力尽くで押し通ってみな」
 両手に持ったマシンピストルを撃ち鳴らし、敵の身体を次々に撃ち抜いていく。
 敵の破片が、飛び道具が武尊の身体を傷つけていくが、それでも一歩も退かない。
「ヒール発動します!」
 シーリルも献身的に武尊のサポートを続ける。

「人造人間の製造と保管に関わってる部屋の可能性が高い。地下のあの部屋から北方面へどんどん人造人間が送り出されているのかもしれない」
 東塔の中では、武尊達と一緒に集会所から戻った鬼院 尋人(きいん・ひろと)が地下道の危険性を訴え、封鎖を提案していた。
 通信機で全体に連絡をいれ、指揮官から許可が出ると同時に東塔の地下への入り口は爆破され、完全にふさがれた。
 光条兵器使いが溢れているということもあり、厩舎、西塔の地下道への入り口も軍人が塞ぎに向うことになった。
 ただ、各拠点と南塔付近以外の調査が進んでいなかったため、全ての地下動出入口を把握しているわけではない。思いもよらぬ場所から、人造人間が湧き出てきてしまう可能性もあるだろう。
「正面から闘っても消耗するだけだ。離宮が地上に浮上する可能性も考えると、巣は出来る限り破壊しておきたい」
 そう言って、尋人は出入口だけではなく、部屋自体の爆破も提案し、志願もする。
「必要性は解る。だけど、また地下に下りるのは危険すぎるわ」
 危険すぎる案な為、瑠奈には判断ができない。瑠奈は通信機で指揮官に状況報告をし、指示を仰ぐ。
「大勢で向っては敵を引き寄せてしまう。身を隠しながら、向って爆破してほしい……とのことだけど、お願いできる?」
 瑠奈は僅かに不安を見せながら、尋人に尋ねる。
「行きます」
 緊張した面持ちで尋人が言い、頷いた後、瑠奈は再び通信機で指示を仰ぐ。
「少人数で向って頂戴。軍の方に爆薬を持っていってもらわ。かなり大変だと思うけど、お願いね」
 通信を終えた後、瑠奈はそう言い、尋人はパートナーの呀 雷號(が・らいごう)と顔を見合わせた後、「はい」と返事をした。
 そして、通信機を預かり尋人は雷號と共に、軍人若干名を伴い再び使用人居住区へと向った。

〇     〇     〇


 北の塔に留まっていた赤羽 美央(あかばね・みお)は、通信機を手に塔の窓から周りに集まっている人造兵器達を見下ろしていた。
 大きく、何度も深呼吸をしながら考えていく。
 大事なことを、忘れていた。
 自分がここの調査を申し出たのは、この塔を解放し、離宮探索組が地上からの支援を受けられるようにするためだったと。
「危険から逃げるためにここに来たんじゃないです」
 地上の人々がどのような状態なのかはわからない。
 通信機から流れてくる会話から、離宮にいる人々がとても危険な状態にあることがわかる。
 自分達から一番近い場所にいる、使用人居住区付近はかなり酷い状況であることも。
「助けに来てもらったり、頑張って突破しようとしたらここから逃げることは出来るでしょうけれど……逃げるだけじゃダメです」
 言って、美央はパートナーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)に目を向けた。
「ミーは危険は嫌いデース」
 ジョセフは両手を広げてそう言った。
「そう、ですよね」
 こくりと頷いて、それでも美央は決意を固めて、1人下へと下りていく。
「無意識のうちに危険を避けようとして、この地下に眼をやるのを忘れていました。もう遅いかもしれないけど、今は私にできることをしたい」
 地下へ入り口に向かい、美央は歩いていく。
「オウ、美央。一人で行っても、見つけたものが何が何だか分からないデショウ?」
 振り向けば、ジョセフがついてきている。
「そう、ですけど……危険ですから」
「危険は嫌デース。デモ、ここまで来たからにはミーも付き合いマスヨ、無事にイルミンに戻れるように頑張りマショウ!」
「……帰れないかもしれません。もう手遅れかもしれませんから、せめて情報だけでも送る覚悟です。どんなに危険でも、この状況を打破するに足る行為だと信じて、向うまでです……」
 そう真剣な目で言う美央を、ぺしぺしとジョセフは叩いて、苦笑ともいえる笑みを浮かべる。
「ハハハ、何とかなりマース」
 そして、2人は慎重に地下への階段を下りることにする――。

