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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

リアクション

 

格納庫からの脱出

 
 
「なんだか、いかにも怪しい雰囲気になってきたわよね」
 遺跡内の通路を一人で進みながら、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がつぶやいた。
 先ほどの地震から、遺跡内の通路がキラキラピカピカと派手になってきている。
「これは、多分エネルギーの流れよね。電飾じゃないわよね。だとしたら、この先に何かあるはず……多分……きっと」
 まさか遺跡が飛んでるとは知らないリカイン・フェルマータが、導かれるように光の流れを追っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「おお、よしよしよし。まったく、こんな物があるから怖いんだよね。待っててね、今完全に壊しちゃうからね」
 ねんねこで背負った獣人の赤ちゃんをあやしながら、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が、キッと背後にあるリカイン・フェルマータのイーグリットを睨んだ。
 イコン嫌い、ここに極まれりである。
 だいたい、現在の状況に陥ったのも、無理矢理リカイン・フェルマータにイコンに乗せられてここへ連れてこられたせいだ。はっきり言って、現在の状況など知ったことではない。まずは、世のイコンの殲滅である。
 とりあえず、なんだか面倒なことが起きているようなので、どさくさに紛れてイコンをぶっ壊しても問題はないだろう。
すぐにかたづけてあげるわ
 シルフィスティ・ロスヴァイセは、真空波でイーグリットを切り刻もうと構えた。
「ビエェェェェェェェ!!」
「ど、どうしたの?」
 突然、火がついたように獣人の赤ちゃんが泣きだした。
 あわててあやすと、すぐに泣き止む。気をとりなおして再び真空波を放とうとすると……。
「ビエェェェェェェェ!!」
「あああ、ごめんなさい、ごめんなさい」
 どうやら、自分が入れられていたイコンを破壊されるのが嫌なようだ。
「仕方ないわね、だったら、あっちのイコンならいいかな」
 イーグリットを諦めると、シルフィスティ・ロスヴァイセは壁に埋まっているリーフェルハルニッシュに目をむけた。こっちのイコンに関しては、獣人の赤ちゃんも壊して構わないらしく、一言も鳴き声を発しない。大丈夫だ。
ふふふん、フィスと出会ったのが運の尽きだったわね
 微塵も遠慮することなく、シルフィスティ・ロスヴァイセが真空波を壁のリーフェルハルニッシュへ放った。
 だが、いくら起動前なのでバリアが発生していないとはいえ、さすがにその程度の攻撃ではイコンに大した損傷を与えることもできない。表面に深めの傷がついた程度である。
「まったく、あの女はいったい何をしているのだ。これではおちおち分解に集中できぬであろうが」
 ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)がメイド服のポケットから取り出したドライバーを四本いっぺんに指の間に挟んで広げながら、ドクター・ハデス(どくたー・はです)がシルフィスティ・ロスヴァイセを迷惑そうに睨みつけた。
 現在は、絶好調で先にシルフィスティ・ロスヴァイセが攻撃して転倒させたリーフェルハルニッシュを分解中である。はっきり言って、シルフィスティ・ロスヴァイセの攻撃は御近所迷惑であった。
「うーん、素材や部品に関しては、特殊合金というわけでもないな。内部機構も、とりたてて平均なイコンに近い。どちらかというと、地球の手の入ったクェイルよりは、アニメイテッドイコンに非常に近いというところか。だが、コックピットにあたる物がまったくないということは、完全な遠隔操作ということであるな。面白い、いったいどういうプログラムで動かしていることやら」
「御主人様……じゃなかった、ハデス博士、それが分かれば、ここにあるイコンをみんなハデス博士の物にできるんですか?」
 ちょっと感心するドクター・ハデスに、ヘスティア・ウルカヌスが興味津々で訊ねた。
「無理であろうが」
「えーっ」
 即答で否定されて、ヘスティア・ウルカヌスががっかりの声をあげる。
「プログラムという物は、OSやチップによって、まったく体系が異なるのを忘れたのか? メーカーが違えば、パラミタや地球の機械でも互換性が問題になるではないか。まして人間用の入力デバイスが存在しないメカのコマンドをどうやって解析しろというのだ。ディスアッセンブルするにしても、データバンクを解析せねばならぬし、どうも見たところクラウド型のようであるから、このイコンを調べただけでは意味がないであろうが」
「えーっと、難しいです……」
 話についていけなくなって、ヘスティア・ウルカヌスが可愛く両手で頭をかかえる。
「まあ、それでも、装甲などはイコンクラフトのパーツとして使えそうではあるな。別に取りつけたからといって、装甲値があがるとか、特殊効果が発動するという物ではなさそうではあるが。この呪紋が解析できれば面白そうではあるが、おそらくメインシステムはこの遺跡の中央コンピュータなどが管理しているであろうから、これだけではただの模様にすぎぬな」
 少し悔しそうにドクター・ハデスが言った。
 結局、これらは端末であって、全体を掌握しなければ部分ではまったく意味がないようだ。
「どれ、もっと奧を分解して……」
 身を乗り出したドクター・ハデスの頭の上に、何かがぴょこんと飛び乗った。
「うおっ、何が……」
 払いのけようとするところで、頭の上に乗ったヘルわんこが、ぼーっとリーフェルハルニッシュの内部に火を吐いた。
「あちちちち……!!」
 あわてて、ドクター・ハデスがリーフェルハルニッシュから離れる。内部回路が焦げついて黒い煙がボンとあがった。
「なんだ、このわんこは!?」
 ドクター・ハデスが振り払うと、ヘルわんこがピョンと床に飛び逃げた。
ああっ、ひどい。ラグナ、早く回収してください」
 両腕にヘルわんこをかかえた志方 綾乃(しかた・あやの)ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)に言った。
「わかってるぜ。マール、そっちへ回り込め」
「こっちだね」
 バタバタと、ラグナ・レギンレイヴが、マール・レギンレイヴ(まーる・れぎんれいぶ)と共に、まだ逃げ回っているヘルわんこたちを追いかける。
「やれやれ、呼ばれたのでマールと一緒にやってきたのに、わんこの回収もまともにできないのですか」
 ヴァラヌスタイプのツェルベルスのコックピットの中で操縦方法の確認をしていたリオ・レギンレイヴ(りお・れぎんれいぶ)が、深く溜め息をついた。
 戦闘による損傷はないようだが、相変わらず扱いが難しそうだ。四肢のバランサーを確認し、ツェルベルスの特徴である三首が自由に動いてもバランスを崩さないようにする。ラグナ・レギンレイヴのメンテナンスは、短時間できっちりとリオ・レギンレイヴ用に微調整がされているようであった。
「おやおや、なんでしょう、このエネルギー反応は……」
 チェックしていたレーダーに、次々にイコンの反応が現れて、リオ・レギンレイヴが顔を顰めた。
 
