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フューチャー・ファインダーズ(第3回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第3回/全3回)

リアクション


【2】


「ナンマイダ……ナンマイダ……」
 チーンと、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はコクピットに仏壇のように供えた愛竜キャロリーヌの遺骸に手を合わせた。
「あなたの無念はグランガクインが晴らしてくれるからね」
 自分の魂をキャロリーヌに託し、キャロリーヌの魂をグランガクインに託し、リカインは戦闘準備のため外に出た。
 彼女の去ったあと、ふわりとコクピットからケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)が転がり出て、司令部を漂った。
 が、漂っただけでケサラン・パサランがその後の戦局に何か影響を与えたりとかは特になかった。ふわりふわり。

”タマムスビドライブ”かぁ……」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は手前のコクピットのモニターを下から上に流れて行くシステム情報をつぶさに眺めていた。
「マズいよねぇ、このシステムだとダリルがパイロットになったら……」
「戦力は大幅ダウンする」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は言った。
「デスヨネー」
「俺には、強い感情が発生し得ないからな」
「強い意思じゃダメ?」
「ダメだな」
 すごい速さで画面を縦断する情報はルカにはちんぷんかんぷんだったが、ダリルには理解出来ているようだ。
「……しかし手はある。逆に俺にしか出来ない事が……」
「?」

「太公望隊長」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)は居住まいを正して敬礼をした。
「本作戦に臨むにあたりひとつ提案があります」
 近場のコクピットを操作し、正面の大モニターに近海の図面を出した。ミレニアムの沖合に光る点は太平洋の制海権を握るメガフロート要塞だ。
「作戦はこうです……」
 白竜が説明をしていると、ふと自動扉が開いた。
 現れたのは黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)だった。
「黒崎さん」
「やぁようやく会えたね」
 天音は微笑を浮かべ、それから太公望を見た。
「こちらも久しぶりだね」
「黒崎……アマちゃん。驚いたな、本当にあの時のままだ」
「スーさんは好い男になったね」
 事務方を務めていた学生時代の、かつて”鈴木”と呼ばれていた頃よりも、背は高く、肌は黒く、瞳はぎらぎらと野性味に溢れている。
 けれどスーさんの面影を、天音には見つけることが出来た。
(きっと苦労したんだろうね……)
 目を細め、感慨深く見つめた。その手を伸ばそうとしたその時、手に数字気付き手を止めた。
「ゆっくり話したいところだけど残された時間があまりないんだ」
「そのようだな」
 太公望も残念そうに肩をすくめた。
「さっそくだけどスーさん。僕らと一緒に来たメルキオールがどこにいるか教えてもらえないかな」

「メルキオールはきっと人目につかない場所よ」
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は思った。
 もしメルキオールが大っぴらに都市にいるなら、ちょっとした騒動になってるはずだ。ではこの町で人目につかない場所とはどこか。それはやはり教団の施設だが、もし彼がそこにいるとなると余計に大騒ぎになる気がする。
 となると……。
「サルベージ組合がクサイわね……」
 聞けば教団傘下の組織でありながら独立したところもある。怪しい。
「本当にいるんですかぁ……?」
 ブツクサ言いながら、月詠 司(つくよみ・つかさ)はシオンに連れられ、組合本社に忍び込んだ。
 しらみつぶしに、それでいてこっそり社内をまわり、見つけた。
 小さな部屋に、メルキオールは椅子に縛られた状態でいた。
「……あ、ゴハンの時間デスカ?」
 メルキオールは目をきらきらさせて、こっちを見た。
「あら、随分素敵な格好ね」
 シオンは意地悪く笑うと、スパイセットをこっそり回して、撮影を始めた。後でからかうために。
「残念だけど、ワタシ達はごはん係じゃないの。アナタの意志を確かめに来たのよ」
「イシ?」
「アナタ、ここに来る前に言ったわよね、ナンバーゼロの脅威を防ぐために協力するって」
「……あ!」
 その言葉で、メルキオールは思い出した。
「そうデスヨ! ワタシはナンバーゼロが送られるのを阻止するため、ココに来たんデス。こんなトコロにいる場合じゃないんデスヨ」
「……その言葉、本気?」
「モチのロンデス」
「”ふーん、でもぉそんな緊縛プレイ中に本気とか言われてもぉ、説得力がないって言うかぁ”」
「……な、なんです!?」
 司は慌ててくちを押さえた。
 今のは司に寄生する花妖精ミステル・ヴァルド・ナハトメーア(みすてるう゛ぁるど・なはとめーあ)が勝手に喋ったものだ。
 けれど記憶障害のため、彼女の存在を忘れてる司はただただ困惑である。
「くちが勝手に……?」
「だからそれはアナタの内なる声よ」
 シオンはそう言った。
 もうネタバラシせず、司をおちょくり続けるようだ。
「だからアナタはオカマの花妖精なんだってば」
 その言葉は司の上にガガーン! と重くのしかかった。
「それが真実。真実なら、受け入れられるはずなのに、何故でしょう……こんなにも認めたくない気持ちが、胸の奥からどんどん湧いてくるのは……」
「おや、先客がいたんだ」
 そこに天音とブルーズが来た。
「今度こそゴハンデスか?」
 メルキオールはまた目を輝かせた。
「ごはんではないけど、差し入れは持ってきたよ」
 沿道の屋台で買った、祝祭名物”聖なるイカ焼き”を見せると、彼はエサをねだるヒナのようにくちをパクパクさせた。
「はふはふはふぅ」
「よく噛んで食べるんだよ」
「……アナタ達もメルキオールに用が?」
 シオンは尋ねた。
「うん、こんなところに置いておいたら、戦いに巻き込まれそうだしね……油断ならない人間なのは重々承知の上だけど、ここで死なせたくはないんだ」
 目配せすると、ブルーズが彼を縛る縄を切った。
「オオ、自由とはなんとスバラシイことなのデショウ。翼をもがれた鳥が再び大空に羽ばたいたような、深い感動に身を震わせておりマス。アリガトウゴザイマス。このご恩は忘れマセン」
 大げさに感謝を示すメルキオールを横目に、天音は言った。
「……それに、訊きたいこともあるしね」