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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第3回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
 突如遺跡が浮上したために、森林火災の避難民を集めていたベースは大混乱に陥っていた。遺跡に付着していた土砂や樹木が容赦なく降り注いでくる。
「大変なことになってしまいました。でも、たった一人では、大したことはできませんし……。とりあえず、美海さんたちが出てくるまでは、みなさんのサポートをしましょう」
 イーグリット・アサルトタイプのグラディウスに一人乗り込むと、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はそこで待機しながら周囲を警戒した。
 そのそばでは、巨大クワガタ兼定が、そばで見つけたセンチネルタイプのカレーゴーレムを大顎でにぎにぎしながら、龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)と遊んでいた。
 カレーゴーレムは、先にエメラルドのアイシクルランスを受けて損傷し、茨ドーム崩壊時に擱坐して放棄されたアーサー・レイス(あーさー・れいす)のイコンだ。兼定にとっては見慣れた玩具だったので、挟んで遊ぶのに抵抗はなかったらしい。
 だが、さすがに異常に気づいて、兼定が転がしていたカレーゴーレムを放して、龍心機ドラゴランダーと共に、浮上して移動を始めた遺跡を見あげた。
『ガオオオオオオオオオオン!!』
 龍心機ドラゴランダーの視線の先、遺跡の随所からは見慣れないイコンが次々と飛び出してきていた。状況からして、遺跡の中にいたイコンであろうから、各学校とは無関係のイコンということになる。およそ、味方には見えなかった。実際、戦闘らしき爆発音も、遠方から響いてきている。
「さあ、みなさん、早く飛空艇に避難してください」
 混乱の中、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)は冷静に避難民を大型飛空艇へと誘導していた。
 ここは、大型飛空艇で一気に安全な場所まで避難した方がいい。
 実際には多くの者がすでに大型飛空艇で世界樹に避難していたため、ある程度人数が減っていたのが幸いした。そうでなければ、多数の人々がパニックとなって収拾がつかなくなっていただろう。
「セレス、無事かあぁ!」
 あわてて戻ってきたアキラ・セイルーンが、なんとか人々の中からセレスティア・レインを見つけだした。
「アキラさん、よかった、戻ってこられたんですね」
「もちろんだぜ」
 心配するセレスティア・レインに、あたりまえだとアキラ・セイルーンが答える。
「ピヨは大丈夫か?」
「ええ、さっきまで、避難するみなさんの目印になっていました」
 セレスティア・レインの示す方に、避難用の大型飛空艇の前で翼をパタパタさせているジャイアントピヨの姿があった。見た目、まんまコロコロとした巨大な黄色いひよこだが、短い翼で自由に空を飛び、目からビーム、口からレーザー、ぽてっ腹で体当たりという意外に戦える……かもしれない巨大生物である。
「ピョォォォォォ!!」
 興奮したように、ジャイアント・ピヨが吼えた。
 地上に降りた敵イコンの一団が、このベースにむかって来ている。
「これ以上、この森をあいつらの好きにはさせねーぜ! 行くぞピヨ! 皆を! この森を守るんだ!」
『ピイィィィヨォォォォォ!!』
 アリス・ドロワーズと共に頭に飛び乗るアキラ・セイルーンに鼓舞されて、ジャイアント・ピヨが雄叫びをあげた。
「ヨンに連絡を頼んだぜ。すぐ近くにまで凄まじい枕を持ってきているはずだ」
「分かりました。連絡をとっておきます」
 アキラ・セイルーンに頼まれて、セレスティア・レインが答えた。
「よし、飛べ、ジャイアント・ピヨ!」
『ピヨ゛』
 一声あげると、アキラ・セイルーンとアリス・ドロワーズを乗せたジャイアント・ピヨが、アドバルーンのように空へと舞いあがった。
「あうあうあう、どうしたらいいんですぅ……」
 センチネルタイプのNight−gauntsの中に避難していた魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)が、迫りくるリーフェルハルニッシュをモニタで見てガクブルした。数機ごとに隊列を組んで迫ってくる様子は、見るからに怖い。
『あんなのとどうやって戦えって言うんですぅ。早く帰ってきてほしいですぅ!』
 遺跡の中へ入っていったフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)に助けを求めるが、それどころではないと門前払いされてしまった。どうやら、間違いなくあのイコンは敵らしい。だが、遺跡の中も、こちらに負けないくらい大変なことになっているようだ。
