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リアクション
★ ★ ★
ゴアドー島を巡る戦闘は、ゲートが間近に確認できるところまで推移し、参加艦艇もそのポイントに集結し終えつつあった。
「速ければ、いいってもんじゃないぜ!」
雪国ベアが、敵の殺気を看破し、的確に先制攻撃を実行していった。縦横に動くマフラーアームのパンチが、三六〇度の方向に動いて敵フィーニクスを叩き落としていた。
プラヴァー・ギャラクシーも、さすがに第二世代だけあって、アーテル・フィーニクスらと互角の戦いを繰り広げている。共にスコードロン同士の戦いとなり、秩序だった編隊のドッグファイトとなっていた。
敵味方共に、守るべき物はゲートであったので、戦線はゲート面に対して垂直ではなく平行面を中心として行われていた。
「防御シフト!」
援護射撃を加えつつ、アイランド・イーリが、バリアでゲートへの流れ弾を防ぐ。
これら秩序だった戦いと比べて、生体要塞ル・リエーと、合流をはたした機動城塞オリュンポス・パレスの戦い方は、自由奔放と言うよりも無茶苦茶だった。手当たり次第に、目のついた敵を攻撃していく。そのため、その攻撃はランダムで予想不可能だった。
「予想していたとはいえ、どうしてこうなりました」
問答無用で戦闘突入など、クールじゃないと天樹十六凪が頭をかかえる。
その目の前に、触手で敵空母を絡め取った生体要塞ル・リエーが、まるで供物を捧げるかのように突き出した。
「はいはい。こうですね」
仕方なさそうに、天樹十六凪が0距離で機動城塞オリュンポス・パレスの全砲門を開いた。まさに吹き飛んだ敵空母が、グラビティカノンで爆発すら圧縮されて消滅する。
「即時空域離脱だと!?」
「急ぎましょう、ベア」
突然アイランド・イーリのリネン・エルフトから避難指示を受けて、理由も分からないままにメカ雪国ベアやプラヴァー・ギャラクシーたちが従った。
直後に、戦闘域に飛び込んできた大型巡航ミサイルがカバーを開き、周囲にクラスターミサイルを振りまいた。
ル・アンタレス号からの攻撃だ。
「おいおい、一歩間違えたら、味方まで巻き添えだろうが!」
冗談じゃないと雪国ベアが吼えたが、結果として敵フィーニクス部隊がその攻撃でほぼ壊滅した。
最初の戦闘で生体要塞ル・リエーが敵空母を一隻落としていたため、残るはスキッドブラッド型軽空母一隻と機動要塞ナグルファルだけとなった。
ここぞとばかりに、鶺鴒とオリュンポスパレスが荷電粒子砲を放った。直撃を受けたスキッドブラッド型空母が飛行甲板を焼かれ、中で待機していたフィーニクスが次々に誘爆して爆沈した。
残るは、巨大なナグルファルだけである。奇襲をするはずが、はからずも逆に奇襲を受けてしまい、戦術も何も無茶苦茶のまま戦闘に入ったことがナグルファル側の大きな敗因となった。
だが、生体要塞ル・リエーとオリュンポスパレスを合わせたよりも巨大なため、簡単にというわけにはいかない。要塞砲の一撃を受けて、アイランド・イーリが、ぐらりと傾いた。
「バリア維持。損傷軽微」
ユーベル・キャリバーンが、すぐに機体の平衡を取り戻させる。
そのとき、背後のゲートに変化が現れた。
リング内の空間がゆらめき始める。
ゲートが開く。
「来たか。総員、ヴィマーナ移乗に備えよ。一気に奴らを殲滅するぞ!」
ナグルファルの指令が、ヴィマーナを待ちかねていた部下たちに告げた。
渦巻くゲート内の空間が漆黒の顎と化す。
真っ先にその中から飛び出してきたのは、小さな物体だった。
「受け取ってくれ、戦術データだ……」
