リアクション
遺跡攻防戦 「この遺跡がイコンその物だと。まったく。エルデネスト、方針変更だ。ここを遺跡じゃなくて、イコンだと想定して内部構造の特徴を割り出してくれ。どこか弱そうな所を見つけたら、外の奴らに教えてやる」 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)に言った。 「弱そうな所ですか? まあ、イコンだとすれば稼働部とかインテークとかがありそうですから。調べてみますか」 エルデネスト・ヴァッサゴーが、壁に手を当ててサイコメトリで情報を探っていった。 「インテークもいいが、動力部をぶっ壊した方が早いと思うがな」 どんな機械でも、動力の供給がなくなれば動けるはずがないとグラキエス・エンドロアが主張した。 「うーむ、そうであるな。グラキエスの言う通り、心臓部を破壊するのが一番ではないだろうか」 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)がグラキエス・エンドロアに同意した。外においてきたシュヴァルツ・ツヴァイ(Schwarz・Zwei)の管理のために呼んだロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)からの情報では、外ではイコン戦が始まっているらしい。そんなところへのこのこ生身ででていくのは危険すぎる。 「やはり、サイコメトリでは、このあたりの限定情報しかありませんね。役にたちそうにありません。どちらかというと、分析された全体マップの方が役にたちそうです。ほら、通路の部分や部屋の部分をこうやってイレースしていくと、未知の部分が明確になるでしょう。これは、だいたい何かの機構が詰まっているか、通風口のような空洞ですね。どうも、大雑把な構造はシンメトリカルのようですから、ほら、このあたりとか。このあたり、細いラインが伸びていますね」 「うーん、まるでピラミッドにある採光用の空洞のようだな」 マップを見たグラキエス・エンドロアが腕組みして考え込んだ。確かに、ピラミッドなどの巨大建築物には、こういった細い通路があるが、とうてい人間用とは思えないものだ。そのため、たいていは採光か通気の物と考えられている。やはり、その巨大さゆえか、この巨大イコンは遺跡の構造に近いのかもしれない。だが、イコンと建物の共通する特徴というヒントは役にたった。 「あるいは、通気口かインテークですか。終端は、外壁ですから小型ハッチのような物があるのかもしれません。だとしたら、ここは空洞ですから、脆かったり、攻撃が中まで通ったりするかもしれませんよ」 「よし、とりあえず、ロアを通じて外の奴らにも教えてやれ。もしかするとウイークポイントかもしれないとな」 エルデネスト・ヴァッサゴーに、そうグラキエス・エンドロアが言った。 ★ ★ ★ 「見つけた。あそこが入り口だな」 リーフェルハルニッシュが出てくる格納庫入り口を見つけて、瓜生コウがドンナーシュラークを近づけた。 敵イコンの発着口は多数あるようなのだが、発進が終わった物はハッチが閉じてしまうようで、刻一刻変化している。かといって、発進中の格納庫に突入するには、そこにいる敵イコンを全て撃破しなければならないのでやっかいだ。 今、瓜生コウが見つけた場所は、敵イコンが全て発進したのにまだ開いているように見える。これはチャンスだ。 だが、そう思ったのも束の間、ハッチが閉じ始めた。 「急げ、ドンナーシュラーク!」 ドンナーシュラークを駆りたてると、瓜生コウは格納庫へと滑り込んでいった。 「開閉スイッチとかはないのか?」 閉じようとする扉を止めようとした瓜生コウだったが、その前にリーフェルハルニッシュが現れた。 「くそっ! 全部出ていたのではなかったのか!?」 判断を誤ったかと、瓜生コウが焦る。そんな彼をかばうように、ドンナーシュラークが前に進み出た。 よく見ると、イコンの様子は少し変だ。動きがぎくしゃくしている。 「拳の跡?」 リーフェルハルニッシュの胸部装甲に刻まれたいくつかのへこみや亀裂を見て、瓜生コウがつぶやいた。すでに誰かが、このイコンを傷つけていたらしい。そのせいで動きが鈍く、発進ができなかったのだろう。 だが、動ける以上、脅威だ。 「それよりも扉を……」 なんとかしなければと思ったとき、外で何かが爆発した。 扉の動きが止まる。 何か黒い粘体が滴り落ちかけて固まって止まった。コロージョン・グレネードのようだ。 「いっちばん乗りなのだあ」 言いつつ、巨大マナ様が飛び込んできた。怪獣パジャマを着て、いかにも張り切っている。 「あれれ、一番ではなかったのだあ」 マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が、ちょっと残念がった。だが、リーフェルハルニッシュがいきなりこちらをむいたので焦る。 「危ないのだあ。振れば魂散る正義の刃、受けてみよ!」 いきなり突き出された剣を、マナ・ウィンスレットが斬龍刀で受けとめた。その間に、ドンナーシュラークがリーフェルハルニッシュの足を挟んで動きを止める。 『ちょうどいいところに来たのだな。機晶石エネルギー充填、ファイヤー!』 続いてやってきたジュレール・リーヴェンディの深き森に棲むものが、いきなり機晶ビームキャノンを発射した。だが、巨大イコンの中では、高出力ビームは真っ先に吸収されてしまう。直撃するものの、リーフェルハルニッシュの表面を少し焦がしただけだ。 『だったら……』 ちょっとプライドを傷つけられたらしいジュレール・リーヴェンディが、取り出したカボチャ爆弾を深き森に棲むものにかかえさせて突っ込んできた。リーフェルハルニッシュの機体の亀裂に無理矢理カボチャ爆弾をねじ込むようにくっつけて、そのままの勢いで押し倒す。 引きずられてはたまらないと、ドンナーシュラークがあわててリーフェルハルニッシュの足を放した。 倒れると同時にカボチャ爆弾が爆発し、リーフェルハルニッシュの胴体に大穴があいて活動を停止した。 爆風に吹き飛ばされそうになり、瓜生コウが必死にドンナーシュラークの足につかまって耐えた。周囲に飛んできた細かい部品や破片が、床の上で跳ね返ってカンカンと音をたてる。閉鎖された室内で爆発物を使うのは生身の者のことをまったく考えない行為だ。遮蔽物がなければ、もろに爆風が襲ってくる。へたしたら蒸し焼きだ。爆炎のエネルギーが遺跡に吸収されていなかったら、瓜生コウは無事では済まなかっただろう。 「相変わらず、荒っぽい奴が多いな。ドンナーシュラーク、よくやってくれた。ここはもういいから、地上に行って待機していろ」 このまま遺跡の中にいるのであれば、ドンナーシュラークは不利だと悟った瓜生コウが命令した。素直に従ったドンナーシュラークが外へと飛んでいく。 「オレは、あれがあればなんとかなりそうだからな」 そう言って、瓜生コウは、格納庫の奥の方に停められていたボンネットバス型の中型飛空艇を見た。 ゴチメイたちが使っていた物に間違いない。もしかすると、リーフェルハルニッシュを損傷させていたのも、彼女たちかもしれなかった。おそらく、動きだす前に好奇心で叩いたとか……。充分にありえる話だ。 |
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