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リアクション
★ ★ ★
「熱源体接近! 大型ミサイルが二基です!」
シグルドリーヴァのオペレーターが悲鳴をあげた。
「落ち着いてバスター砲で迎撃しなさい。徹甲榴弾装填。発射!」
ノート・シュヴェルトライテが命じる。
戦闘態勢で待機していた砲手が、艦首上甲板に設置された主砲であるバスター砲を発射した。
船体に制動がかかり、大型の砲弾が正確にミサイルにむかって飛んでいった。
長方体のミサイルの一つを正面から砲弾が捉え、押し潰すようにして粉砕する。激しく八方に火花を飛び散らして誘爆しながら、ミサイルが迎撃された。
「次弾装填、急いで!」
もう一基のミサイルに対して、ノート・シュヴェルトライテが第二射を指示する。
大型ゆえか低速のミサイルに、バスター砲の第二射が命中する。だが、その直前に、ミサイルの四方の装甲が開いた。内部に仕込まれたクラスター弾が飛び散る。半数ほどはバスター砲の砲弾に巻き込まれて誘爆したものの、無数の子爆弾が船団の上から降り注いだ。対応する間もなく、全ての輸送艇の甲板上で爆炎が広がった。
「全艦退避。損傷の激しい物は不時着しなさい。本艦は対空監視の上で前進。発射点と思われる地点に、主砲発射!」
ノート・シュヴェルトライテが指示するまでもなく、煙をあげた大型飛空艇が不時着していく。甲板に爆装していなかったので爆散はまぬがれたが、被害はかなりのものだ。無傷だったのは、先行していて射界から外れたシグルドリーヴァだけであった。
砲撃をしつつ前進するが、当然、ルビーたちは散開した後であった。
「虎の子を迎撃するとは。やってくれるなあ」
クラスターミサイルを撃ち尽くしたシパクトリが、連装されている通常のミサイルランチャーを使ってシグルドリーヴァを攻撃し始めた。
「右舷被弾!」
「回頭、急げ!」
森林に姿を隠しつつ移動攻撃してくるシパクトリの位置を特定できず、シグルドリーヴァが後手に回る。火力は充実しているものの、索敵能力の不足を突かれている形だ。だが、敵がシグルドリーヴァを狙ってくれているおかげで、輸送船団は無事に不時着することができた。
「ミファ、イコンを出すわよ。なんとしても、ちゃんとこれを届けるのよ」
「はい!」
不時着した大型飛空艇から、『空中庭園』ソラの乗るメカ雪国ベアと、『地底迷宮』ミファの乗るセンチネルが飛び出していく。
森の木々を盾にするようにして、巨大なマフラー型補助アームが特徴的な白熊型イコンのメカ雪国ベアが、ボリュームのある脚部で大地を踏みしめながら走っていく。その後ろを、真紅のセンチネルが追従していく。こちらは、スイヴェンによく似たイコンで、燃えるような意匠の装甲、ヒーターシールドと蛇腹剣、そしてスピアで武装していた。
「先制を期されるとは……。早くカレンと合流しなければ」
同様に、深き森に棲むもので大型飛空艇を脱出したジュレール・リーヴェンディも、遺跡へと急いだ。パイロットが一人では、本来の性能の30%も発揮することができない。
だが、そんな彼女たちの眼前で、空に飛びあがった遺跡から、次々にイコンが地上へと降りてきていた。巨大イコン内部に格納されていたガーディアンイコン・リーフェルハルニッシュだ。無骨な騎士鎧然とした黒い機体に光り輝く不気味な呪紋を浮かびあがらせ、背後のマントを靡かせながら地上に降りてくる。
「あいたたたた……。いきなり撃墜なんて酷いです」
凄まじい枕のコックピットの中でひっくり返りながら、ヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)が言った。
格納庫に入っていた忍者型のイコンの方は、ハンガーに固定されていて無事のようだ。そばにある蕾のような形の追加装備もしっかりと固定されている。おそらくはイコンホースを元にしたバインダーの類だろうが。
しかし、凄まじい枕は規格外なので専用ハンガーでないと固定ができない。このままだと、ひっくり返るどころではすまないと、ヨン・ナイフィードはあわててふよふよと飛空艇の格納庫から脱出した。枕は、ただでさえ燃えやすいのだ。多分。
「無駄な戦闘は控えるわよ」
奇しくも同じ考えで、『空中庭園』ソラたちは、リーフェルハルニッシュを避けてそれぞれのパートナーの許へと急いでいった。
だが、地上に降りたリーフェルハルニッシュたちがその前に立ち塞がる。『空中庭園』ソラたちを見つけると、剣を抜いて襲いかかってきた。
「邪魔です」
『空中庭園』ソラが、メカ雪国ベアを回転させる。大きく広がったマフラーアームが、ラリアットの要領で敵を薙ぎ倒した。
「今のうちです」
『地底迷宮』ミファをうながすと、『空中庭園』ソラは敵を大きく迂回しながら遺跡へと急いだ。
★ ★ ★
「グゴゴゴゴゴ!!」
突然、静かだったイルミンスールの森に爆発音が響いた。無心で大木を削る巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)様の集中が乱れる。
ザシュ!
