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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第5回/全6回)

リアクション

「遅くなってすまない。軍人の配備などは百合園で検討されているはずだ」
 天音が、パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と共に、ケイ達と合流をする。
 更に天音は、離宮にいる鬼院 尋人(きいん・ひろと)のパートナー西条 霧神(さいじょう・きりがみ)も連れていた。
「尋人は『ソフィアという女王の騎士に会ってみたい』と言って調査に参加していたと思うんですが……地下は大丈夫なんでしょうかねえ」
 霧神はそう呟いて空を見上げる。船着場でのキメラ騒動のことは知っており、天音に更なるキメラがこちらに向っているという話も聞いていた。
 自分が大丈夫だということは、生きてはいるはずだが……嫌な予感もしてならなかった。
「キメラ戦だけど、僕は痺れ薬を使うつもりだ」
 天音はあらかじめ皆に、痺れ薬を使うため注意してほしいと話しておく。
「キメラか……」
 ケイの脳裏には、とある獣人達の村で遭遇したキメラが思い浮かぶ。
 合成されている獣は皆同じではなく、様々な形態のキメラだった。一つの身体に頭は一つとは限らず、翼を持ったキメラもいた。
 1匹1匹が非常に強く、それなりの力を持った契約者ならなんとか互角に戦えるだろうが、一般人は襲われたら一溜まりもないだろう。
「あの時のキメラと同じなら、キメラの武器は爪と牙だ。パワーはあるが、隙は大きい。皮膚は硬くて、殆どダメージを与えることが出来ないが、喉や腹部を狙えばダメージを通しやすい」
 ケイは皆に以前の戦闘で見たキメラの特徴や能力を説明していく。
 また、一体一体が非常に高い戦闘能力を有していることもわかっており、一体に対して複数人で纏まって戦う必要があるとは思っているが、今、ここに戦闘能力のあるものは少ない。まだこちらの態勢は全く整っていないのだ。
「キメラだ!」
「ホントに来たぞー!」
 屋上に上がっていた人々が声を上げる。
 運河に集った契約者達は身構えて待つ。
 ――遠く。はるか上空に現れたキメラは、大きな鳥のように見えた。
 キメラ、それから空飛艇が1台、高度を下げてこちらに近づいてくる。
 ケイ、カナタ、天音はそれぞれ空飛ぶ箒、飛空艇に乗りそのキメラと思われるグループに近づいていく。
 空飛ぶ箒や飛空艇は移動、冒険には適してはいるが、戦闘には適していない。
 こちらが不利であることは重々承知で、あえて3人は向っていく。
「お前がキメラの指揮者か!?」
 接近した飛空艇の操縦者にケイは声をかける。
 操縦者は……吸血鬼の男のようだった。
「キメラを下ろしてどうする? 船着場のキメラもお前達の仕業か?」
「吸血鬼……」
 カナタはケイより少し下の位置から、操縦者の男の顔を見ていた。
 嘆きのファビオを襲った人物は、吸血鬼の衣装をまとっていたという。
 ハロウィンパーティ故の、仮装とも考えら得るが、本物の吸血鬼であった可能性もある。
「君、ファビオを知っているかい?」
 突如、そう問いかけたのは資料でそのことを知ったばかりの天音だった。
 操縦者の男が薄い笑みを浮かべる。
「古の6騎士、嘆きの騎士ファビオは、我等の手中にある。いつでも首を落とすことが出来る」
 男はそう言葉を発した。
 瞬時に天音は痺れ薬を使う。男はまかれた粉を受ける前に急上昇。起きた風により男の元には薬は届かない。手前にいたキメラの動きが鈍っていく。キメラも男に従って上空へと上っていく。
「ファビオを返せッ!」
 ケイがブリザードを放つ。
「話を聞かせてもらいたいものだ」
 カナタも氷術を放って、キメラの翼を狙う。
 1匹、翼を凍らされたキメラが降下する。
「街には落とさないよ」
 天音は真っ直ぐ近づいて、動きの鈍ったキメラの喉にドラゴンアーツで攻撃をし、下降するキメラの翼をリターニングダガーで貫く。
「貴様等を相手にするつもりはない」
 男は冷ややかにそう言うと、キメラと更に上昇し、パッと姿を消した。――テレポートだ。
「く……っ、ファビオはどこにいるんだよッ!」
 悔しげにケイは声を上げるが、追いかける手段がない。
 傷ついたキメラが1匹河原へと降りていき、もう1匹は運河の中に落ちた。
「近づくなよ」
 ブルーズはそう言った後、雷術を放ち、落ちたキメラに当てる。
 感電し大きなダメージを食らったキメラが水の中で暴れる。
 カナタも上空から雷術を放ち、ブルーズとの連続魔法でキメラの息の根を止める。
 河原へ降りたキメラへは、天音とケイが近づき、天音がダガーで喉を切り裂いた後、ケイがファイアストームで焼いた。
「このままここに留まろう。キメラはまだまだこちらに向っているはずだ。奴もまた戻ってくるかもしれない」
 河原に浮かぶキメラの身体を引き上げながら、ブルーズがそう言う。
 直後に天音の携帯電話が鳴り、百合園仮本部の状況が伝えられる。
 離宮との通信が回復したとのことだった。
 軍人の配備についてはまだ決まったばかりで、実際配置されるまではまだ時間がかかりそうだ。