通常空間に出たとたん、天城一輝の乗った小型飛空艇アラウダが応力による空中分解を始めた。
「何をやってるんだ」
急いで降下したメカ雪国ベアが、空中で天城一輝をキャッチした。
「全部隊に通達だよ。敵艦指定ポイントに攻撃を集中。押し出せ!」
素早く送られてきたデータに目を通して理解したヘリワード・ザ・ウェイクが、通信機にむかって叫んだ。
命令と同時に受け取ったデータのポイントにむかって、各艦が一斉に攻撃を集中する。
「その程度の攻撃でナグルファルを沈めるには一時間はかかる」
ナグルファルの指令が強がる。
「ここが、決めどきだぜ!」
柊恭也が、鶺鴒のコンテナを開いた。機体下部に、巨大なミサイル・ビッグバンブラストが姿を現す。
「吹き飛べ!」
発射された大型ミサイルが、ナグルファルの側面に当たった。
驚異的な耐久力でそれになんとか耐えたナグルファルであったが、爆発に押されて大きく押し出されてしまった。
強制的に移動させられたナグルファルが、ゲート正面に達する。
その瞬間、ゲートから何かが出てきた。
HMS・テレメーアの救命艇に乗ったイコンたちだ。その救命艇が高度を落として避難した直後、その後ろからゲートの大きさぎりぎりの巨大な銀色の球体が飛び出してきた。ソルビトール・シャンフロウの母艦だ。
あちこちから火花を噴き出した母艦が、通常空間に完全に現出する。
パラミタにいた者たちが唖然とする中、その母艦が加速した。
見れば、その後ろに土佐の副船体が突き刺さって全力噴射を行っている。
「大盤振る舞いだぜ。ありったけの弾薬ごと、くれてやる!!」
ゲートから姿を現した土佐中央船体のブリッジで、湊川亮一が言った。
その勢いのまま、母艦が中破したナグルファルに激突した。巨大質量同士が激突し、互いに潰し合う。母艦の推進器と化していた土佐の副船体がひしゃげて大爆発を起こす。その勢いで、母艦とナグルファルが押し出されてゆっくりと移動していった。
続いて、フリングホルニ、伊勢、ウィスタリア、ヒンデンブルク号、クイーン・メリー、オクスペタルム号、バロウズが飛び出してくる。残るは、HMS・テレメーアだけだ。だが、巨艦はゲートぎりぎりの大きさである。
「回廊完全崩壊まで、後三分!」
ローザマリア・クライツァールが、レーダーを見ながら叫んだ。
「間にあわないでございます!」
常闇夜月が叫んだ。
「いや、風は外にむかって吹いている。いい風だ!」
操舵輪を持ったホレーショ・ネルソンが、巧みにそれを操った。
速度を保ったままのHMS・テレメーアが、ぎりぎりでゲートを通り抜ける。
「ゲートのコントロールへ。通常空間に復帰しろ! 回廊が崩壊する!」
ホレーショ・ネルソンが叫んだ。
天城一輝のデータから準備を整えていたゲートコントロールルームが、回廊からの緊急離脱を実行する。回転するゲートシステムが、回廊内から抜け出て通常空間に復帰した。リング内の空間境界面が消滅して、リングの中にフリングホルニ側からゴアドー島の空港の風景が見えるようになる。
ヴィモークシャ回廊は消滅した。
「これで最後です。全艦、残ったすべてのエネルギーと砲弾・ミサイルを敵に撃ち込んでください!!」
フリングホルニの艦長席で立ちあがったエステル・シャンフロウが、その場にいたすべての艦艇・要塞・イコンに呼びかけた。
無数の火線が、混沌と潰し合ったヴィマーナ母艦とナグルファルに集中する。
グラビトンの重力子を巻き込んで、激しい爆発が、膨張し収縮し、膨張し収縮し、脈動しながら周囲に光を振りまいて消滅していった。
最後の閃光が一筋輝く。そして、後には何も残っていない空間が広がっていた。