一刀彫りでみごとに形作られていたザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)の木彫りの鼻が、巨大なノミに削り取られてぺたんこになった。
なんということだ。
「ギンゲンゼド ギズレ! ゾグボボギ!」
失敗作は残さぬ。だごーん様が、張り手で大木を押し倒した。大きな音をたてて、大木が倒れる。だが、それ以外の音が、遠くから響いてきた。
「パセゾ ジョヅバ」
何か戦闘のような物が始まっているようだが、それ以前に呼ぶ者たちがいる。その祈りには応えねばならぬ。
だごーん様は光学迷彩で姿を消すと、その呼び声に導かれていった。
★ ★ ★
「アンノウンから、未確認イコン多数出現。味方識別信号ありません。照合する機体なし。攻撃来ます!」
船体をかたむけて急速旋回しながらシパクトリと砲撃戦を繰り広げているシグルドリーヴァの艦橋で、オペレーターが叫んだ。
接近してくるリーフェルハルニッシュが、シグルドリーヴァめがけてピルムムルスを投擲してくる。両端が穂先となった、ランスを二つつなぎ合わせたような槍だ。
かろうじて船底の装甲板で弾き返してはいるものの、取り囲まれてはあまりよろしくない。
「現時刻より、未確認イコンを敵と断定。左舷ガトリングで牽制する。右舷は任せた。戦闘速度!」
シパクトリを砲手に任せると、風森望が左舷ガトリングガンをコントロールして、地上のリーフェルハルニッシュを牽制した。だが、攻撃を受けたリーフェルハルニッシュが、空中に飛びあがってシグルドリーヴァを取り囲もうとしてきた。飛行されてとりつかれるのは非常にまずい。
「そう簡単に接近させるものですか」
ピルムムルスを前面に構えて突っ込んでくるリーフェルハルニッシュに、風森望がレーザーマシンガンをむけた。
だが、パルスレーザーが敵イコンの装甲直前で輝きを失って消滅する。
「バリアですの!? 急速回避、アップトリム30! みんな、何かにつかまって!!」
即座に迎撃失敗と判断したノート・シュヴェルトライテが叫んだ。船体が傾いて急速上昇をかけるが間にあわない。ピルムムルスを振り上げたリーフェルハルニッシュが、ブリッジである船尾楼に迫る。
まさにブリッジ直撃かというときに、突然、側面で爆発を起こした敵イコンが吹っ飛んだ。
「九時方向、蒼空学園の大型飛空艇です!」
オペレーターが、側面からミサイルによる援護射撃をしてきたオクスペタルム号を確認して告げた。
★ ★ ★
「ミサイル連続発射ー!!」
オクスペタルム号のブリッジでは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が絶好調で発射ボタンを連打していた。
「ここは私に任せて」
「頼みますよ、ノーン。行きますよ、エリシア」
リーフェルハルニッシュへの攻撃はノーン・クリスタリアに任せて、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)がエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)をうながした。
「ええ。イルミンスールの森が火事で世界樹の一大事と聞いて駆けつけましたのに、事態は遥かに悪いようですわね」
うなずきつつ、エリシア・ボックが御神楽陽太と共にイコンへと急ぐ。森林火災と聞いて、半ば無理に御神楽陽太をイコンと共に引っ張り出してきたのだが、どうやらこれは自然災害ではないようだ。
「一機だけ、別の形をしたイコンがいましたね。あれが隊長機かもしれません」
ブリッジから確認したシパクトリのことを指して、御神楽陽太が言った。
「そうですわね。戦いはまず頭を叩くのが定石ですわ。逃しはしませんわ」
エリシア・ボックも同意する。
「発進します」
イーグリット・アサルトのメインパイロット席に着くと、御神楽陽太がスロットルを押し込んだ。
甲板にしゃがんでいたイーグリット・アサルトの背後に機晶エネルギーのフィールドが発生して機体が浮きあがる。身体を伸ばしたイーグリット・アサルトが事前に捉えていたシパクトリの方向をむく。オクスペタルム号の火線を映して、センサーアイがキラリと光った。
「行きます!」
メインスラスターを全開にすると、御神楽陽太はシパクトリにむかっていった。
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