「使い魔、特に攻撃されなかったわね」
 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)がヴァイシャリー上空に現れたキメラの元に空飛ぶ箒で駆けつけた時には、すでにテレポートで消えた後だった。
 カラスの使い魔を放っておいたのだが、特に攻撃されるということもなかった。
「ヴァイシャリーの攻撃を目的としてはいなかったってところね」
 消えたキメラはテレポートで離宮へ向ったのだろう。
 直ぐにフレデリカはレンに連絡を入れる。
 フレデリカそしてパートナーのルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)、それから共に空の警戒に務めているルイ・フリード(るい・ふりーど)とパートナーのリア・リム(りあ・りむ)シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)は、レンの要請に応じて急ぎ集まった冒険屋のメンバーだ。
 切った途端、フレデリカの携帯電話がなる。相手はルイだ。
『フレデリカさん、北の方から来ます!』
「すぐいくわ。遠くから見ただけだけれど、飛行系のキメラは骨格が脆弱そうよ。身体の造りがしっかりしたキメラは強いとは思うけど、より大きな翼がある分、体重が重くて俊敏性が低いと思う」
 思いついた弱点を話した後、電話を切ってルイーザと共にフレデリカは北へと向かう。

 北の方角から、飛行系のキメラが数十匹姿を現す。
 ルイは防御態勢をとりながら、殺気看破を使った状態で、紺碧の槍を振り回しながらキメラの中に突っ込む。
 身体を傷つけられたキメラは奇声を上げて、ルイに襲い掛かってくる。
 ルイは自分が傷つくのも厭わず、槍を繰り出してキメラの翼を貫いていく。
 翼を負傷したキメラ数匹が地上へと降りていく。
「ここで止まっていただきます!」
 がむしゃらに槍を振り回し、主に身体の造りの良いキメラ5匹を地上に落とすことに成功するが、残りはヴァイシャリー家の方へと向っていってしまう。
 小型飛空艇という戦闘には不向きの乗り物に乗っての空中戦、そして敵よりずっと人数が少ない状態ではこれ以上相手にするのは無理であった。
「ルイ、無茶をするなよ!」
 下方からリアの声が飛んでくる。
「わかっています」
 一先ず、落ちたキメラを倒すために、ルイは地上へと向う。
 地上に落ちたキメラは暴れ回りながらも仲間達の下へ向おうとする。
 ルイはキメラの中心に降り立ち、囮となってキメラの気を引いていく。
 紋章の盾で攻撃を防ぎながら、キメラ全てを自分の方へと集める。
 爪や牙による攻撃全てを防ぐことは出来ず、ルイの身体も深く傷ついていくが、振り払うことはせず、ただ一方へと歩く。
「お待たせ!」
「大丈夫ですか!?」
 空飛ぶ箒を操りフレデリカ、ルイーザが駆けつける。
「……今ですッ!」
 特定の場所まで到達した途端、ルイは爪を振り下ろしたキメラの一撃を盾で押し返し、そのまま突破をした。
「行きます!」
 魔道書のセラが声を上げる。
 そして集まっているキメラにサンダーブラストを放つ。
「行くわよ!」
「ルイさん逃げて下さいね」
 言って、フレデリカとルイーザもサンダーブラストを放った。
 雷がすさまじく降り注ぎ、キメラを打っていく。
「はああっ!」
 声を上げて、ルイは槍を持ち雷に打たれたキメラへとつっこんだ。
 3匹のキメラは倒れて動かない。
 しかし残りの2匹のキメラは魔法か雷の耐性があったらしく、動き始める。
「形も違うし、弱点もそれぞれ違うようですね」
 ルイーザは注意深くキメラを見るが、共通の弱点などは判別できなかった。
「終わりです!」
 キメラが攻撃を加えるより早く、ルイはキメラにランスバレストを繰り出す。
 胴体が2つに分かれているため、槍を一旦抜いて、もう1つの身体も串刺しにする。
「足を撃つぞ!」
 そう声をかけてから、リアがシャープシューターでキメラの足を撃ち抜く。
 ルイは地に伏したキメラを再度上部から突いて、止めを刺す。
「ルイさん……っ」
 ルイーザはぼろぼろになりながらもキメラに挑むルイに、ヒールをかけていく。
「これならどう!?」
 フレデリカはまだ動いているキメラに氷術を放った。
「ルイ、離れて。こっちも行くよ!」
 ルイが後ろに飛び退いた途端、セラがファイアーストームを放つ。
 ――その攻撃の後、キメラ5匹は完全に動かなくなった。
 フレデリカは直ぐに、レンに連絡を入れて状況を報告する。
「皆……まだ戦える?」
 電話後、心配気な目をフレデリカはルイに向けた。
「全然大丈夫です」
 ルイーザの回復を受けたルイはそう答えて、自分の飛空艇に乗り込んだ。
 北の方角からまたキメラが飛来する。
「ここは綺麗な町だよね、きっといつもなら皆が笑って過ごしてたんだ」
 セラがそう呟いた。
 その日常と笑顔を取りもだどすために。
「落とすわよ」
 フレデリカは普段は使わない魔導弓を構える。
 少しでもここで打ち落とさねばと、真剣な目で冒険者達はそれぞれ武器を構える。