    ★    ★    ★
 
「どうしたの、黒帝!?」
 突然騒ぎ出した荒人用の馬型イコンホースの様子に、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)も何ごとかと周囲を見回した。
『気をつけろ。イコンが動きだしたぞ!』
 テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)の全身を被っていたデウス・エクス・マーキナー(でうすえくす・まーきなー)が、警告を発した。
 壁のエネルギーラインの明滅がスッと正常化し、アルコーブに収納されたリーフェルハルニッシュの各機にむかって一気に流れ込んでいった。直後に、ゆっくりと多数のイコンが動き始める。
「おおお、スイッチが入った……って、危険ではないか。ヘスティア、合体するのだ!」
 逸早く危機を察したドクター・ハデスが叫んだ。
「は、はい、ハデス博士」
 あわてて飛びあがると、ヘスティア・ウルカヌスがクェイルタイプの戦神アレスの肩のジョイントにバックウェポンを接続して合体した。ひざまずいて手を下げると、ドクター・ハデスをコックピットへと誘う。
 その間にも、完全に格納庫内に進み出たリーフェルハルニッシュが、おいてあったリカイン・フェルマータのイーグリットを、邪魔だとばかりに持っていたピルムムルスで払いのけるようにして倒した。大きな音をたてて、巨大なイコンが格納庫の床に激突する。折れて飛び散る頭部アンテナを、近くにいたシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)が素早い身のこなしで避けた。
 他の場所でも、シュツルム・フリューゲHが払いのけられて、床に突っ伏すように横転した。同様に、宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢がリーフェルハルニッシュに転がされて、プラーティーン・フリューゲルの手前までコロコロしていき、ぶつかって止まった。とてもイーグリットタイプとは思えないど派手な金色にピンクのモヒカンという喪悲漢そっくりの機体だが、その性能は侮れなかった。とはいえ、誰も乗っていない今は、ボール以下の扱いだが。
 奥の方に駐機してあったパラスアテナフォイエルスパーなどは今のところ損壊をまぬがれている。
「睡蓮、早くこちらへくるのだ!」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が、雷火タイプの漆黒の鎧武者である荒人の中から、紫月睡蓮に呼びかけた。近づいてくるリーフェルハルニッシュを、黒帝が前足を振り上げて蹴り飛ばす。胸部に馬蹄の跡を刻み、リーフェルハルニッシュが後ろへと吹っ飛ばされた。
 敵がバランスを崩して他のリーフェルハルニッシュにぶつかって倒れる間に、ガーゴイルに乗った紫月睡蓮が荒人のコックピットの中へと避難した。
「すばらしい、イコンなんてみんな壊れちゃえばいいのよ」
 状況をちゃんと把握しているのか、壊されたイーグリットを満足そうに見つめて、シルフィスティ・ロスヴァイセが叫んだ。そこへ、リーフェルハルニッシュが接近してくる。
『危ない!』
 瀬名 千鶴(せな・ちづる)が叫んだ。とっさに、間に入ったツィルニトラが、バインダーを前にして体当たりをし、リーフェルハルニッシュを横に押し飛ばした。素早く、ガネットランスを腹部に突き入れて止めを刺す。
『みんな、早くイコンの中に避難してください』
 ツィルニトラの中から、テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンが叫ぶ。
 言われなくとも、各人が自分のイコンに素早く飛び乗る。荒人とツィルニトラが、そのサポートをした。