「いっそ、あんな物は見なかったことに……なんてできるわけないですぅ! こっちが無視しても、むこうからやってくるですぅ! ええいっ、止まってほしいですぅ!」
 半ば破れかぶれに、魔装書アル・アジフが空中に浮かんだ遺跡にむかって無限パンチを繰り出した。
 だが、へろへろっとのびたパンチは遺跡の外壁に弾かれ、だらんと地上へと垂れ下がってリーフェルハルニッシュの一機を上から叩いた。
「もう破れかぶれですぅ!」
 あわてて無尽パンチを引き戻すと、魔装書アル・アジフはミサイルを乱射していった。起きあがろうとしていたリーフェルハルニッシュが、近くにミサイルを受けて転がっていく。四肢が吹き飛び、あたりに部品が散乱した。
 
    ★    ★    ★
 
『そうだ。すぐに戻ってこい。パワードスーツでまともにイコンとやり合うのは危険だ』
 湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が、パワードスーツ輸送車からネフィリム三姉妹にむかって呼びかけていた。
 パワードスーツと言っても、ネフィリム三姉妹のものは純粋な戦闘用ではなく、高空ショー用の民生品だ。装甲も全身を被っているわけではなく、手足の先以外はほとんど生身がむきだしになっている。
『二人共、聞いたかあぃ? ここは撤退して、他の人のサポートですってぇ』
 遺跡の上で充分に高度をとりながら、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)が妹たちに指示した。ドーム状だと思っていた遺跡は、湯上凶司から見たら球体に近いらしい。だが、間近から見下ろしたそれは、その巨大さもあって中央部では充分に立てるほどのゆるい曲面にしか見えない。
『分かったけど、まだみんな中にいたりするんでしょ……。もう少し……きゃっ!』
 発光し始めた遺跡の外壁すれすれを低速で飛んでいたエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)が、突然何かに衝突して墜落した。遺跡の表面を、もんどり打って転がり落ちていく。
「大丈夫、エクス!」
 すぐさま駆けつけたディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が、なんとかエクス・ネフィリムの腕をつかんで助けあげる。
「しっかりしてぇ!」
 少しだけ遅れて駆けつけたセラフ・ネフィリムが、反対側の腕をつかんでエクス・ネフィリムを支えた。幸いなことに怪我はないようだ。
「いったいどうしたのよ」
「わかあんない」
 ディミーア・ネフィリムに聞かれても、エクス・ネフィリムはそうとしか答えようがなかった。
 確かに何もなかったはずなのだが、実際には何かにぶつかって弾き飛ばされたという感じだ。状況把握のために低速で飛んでいたので命拾いしたが、まともにぶつかっていたら今ごろはバラバラになっていたかもしれない。
「とにかく、ここは危険だからぁ。下に避難するわよぉ」
 青白い遺跡の光を受けながら、セラフ・ネフィリムが妹たちをうながした。魔装書アル・アジフがリーフェルハルニッシュを攻撃しているのを回避して、三姉妹が湯上凶司の許へとむかう。
 それと入れ違うようにして、リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)の乗ったS−01タイプの陽炎が上昇していった。
「無事戦闘域を離脱。これより、高高度からの偵察を行うわ。情報は、随時伝達してよ」
 敵からの攻撃を受けないと思われる高度まで上昇すると、リーン・リリィーシアは飛行形態の陽炎を遺跡上空で旋回させた。翼両端がやや下がった全翼機である陽炎が、センサーをフル稼働させる。
「受信は良好です。データは、こちらで処理して各機に中継します」
 ブルースロートタイプのマインドシーカーの中で、久我 浩一(くが・こういち)がリーン・リリィーシアに答えた。増設した頭部アンテナから、陽炎のデータが周囲のイコンや遺跡内の者たちにむけて発信される。
 現在の遺跡の移動スピードは、その巨大さゆえか、せいぜい人が歩く程度のスピードだ。だが、確実に世界樹にむかって進行している。
 これは充分に脅威だ。
 遺跡各部からは敵対勢力らしいイコンが大量に現れ、すでにイルミンスール魔法学校からの大型飛空艇船団と戦闘に入ったらしい。
「ん? この通信は……」
 久我浩一が、周囲に展開している各イコンから流れ込んでくる膨大な情報を整理しつつ、その中に希龍千里からの物を見つけた。
「戻って来ないから心配していましたが、中に取り残されていたんですか」
 安堵の息をつきつつ、久我浩一が中の現状を確認した。
『ええ、すでに中に入った人たちを誘導しますので、こちらへ迎えにきてください。こんなことは早く済ませて、のんびりと暖まりたいものですね』
「ええ。すぐにむかう……つもりですよ」
 答えてから、久我浩一は遺跡を守るように囲むイコンの群れを見て身を引き締めた。