リアクション
〇 〇 〇 春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)が本部に駆けつけた時には、すでに消火活動は終わっており、治療や部屋の片付けが進められていた。 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に話を聞いてから駆けつけるまでの間に数十分の時が経ってしまている。 とはいえ、ここに来るまでの間、何もしなかったわけではない。 知り合いで無事な者達に電話をかけて、状況を説明し百合園に来てほしいと連絡をいれていた。 「手当だって必要なのはわかってる。でも、みすみす敵が動く猶予を与えるワケには行かない!」 本部とされていた部屋からは少し離れた部屋を借りて、真菜華は無事であった者と、駆けつけた者達、更に校内放送でメンバーを集めて仮本部を築き、緊急会議を行うことにした。 こんな状況でも当然敵は待ってはくれない。 キメラが現れたという噂も街中に流れており、悠長にはしていられないのだ。 傷ついている仲間を手伝えないのは辛いが、犯人の名前と手口を聞きだした後、動ける者と一緒にこの部屋へと移った。 「マナカ難しいことわかんないから、キメラ対策は案があるっていうレンに任せる。軍人の配置はヴァイシャリー家にいた人に案を貰ってきた」 言って、真菜華は黒崎 天音(くろさき・あまね)から聞いた案をメモした紙をテーブルに置く。 「離宮との電話は頻繁にやってみて!」 「はい、かけてはいるんですが、繋がりませんわ」 本部協力者であり、被害に遭わなかった出雲 阿国(いずもの・おくに)に頼み、離宮にいるパートナーの大地に電話をかけてもらうが、やはりまだ繋がらない。 「マナカは会議仕切るのとか無理だから、犯人の写真もらってくるね。お願いね!」 レンに後を任せると、真菜華は犯人――クリス・シフェウナの写真を慌しく事務室に貰いに走る。 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は真菜華経由でラズィーヤと連絡を取り、ある契約を交わしていた。 緊急を要するため、直接相談を行う時間は互いに取れなかったが、2人の契約は口頭で成立した。 レンは「冒険者を雇わないか」とラズィーヤに持ちかけ、代金として銀貨一枚を要求した。 ラズィーヤは笑みを含んだ声で「わたくしが直接お支払いする銀貨1枚はとても高額ですのよ。相応の仕事をしてくださいませね」と答えたのだった。 そして今、レンはここにいる。 『ふん、会議で暴れた男が今頃やって来たか。無傷な分、全力で動いてもらうからそう思え』 ミサカ・ウェインレイド(みさか・うぇいんれいど)がハンズフリーにした携帯電話から、不機嫌そうな声が流れてくる。イルミンスール生の調整役を担っていたエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)の声だ。 彼は酷い火傷を負った為、現在まだ保健室で治療中だ。 レンは軽く苦笑するが何も言わなかった。 本部発足時に不穏な言動をした彼であったが、この場、この状況下で彼を責め、追い出そうとする者はいなかった。 「地図はあるか?」 「これが最新版ですわ」 イルマ・レスト(いるま・れすと)が離宮の位置を書き込んだヴァイシャリーの地図を机に広げた。 「とにかく一刻も早く孤立している離宮組との連絡を回復することが重要ですわ。なんとかして千歳に伝えたいのですけれど……繋がりませんわね」 イルマのパートナー朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)も離宮にいるのだが、携帯電話が繋がることはなかった。彼女が発信していたと思われる通信機の電波は少し前まで受信できていたので、無事だということはわかっているのだけれど。 ただ、この状況が長引けば、離宮にいる人々の士気が崩壊してしまうのではないかと、イルマも気にかかっていた。 「パラ実方面から訪れるのなら、この運河を通る可能性が高い。中心部へ出てそのまま転送も可能だろう」 レンは受け取った地図に印しをつけていく。 「下水道の地図と地下のルートもあります。少しでも参考になれば」 メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が、レンやヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)達が調べたヴァイシャリーの地下の地図も、一緒に並べていく。 「予想でしかないが、テレポートはより転送に近い位置から行われると思われる。防衛すべき場所はこの範囲。そしてこの運河。この辺りの住民には急ぎ避難を呼びかけた方がいいだろう」 レンは次々に印しをつけて、集まっている百合園生達に指示を出していく。 「船で訪れるキメラは、飛行能力はほぼないと思われます。土嚢などを積んでの道の封鎖を行いましょう」 レンと共に、メティスも提案をしていく。 「またキメラが兵器として利用されている以上、敵にはキメラを制御する術があると思われます。キメラの身体から受信機などが発見された場合、速やかに本部に持ち帰ってくださるよう、ご連絡お願いします」 「船着場の方にはすでに、仲間が向っている。逐次連絡が届くはずだ。長時間は難しいがしばらくの足止めは成し遂げてくれるだろう。それから」 レンはヴァルの方に目を向ける。 「ヴァルには、俺の代わりに離宮に降りてもらいたい」 腕を組んだ状態で、ヴァルは首を大きく縦に振った。 『自称『帝王』か……。まあ普段の言動はアレだが実力は本物。……今回は本気モードで頼む』 ミサカの携帯から、エリオットの声が流れてくる。 「任せておけ。ただ、普段の言動がアレとはどういう意味か、後ほど聞かせてもらおうか」 ヴァルはにやりと笑みを浮かべる。 「ただ、本部役員にはいい顔をされないだろうな。我は連絡係とまあ、人質ってことでここに残らせてもらうよ」 ヴァルのパートナーのうち神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)がそう申し出る。 重要な局面を任されるためには、担保を差し出す必要があると考えてのことだ。 ヴァルが裏切った場合の人質として。 「ま、ヴァルが裏切るなど、奴が帝王にならぬ確率より低いのだよ。だから大船に乗ったつもりで安心するのだよ」 人選を行っている余裕もなく、会議は次の議題へと進んでいく。 |
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