〇     〇     〇


 宝物庫に留まっていた魔法隊のメンバー達のうち、班長であった琳 鳳明(りん・ほうめい)は、女王器と謎の箱を持って、本陣へと向うことになった。
 攻略隊補佐班のメンバーが、宮殿の外で光条兵器使いの足止めと狙撃を行っている為、封鎖されている宝物庫前にはさほど敵は集まっていないようだった。
「琳、待て、魔法をかける。念には念を……だ」
「琳ちゃん、気ィつけて戻ってくれよ?」
 急ごうとする鳳明に、ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)が禁猟区をかけ、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)がそう声をかける。
「ありがとう。それじゃ、ウィルくんお願いね。皆も無理しないで!」
 鳳明はウィルネストに班長を任せると、仲間達の協力を得て軽身功を用いて敵を飛び越えて駆け抜けていく。
「こちらに集中はしていないようだ。一気に向うぞ」
 殺気を探りながら、ヨヤは鳳明をサポートし、一緒に駆け抜ける。
「ごめんね!」
 鳳明は追って来る敵に、則天去私で攻撃を加え引き離すことも忘れない。
「補佐班の援護がある今なら、問題ないだろう。こっちは奥へ進むぜ。調査は頼むぜ、お嬢さん方!」
 受け取った通信機を手に、ウィルネストは残った女性達に声をかける。
「せっかく居残ったんだからでっかいの見付け出してくれよ?」
「宝の類かどうかはわかりませんが、重要な施設がある可能性もありますしね」
 下の部屋には下りなかったフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)も奥の部屋の探索には加わるつもりだった。
「調査そのものは、グレイス氏やフィルさん達にお任せいたします。私達は警戒に努めさせていただきます」
 ステラ・宗像(すてら・むなかた)はパートナー、イルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)陳 到(ちん・とう)景戒 日本現報善悪霊異記(けいかい・にほんこくげんほうぜんあくりょういき)と警戒、及び敵と思える相手と遭遇した際の戦闘の担当を申し出る。
「ワタシの役目は、グレイス先生の護衛かな?」
 アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)は、フィルと共にグレイスの側に寄って、フィルにパワーブレスをかけておく。
「私が前衛になって進むじゃん!」
 イーディ・エタニティ(いーでぃ・えたにてぃ)が床の魔法陣へと駆け寄った。
「それじゃ、行こうか。ホント、見事に女の子ばかりだね。怪我させたくないな」
 グレイスがウィルネストと顔を合わせて、軽く笑みを浮かべあった後、魔法陣に手を当てる。
 北への加勢も望まれていたが、皆で奥の部屋に進むことに決めたのだった。

 下の部屋に下りた一行は、ライトで室内を照らし、魔法陣が刻まれた壁へと近づく。
「真中にグレイス先生を置いて、全員背中合わせで行かない? 全方向からの攻撃に対応するために」
「そうだな」
 アリアの提案に、班長のウィルネストが頷く。
 グレイスの前に、イーディ、斜め前にフィルとアリア。グレイスの左右と斜め後ろにステラ、イルマ、陳到、景戒。そして後ろにウィルネストが立つ。
「準備はいいね」
 グレイスはイーディの肩に片手を乗せて、もう1方の手を魔法陣へと当てた。
 古の呪文を口にすると、その手が壁の中へ通過する。イーディがゆっくりと足を踏み出し、皆も後に続いた。
 ――先の空間には明かりが灯っていた。